アトミラの町と闘技場の秘密
第14話 黄のガーディアン
アトミラの町に到着しようとしていた。マーディ達一行とアティア達一行はメインの任務は同じだが役割が違うため途中の道で分かれ、今はマーディ達のパーティだけでアトミラに向かっていた。
山腹のキャンプ地で早朝に出発し、今は山間部を抜けてアトミラの町の家々がポツリポツリと見えてきている。
空は夕方で赤く染まっており、太陽はまだ沈まないまでも地平を降りようとしていた。
「待て」
ディミル・シューバートが片手を上げ、皆に知らせる。
「何かおかしい」
その言葉に、残りの三人も警戒を強めた。
マーディ達パーティの進行方向から霧が立ち込めた。朝にキャンプ地を覆っていた霧とは違い、まるで意思を持つようにマーディ達の周りを取り囲むように立ち込めた。
「なんだこれは?」
マーディが焦って口を開く。
「武器を抜いておけ」
ディミルは言うと片手斧を持ち、パーティもそれぞれの武器を持った。
霧は深くなっていき、目と鼻の先も時間差で襲ってくる靄で認識が怪しくなった。マーディは目を凝らしていると、その一団は現れた。
白を基調とした黄色い刺繍の入った服装をした複数の人物たちが靄の中から現れた。
「何者だ!」
マーディは声を大きくして話し掛けたが、黄色の集団は答えなかった。
「待ってマーディ。彼らはテラ教会の者たちだ。敵ではないと思う」
ディミルは言うと、一歩前へ出て黄色の集団に言葉を発する。
「私たちは魔法アカデミーから来た!そちらの任務を受けて来たのよ。決して敵ではなく、仲間だわ。ちなみに私もテラ教会の人間で、あなた達と同じくガーディアンよ」
一瞬の間、ディミルはもう一度口を開こうとしたとき、黄色い一団からかき分けるようにしてやってくる女がいた。
肩まで伸びた薄紫の髪、集団と同じ服装だったがその女にだけマントがつけられていた。そして、集団をかき分けてきてディミルの目の前まで来ると、無表情のまま、話を始めた。
「魔法アカデミーの、調査任務のパーティ。っという事でよろしいですか」
「はい、そうです」
ディミルは答えるが、その言葉は少し緊張していた。
「失礼しました。霧を解除しましょう」
女は言うと、真上を向く。渦を巻くように霧が上空に吸い込まれていき、やがて霧は消えた。
「私はハイガーディアン、ユカ・ローニスと言います。ご無礼をお許しください」
ユカ・ローニスは言うと頭を下げ、再びディミルたちを視界に捉えると言葉を続けた。
「最近町の近くで
「いえ、そんなことは。警戒をするに越したことはありませんから」
ディミルは言うと、ユカ・ローニスは思い出したように表情に変化をつけ、笑顔で言った。
「では立ち話もなんですから、アトミラにあるテラ教会にまず向かいましょう。その後に、みなさんがこの町で寝泊まりする宿屋に案内しますので」
ユカの言葉に甘え、パーティの四人はテラ教会まで案内されることになった。
そして、教会に向かいながらアカデミーのパーティ一行は自己紹介していき、神技使いは誰かと聞かれマーディは自分だと答えた。
「あなたが、神の祝福を受けた奇跡の転生者。会えて光栄です」
アトミラの町に入り、石畳の街道を歩きながらユカはマーディの隣を歩きながら言った。
「いえ、そんな大層な物ではありませんよ」
マーディは謙遜するように言ったが、その言葉は本心だった。
「あなたは自分の力の価値が分かっておられないようだ」
赤い夕焼けが家々の黄色い屋根を絵の具の様に染み渡らせていく。ユカは表情を動かすことは無かったが、赤く燃えるような顔は、情熱とは違う冷静でいて情動の塊のようなものをマーディは感じ取っていた。
「確かに、自分の力の価値は、正確には理解していないかもしれない。だけど、この力は正しく使いたいと思っている」
「正しい物の見方を、あなたは転生したばかりだと聞くが、その知見はおありなのですか」
ユカの言葉に、マーディは首を横に振らざるを得なかった。
「あるとは言えないよ。転生する前の記憶があったのか、元から空っぽなのかはわからないけど、経験は不足している」
「そうですか、正直な方だ。少し、あなたに対して好意的になりました」
ユカの無表情の言葉にどう反応していいかわからず、マーディはありがとうとだけ返事を返すしかなかった。
「あなたにとって、僅かでもその力を使うヒントになることを願って。少し昔話をしましょう」
「昔話?」
「ええ、私の生い立ちを少々」
ユカ・ローニスはマーディから目線を外すと、街並みへと移す。
「私はこの町、アトミラの出身です。昔は両親に良く甘えていました。わがままを言って困らせていました。そして、一匹の犬を、最初は反対されましたが何とかねだって飼ってもらえることになりました。名前は両親と一緒に考えてケルと名付けました。よくケルを散歩に連れて行きました。そんな私の様子を見て、両親は笑顔で微笑んでくれました。そして、ある日、いつも通り私はケルと散歩に行きました。その時、何を思ったか私はいつも通っていた散歩のコースの道から逸れ、遠回りしたのです。何気ない行動でした。今から考えれば、虫の知らせなのか、神の奇跡か、気まぐれか・・。とにかく、いつもより遅い時間に帰りました。怒られると思い、恐る恐る家に入ると、中は、この夕日の様に、真っ赤に染まっていました。奇麗な赤だと思いました。私は泣き崩れる事しかできなかった。いつのまにかケルはいなくなっていました。その日から、ケルとは会っていません。そして、私はテラ教会に拾われたのです」
「なぜ、両親は。原因は何なんだ?」
「竜名残ですよ。アトミラでは有名な惨殺事件です。私が言いたいのはね、力とは、使いたいときに使うものなのです。タイミングを失えば、力を使う理由そのものが、失ってしまうことになる」
「力を使う理由・・」
「話が長くなりました。さあ、ここが、アトミラのテラ教会です」
黄色く、丸いレリーフが特徴的なテラ教会の前に立つと、ユカ・ローニスは言った。
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