第4話 一筋の出会い
玄関とは逆の方向にある館庭にマーディ達4人は赴いた。
館側には形の整った花壇が敷き詰められ、その周辺を竜を模った石像が等間隔に置かれていた。
噴水のある場所までマーディアス・グローとカーリス・メティは移動し、少し離れたところ、つまり花壇の近くでアティア・ステイスとトウマ・グレンはそれぞれ配置についた。
「そろそろ教えてくれ。神技とはなんだ?」
マーディは庭についたら話すと言ったアティアに話し掛ける。
「そうだな。神技とは先ほど言った通り神の如き技。神の力に近づけた者だけが到達できる領域。まさしく奇跡と言うべき所業。人間には到底到達できないとされる」
「それを俺が使ったと」
「そういう事だ。神技に到達できたものはここ何十年、下手をすれば100年以上現れていないかもしれない。それを君は転生して間もないまま、使えてしまった」
アティアの言葉をカーリスが繋げる。
「お前が神技を使った時、七色の光が出ていた。まさしく伝説に聞く虹の光だ。神技特有の発光現象。確認させてもらうぞ」
「なぜわざわざ戦う必要がある?」
カーリスから感じる戦意にマーディは物怖じしてしまいそうになっている自身に気づき、回避行動でつい聞いてしまう。
「私が戦士だからだ。技を極めようとするものは、誰でも神技に憧れを持つ。それを転生者だかなんだか知らんが、いきなり簡単に使えてるなど、納得がいかん!」
カーリスに習い、アティアも言葉を繋ぐ。
「私も再度確認したい。アカデミー生として、いや・・一人の人間として、もう一度神の一端を」
「だから!神技、始めようかぁ」
マーディアスに指をさしてカーリスは言い放つ。
「わかった・・」
マーディは観念すると、渡された剣の鞘から刃を抜き、深く深呼吸する。剣を抜くという行為を合図として、マーディは自分に言い聞かせ、意識を集中させようとしたが、簡単に自らの願いは叶った。
マーディアス・グローの体から虹の光が一瞬迸る。
「あっさりと、簡単に発動できるものだな。マカイも使わずに」
「そうですね」
アティアの呟きに、いつの間にか隣に立っていたアティア・ステイスの護衛であるミランヌ・ガルニディが返事をした。
「マカイも使わずに魔法現象を発動させるなんて、ありえないです」
「そう。神技というものがマカイを必要としないのか、或いはマーディ特有の物なのか。どっちなんだろうねえ」
カーリス・メティは歓喜の笑いを示す。
「面白いぞマーディ!さあ・・私も準備をしよう」
カーリスは言うと、精神を集中させる。
「全てを断ち切る希望を!」
マカイの言葉を述べると、カーリスは続けて魔法を発動させる。
「武具転生」
カーリスの言葉に、目の前に黒い渦が広がり大剣が転生され、その大剣をカーリスは握る。
「いくぞマーディ。我がギロチン剣術を味わえ」
言い終わると、カーリスは飛び上がりマーディの上空へと位置する。そして、上昇から下降へと移る瞬間、キラリと大剣が光ったと思うと気づいた時にはマーディの後ろへと高速に移動し、大剣を振り下ろしていた。
マーディはただ訳が分からず、両腕を交差させている。その体には傷一つついていない。
「普通なら、今ので首を切られている」
トウマ・グレンは言う。
「刃が到達する前に、光の壁が弾いていた。粗暴だがカーリスは大剣の使い手であり、一流の剣士だ。その剣技がまったく効いていない。アカデミーの主戦力だぞ!?」
アティア・ステイスは困惑するような言葉を並べていても、口元は笑みを零してしまっていた。
「やはり、そう簡単にはいかねえか。なら次だ」
カーリスは言うと、大剣を振り回してマーディを襲う。何度も、何度も刃の塊をぶつけるが光の壁に拒絶されるだけだった。
あらゆる方向から攻め立てるため、竜の石像や花壇やら周りのオブジェがボロボロになっていく。
「いいのか、アティア。ここは亡き兄の」
トウマが言い終わらない内に、アティアはあっけらかんとして返答をする。
「別にいいさ。非道な行いの上で飾り立てられた物に、価値などない。いっそ壊してくれた方が気が晴れるってものだろう」
アティアに同意してミランヌは言葉を重ねる。
「そういう事です。そんな事より、いつまでこの戦いは続けるのですか?もう決着はついていると思いますが。言っては何ですが、最初から勝負にすらなっていない」
「スイッチが入ったら止まらないからな・・」
トウマ・グレンの言う通り、カーリス・メティは攻撃を止めない。より一層激しさを増していた。それでも、マーディアス・グローには全て届くことはなかった。
「いくぜ。ギロチン剣術の秘技を見よ」
カーリスは大剣の刃に触れると、強く発光する。
「公開の場、慈悲無き狐達」
大剣を掲げてカーリスは言葉を発すると、刃から複数の弧を描いた魔力の物体が放たれる。マーディはそれを避けることなく、受け止めた。
「もういい加減にしてくれ」
光の衝撃波を放ちながらマーディは呆れながら言った。まともに食らったカーリスは吹っ飛び、竜の石像を瓦礫に変えた。
「くそつえー・・。その力、神技ってのも半信半疑だったが、本物っぽいな・・。普通なら勝てねえ。誰もが諦める・・だが私は違う!」
「まさかあいつ・・呼び出すつもりか」
トウマはカーリスの様子に青ざめる。言うなれば任務外の戦いで許可が出ていない事をやろうとしているのだ。マーディにやられた一発分があるとは言え、今更戦いに反対するべきだったと後悔した。
「私も本気を出す。だから、お前も本気を出せ」
カーリスの言葉にマーディは勝敗は分かりきっているはずだと首を傾げた。
くせっ毛のある赤色の長髪を風に靡かせながら、カーリスは神経を片手に集中させてその手を地面に向けた。
「封印・武具転生・・解除。来い!英雄武器、ムラマサ!!」
「12の英雄武器の一つであるムラマサを使うのか。アカデミーで封印されている物だぞ。使っていいのか?私は知らんぞ」
頭を抱えているトウマを尻目に、アティアは困り顔で言った。
カーリスの下げている手の先で黒い渦が広がり、大剣の時とは違い黒い帯状の光のようなものが幾つも漏れ出し、そこにムラマサであろう柄の部分が見えだした頃、それは起こった。
一瞬の間。
館庭周辺を真っ白い輝きで覆いつくされる。
それは美しき白い調べ。
武具転生の魔法現象である黒い渦は強制的に中断され、呆気にとられたカーリスの足元には美しい装飾が施された一筋の白い槍が刺さっていた。
眩しさに目が慣れだしたアティアが槍を見つけて面倒そうな顔をする。ミランヌも同じく見つけると口を開く。
「あれ、生徒会長の槍ですよね」
「輝きの槍だ。後で怒られるなこれは」
地面に突き刺さっていた白い槍は青白い光と共に霧散する。そして、庭にいる五人に声が響く。
「諸君、ごきげんよう」
その言葉にマーディは上空へと顔を向けると、今まで何もない空だった所にそれは存在した。
細身の全身鎧。片方の肩には品のある片側だけの白いマントが垂れ、胸や腰も優美な布に覆われていた。そして何より顔の部分の兜が一つの歴史ある彫刻のように美しく、鳥のように優雅なフォルムを表していた。
そのフルメイルは籠った声の音を発する。
「驚かせてすまなかったが、英雄武器の解除は強制的に中断させてもらった。今回の任務において申請されていないのと、今の戦いにおいて続けていれば怪我ではすまない結果になっていたかもしれぬのでな」
銀色の美しき鎧の塊である生徒会長は喋りながら、ゆっくりと空中からマントを波打ちながら地面に舞い降りた。
「余計な事をするな!戦術員である私にたてつくのか」
怒りのあまり口を滑らしたカーリスにトウマは溜め息を吐く。
「確かに貴様は戦術員だ。魔法アカデミーの中の教育隊員である神樹隊から能力の秀でた者だけが選別され、晴れて戦術部隊に配属される。そして私は神樹隊所属だ。して、私が貴様より階級が下だと?」
緊張感のある音を生徒会長は放ち、カーリスは舌打ちをして引き下がるようにして大剣を武具転生で転生させて仕舞った。
生徒会長はマーディアスにヘルムを向ける。
「だが、ミランヌに色々と来る途中で報告を受けていたが、カーリスの意思も理解できる。それでだ、私と戦え。マーディアス・グローだったか」
生徒会長の言葉に、ヤケクソ気味にマーディの体から虹色が迸る。
「ズリーぞ生徒会長!」
「散々戦ったではないか。次は私の番だと思わんかね」
カーリスの不平を一蹴すると、生徒会長は銀色の両手を一瞬広げてマントを靡かせた。そして、人差し指と中指だけを突きだし、二回往復させる。
「さあ、マーディアス・グロー。お前の持つ神技でかかって来い。一つ忠告をしておくが・・」
生徒会長とマーディアス・グローは対峙する。粗暴な戦いの跡の乱れた館庭に、威厳ある金属の塊と生身が臨戦態勢をとる。
「私は強いぞ」
鎧に言われ、息を吞むマーディから自然と虹の光が発し、散っていく。
生徒会長は片手を上空に上げる。
「輝きの槍」
呟くと生徒会長のヘルムの真横を白い槍が横切り、マーディ目掛けて飛び立つ。
マーディアス・グローの目の前で白い槍が空中で何かにぶつかる様に止まり、光を飛び散らせながらマーディ自身の真後ろに、行き先を見失った槍が捨てられるように墜落する。
生徒会長は上空に向けていた片手を前方に突き出して言い放つ。
「暗闇の槍」
黒い線を残しながら2本の槍がマーディを襲うが、見えない壁にぶつかった後に黒い靄を僅かに発生させて、金属同士がぶつかった後に起こる光を地面に落としながら槍自身も落ちる。
「月と太陽の槍」
生徒会長は突き出していた左手を納めると、体を1回転させて逆の右手を勢いよく突き出した。白と黒の二本の槍が、二羽の鳥のように距離を縮めたり離れながらマーディアスの目前まで飛び立つ。だが、前例に倣うように地面へと落ちる。
「天と地の槍」
舞うように回転し、生徒会長は低い姿勢で左手を突き出す。茶色と青色の二本の槍は外に膨らみながら飛び、マーディを挟むようにぶつけるが、呆気なく回転しながら地面にクロスして突き刺さった。
傷一つ付けられていないマーディだったが、精神的に追い詰められたのか、それとも神技の発動限界を感じたのか。どちらにせよ技の鋭い重みに耐えきれず、反撃を開始しようとマーディは生徒会長に向かって走り出す。光のエネルギーを放つことも考えたが、自身の体が限界を感じ、放つことを恐れたためだ。
向かってくるマーディに対し、生徒会長は変わらず槍を放ち続ける。
「銀の槍」
左手を開き優しく上に向けて言葉を述べると、生徒会長の上げた手の先から10本の槍が上空に飛び立つ。
「鉄の槍」
先ほどと同じく右手も同じ動きを見せ、生徒会長から槍が10本放たれた。
銀と鉄の槍が20本、空から降ってくるのを受け止めながら(実際は光の壁に弾かれながら)、マーディは生徒会長に駆ける。
雨のように次から次へと降り続ける中で、懸命にこちらに向かってくるマーディを見据えながら生徒会長は思わず笑みを零すように息を吐いた。
「ミスリルの槍、オリハルコンの槍」
20本の槍を翼のように背中に広げながら、生徒会長は言葉にした。そして、左手を勢い良く突き出すと10本のミスリルの槍がマーディに向かって放たれる。すかさず右手も前に突き出し、10本のオリハルコンの槍をマーディに向かわせる。
でたらめの様に槍が地面に突き刺さっていき、走るマーディの邪魔をする。邪魔されるたび剣で振り払い進んでいく。しかし、あと一歩の所で最後の一本の槍が地面に突き刺さり、その槍にマーディはぶつかりそうになり手で防いだが足も止まってしまった。死の一文字が一瞬頭に過ぎる。
「私の負けだ、槍が尽きた」
生徒会長が平然と言い放った。マーディはキョトンとした顔でただただ汚れ一つついていない鎧を見ることしかできなかった。
「嘘を吐くな。槍が一本復活してるだろ」
アティアは言いながら上空を指さす。その指先につられる様にマーディは顔を向けると、美しい装飾の施された一筋の白い槍が空中に存在していた。
「俺の負けだ。強いな」
「いや、勝負はつかなかったよ」
生徒会長は言い終わると、上空に待機していた輝きの槍がマーディ目掛けて落ちる。
「おい、なにやって!」
アティアは叫ぶが、次の瞬間には弾かれた槍が空中を舞い、地面に突き刺さる。
何に驚いているのかすらわからなくなったマーディを捉えながら、籠った声で生徒会長は声を発した。
「君の神技は本物のようだ。実に興味深い。もちろんアカデミーに来るんだろう?生徒会長である私からも歓迎するよ、マーディアス・グロー」
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