アカデミー訪問

第7話 地下の思惑

 遠くから鐘の音が聞こえる。長らく続いていた平地から西側に自然豊かな山がそびえ、東側には水平線が見える巨大な湖が鎮座していた。その二つに挟まれるようにして盛り上がる様に丘があり、その丘に魔法アカデミーと呼ばれる建物が馬車の窓から見えた。



「あれが魔法アカデミー」

 丘の上にある巨大な校舎を見上げながら、マーディは呟いた。



「素晴らしい建物だろ」

「建物と言うか・・」

 生徒会長の言葉にマーディは驚きの表情を浮かべた。



「あのでかい木は何だ?」



 マーディの驚きの顔に満足そうに生徒会長は頷いた。巨大な一本の木がアカデミーの建物に纏わりつくように生えていたのだ。とても異様な光景でまるで建物全体を飲み込んでいるようにも見えるのだ。恐怖すら感じたマーディだったが、ワクワクした期待感の方が勝った感じだった。



 馬車は正門を通り過ぎると、鮮やかな桜咲き誇る木々に囲まれた道へと出た。



「今は晩夏だが、春に咲く桜が咲き誇っている。分かり易いアカデミーの力の象徴だ」

「力の象徴?」

 アティアの説明にマーディは疑問を投げかける。



「アカデミーの庭には季節にちなんだ植物がわざと植えられている。その見えているバカでかい神樹と呼ばれる力の恩恵でな」

「神樹・・あのでかい木が」

「長老どもはその神樹を神話の時代の代物だと言っているが、本当の所はわからん。とにかく、神樹はアカデミーにとっては無くてはならないものだ。事実、色々な恩恵を我々アカデミーに所属するものは受けている」

「確かに。アカデミーの象徴は神樹と言っても過言ではない」

 アティアの言葉に同意するように生徒会長は言った。



 建物の玄関前まで来ると箱馬車が止まり、生徒会長が下りてマーディにも降りるよう促す。



「君もここで終点だ」

 わかったと返事をすると、マーディも馬車を降りた。



「私たちはこのまま学生寮まで行って荷物を置いていく。報告を頼んだぞ、生徒会長」

 アティアの言葉に、生徒会長はヘルムでコクンと頷いた。



「ではマーディ、ご武運を。行ってください」

 ミランヌは言うと、アティア共々馬車と行ってしまった。その様子を見送るマーディだがミランヌの言った言葉が引っ掛かった。



「ご武運を?」



「では行くぞ、マーディアス・グロー」



 マーディは生徒会長の言葉が少し厳しくなったような気がしたが、気にしないようにしながら校舎の中について行った。



 建物の中は外の様に豪華絢爛なイメージとは対照的に、とても使い古された物が多い印象だった。玄関に入ってすぐに巨大なオブジェがあり、左右二つの廊下に分かれていた。その廊下から左手を生徒会長と共に歩くと、左手にある渡り廊下へと赴いた。



「地下?」



 渡り廊下の先の建物に入り、突き当りまで行くと地下へと続く階段があった。



「さあ、行こうか。今から会うのは偉い人ばかりだから、余りはしゃがないようにな」

 生徒会長は注意するようにと人差し指を立てて強調すると、階段を先に降りて行った。そのすぐ後ろをマーディも続いた。



 長い階段を降り、すぐに石でできた重そうな扉を生徒会長は難なく開け、長方形の部屋へと出た。



「では、ここで立って待っているのだ。色々質問されると思うから、正直に答える事。私は少し部屋を出るがすぐに戻る。では、一旦失礼します」

 マーディの疑問に有無を言わさず生徒会長は一方的に話し、最後の言葉は遠くの誰かに喋りかけるようにひときわ大きな音を発すると、部屋を出て行った。



 そして、静かな静寂が訪れた。



 部屋には3つの椅子しかなく、窓もないので壁に駆けられているロウソクしか明りの頼りがなかった。



 薄暗く、ひんやりとした温度に不安を掻き立てられる。しかし、今できることは待つことだけだと判断し、マーディは待ち続けた。



 部屋を出たい誘惑が沸き上がるころ、ガチャリと扉が開く音が聞こえた。生徒会長が戻ってきたのかと後ろをマーディは振り向くと、凛とした厳しい瞳を持つ、眼鏡をかけた知らない女性が入ってくるのが見えた。



 その女性はマーディに声をかけることは無く、無言で部屋に入ると椅子の上に手の平を差し出して、少量の砂をサラサラと振りかける。それを両端の椅子の上でおこなうと、次に部屋の隅にもう一度砂を置くと、真ん中の椅子へと赴き腰かけた。



 女性は小さなリング状の金属を取り出すと言葉を放った。



「回る回る、砂のロンド」

 言葉と共にリングが浮き、一瞬光る。そして、置いてあった砂の粒がリングの中心、つまり何もない穴にゆっくりと集まっていく。



「君よ、目を瞑った方がいい」

 冷たい音程で女性が言うと、砂があらゆる方向へと飛び散った。マーディは何とか助言通り目を瞑り、腕でも顔を覆った。



 そして、マーディが腕を下ろし、目を開くと4人の人物が目の前で存在していた。



「さて、諸君。始めようか」

 リングをしまった真ん中の女性は再び、冷たく抑揚のない言葉で言った。


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