第12話 闇の調和

 マーディ達一行は用意された馬車二台でアカデミーを朝から出発した。アカデミーから東にあるアルマト山の麓を通り、巨大な草原地帯から山脈の入り口まで来ると、夕方になっていた。



 近くにあるアカデミーが契約している厩舎に馬車を預けると、徒歩で山脈を登った。申し訳程度の舗装された山道を登っていると、完全に日は沈み、近くでキャンプに適した空間を見つけると、そこが今夜の寝床となった。



 料理は得意だから私に任せて!っとロミ・クライセスが自信満々に言うので任せることにし、他の者は焚火に適した木や寝床になるテントなどを張ったりそれぞれの仕事をこなした。



 リーゴ・トミナが木から大きな鍋をつるし、火の準備を整えた。そして、ロミにバトンタッチし、調理の準備を始めた。まず火にかかった鍋で肉や野菜を炒め簡単な味付けをし、残りの野菜を入れて混ぜ合わせた。そして水を入れて少し待つと、ベースとなるソースを入れ、残りの味付けに調味料を入れて弱火でコトコト煮込むと、美味しいシチューが出来上がった。



「できたよー、どうぞお食べー!」

 ロミは元気よく言うと、続々と木のお椀の中にシチューを入れてそれぞれ食べ始めた。



「うん、美味しい」

 マーディアス・グローは柔らかい肉をほおばりながら言った。



「えへへへ、それほどでもある」

 少し照れながらもロミ・クライセスは自信満々な瞳を輝かせながら言った。



「確かに美味しい。外の野営でこんなおいしい食事をとれるなんて、すごい贅沢だわ」

 ディミルも驚きながらも、スープをすくったスプーンで美味しく口に運んだ。



「どれどれ、提供したお肉はちゃんと美味になっていますかね」

 アティア達別パーティも、すぐ隣にキャンプを設置しており、食事は一緒に取ることになっていた。



「おおー。これはこれは」

 アティアが味を疲れた体に染み渡らせていると、隣で食べていたバザ・ユガルタが言葉を発する。



「おい・・しい・・」

 金髪ショートカットの髪を少し揺らしながら、バザは猫の仮面を横にずらし、スープがなみなみ入ったお椀を口に付けて思わず呟いていた。周りの視線に気づくと、幼さの残る顔の頬を赤らめる。



「すまんすまん、無口なお前が思わずうなるほどのおいしさと言うことだな」

 ハッハッハ!っと年相応にない笑い方をするアティアに、皆の視線が移り呆れかえっていると、バザが心の中で密かに謝罪と感謝をしていた。



「あとどれくらいで着くんだ?アトミラには」

 リーゴ・トミナが苦手な野菜を渋い顔で食べながら言った。



 完全に日が沈んだ闇の中で、焚火の火を鎧に反射させながらベレグラムは答えた。



「明日の夕方には到着する予定だ」

 アティアに聞いたつもりが予想外の人物から返答が返ってきたので、リーゴは少し畏まりながら了解ですと返答した。



「ベレグラム、お前もうお椀の中空っぽじゃないか」

 アティアはベレグラムのお椀に気づくと驚き思わず言った。



「うむ、美味しかったぞ」

「兜も外してなかったよな。いつの間に食べたんだよ・・気味の悪い」

 アティアがゾッとするような顔でベレグラムを見ていると、シチューを平らげたマーディが疑問の口を開いた。



「そういえば、アトミラの町とはどんな所なんだ?」

 マーディの言葉に、ディミル・シューバートが答えを与える。



「地味な町よ。戦士の町とか言われてたのも100年以上も前の事。今はコウの聖女の派遣地域の一つとして細々と生き永らえているだけね」

「黄の聖女と言うのは?」

「えーっとね。テラ教会は大聖女をトップとして、その下に12人の聖女がいるの。その中の一人が黄の聖女ね。私はその聖女を守護するガーディアンって言う役目を務めてるの。本当は黒の聖女の守護が任務なんだけど、今はアカデミーの派遣員として働いているわ」



 後でガーディアンについてマーディはディミルに詳しく聞いた。ガーディアンとは聖女を守り、その意思を世界に広める役割を持つ者たちであるのは先ほど説明したとおりである。そして、ガーディアンにも階級があり、下からガーディアン、ハイガーディン。そして聖女に対して一人だけが担うことができるキャプテンガーディアン、つまりキャプテンガーディアンは世界で12人しかいないという事だった。



「そう、こやつの黒いローブは黒の聖女に仕えているゆえだ。12人の聖女はそれぞれの色を持っている。その下に仕えるものも自ずと同じ色の服装になると言う事よ。マーディ達に任務の説明をした司祭は黄色が入った服装をしていただろ?つまりマルティオ司祭は黄の聖女に仕えているということだ」

 アティアの補足説明になるほどと顎に手をまわしながらマーディは言った。そして、アティアはディミルに言葉を投げかける。



「して、ディミルよ。お前は確か、アトミラの出身だったようだが」



 ディミルは警戒するようにアティアを捕捉し、目を細めた。



「よく知っているわね。この任務が始まるまで一度も接点がなかったのに」

「別パーティとはいえ、同じ任務を受け持つ者同士だからな。一応個人の情報はある程度調べるさ」



 アティアの言葉にロミ・クライセスが驚く。



「えー!そうなの!?じゃあ私たちも?」

 ロミがリーゴに視線を送りながら言った。



「お前たち二人は同級生だろう。いちいち調べなくてもすでに知っている」

 確かにとロミが納得するのを見届けると、アティアはディミルに向き直る。



「それで、アトミラの出身だからとお前がパーティに選ばれたのか」

「出身と言っても、生まれた場所ってだけよ。アトミラで竜名残リュウナゴリの惨殺事件があって両親が亡くなり、赤子だった私は教会に拾われた。ただそれだけよ。血縁関係や知り合いは一人もいないし、正直故郷に戻るという感慨は無いわ。たぶん、たまたまアカデミーで配属されていたってだけね」

「それでも故郷があるのは羨ましいな。俺には何もないからな」

 ふと口にしたマーディの言葉に悲壮感はなかったが、当然のことのように話す事にディミルは困った表情を作るしかなかった。



「そう嘆くな、マーディ。お前にもいずれ故郷はできるさ。これから歴史を作ればいい」

 アティアは立ち上がりながら言うと、大きな口を開けて欠伸をする。



「さて、馳走になった。いつのまにかベレグラムもバザも自分のキャンプに戻ってるし、私も戻るとするよ」

 片手を上げて左右に振ると、アティアは自分の寝床へと歩いて行った。



 マーディはふと、上を見上げた。雲一つない夜空に満天の星空だった。自分の故郷がこれからできるのか、見つけることがあるのだろうか。星々を見つめながら淡い思いと、焚火から上がる煙に希望を預けるのだった。

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