第5話 揺れる心①
館の前に箱馬車が止まる。
アティア・ステイスが勢いよく箱馬車の中に入り、その向かい側の席にミランヌ・ガルニディが座った。座れるスペースが4人分しかないところを確認すると、マーディアス・グローは玄関で集まっている残りの3人に目を向けた。
「僕達はまだ仕事が残ってる。先にアカデミーに向かえ」
トウマ・グレンはマーディの視線に気づき、暗い青色の髪を弄りながら答える。カーリス・メティは中断された戦いを今だ根に持っているのか、不貞腐れた表情で誰とも目線を合わせていなかった。
「私は君と同じ馬車で行く。トウマ、カーリス。二人とも実によくやっている。気を落とさず任務を遂行してくれ」
「直の上司でもねえし、年下に気を使われたくねえな。さっさと行け」
カーリスの乱暴な言葉に肩をすくめると、生徒会長はアティアの隣に入り込んだ。
「それじゃあ二人とも」
マーディは言うと、残った席であるミランヌの隣に座った。すると窓越しにカーリスが顔を近づけてくる。
「・・マーディ」
「なんだ?カーリス」
マーディに話し掛けたカーリスだったがなぜか言葉を止め、僅かに沈黙が走った後、デコピンを食らわせてカーリスは言った。
「うまくやれよ。・・もういいぞ、行ってくれ!」
カーリスの言葉に馬車の運転手は頷くと、馬に合図を送って走り出した。
トウマ・グレンとカーリス・メティの二人が見えなくなるまで視界に捉え続けたマーディだった。
夕暮れの時間、赤い絵の具が垂れるように、馬車やその道、周りの自然を覆いつくしていた。まるで燃えているような一瞬の恐ろしさと、その鮮やかさを瞳に映すマーディ。
赤い光が徐々に夜の帳を醸し出してくると、今までずっと黙っていた4人の内、アティアが口を開いた。
「休憩で一度止まるかもしれんが、夜通し走り続けてアカデミーに向かう予定だ。明日の午前中に重鎮どもと面会する時間を設けたからな」
「俺がアカデミーの人間と会って話す必要があるんだな」
「まあ、そうだ。色々と手続きがいるのさ」
マーディと話しながら、アティアは時折厳しい表情になる。そんな神妙な空気になりかけた時に、生徒会長がテリートの館の庭で最初に会った時と変わらない品のある籠った声で音を放った。
「もう夜になる。移動もしているし、この鎧の維持を明日の朝まで解く。後は頼んだぞ。アティア、ミランヌ。そしてマーディよ」
「わかった。そっちでフカフカのベッドで寝てくれ。こっちは馬車の硬い椅子を枕代わりにしてるさ」
アティアは意地悪な口調で言い、ミランヌは軽く会釈する。マーディは言葉の意味を理解できないでいると、また明日に会おうと言い残し、狭い馬車の中で窮屈そうにしていた鎧は微動だにしなくなった。
マーディは理解できない表情でいると、ミランヌが答える。
「生徒会長はアカデミーからこの鎧を操っている」
「そういうことだ。こいつは12の英雄武器の一つ、魔法人形マキナ。中身はこうなっている」
アティアは付け足していた言葉からいたずら心を芽生えさせるとマキナと呼ばれた鎧のヘルムを持ち上げる。
「中身が・・何もない。空洞だったのか!?」
「そう、空洞だ。銀製の純粋なアカデミー産。こいつを操るのは至難の業でな。何百年も前に作られたものだが、作った本人しかマキナを操った記録はない。だが、それを二人目として操った者がいた。それが生徒会長だ。まさしく天才の名にふさわしい偉業だよ」
アティア・ステイスは何の感情も込めず、淡々と話しを続ける。
「だが、こいつの扱いは相当面倒だ。今は丁度馬車があったから運ぶのが簡単で助かったが。別の任務で鎧をわざわざ抱えて運んでいたアカデミー生もいたみたいだ。絶対に御免だがな」
「そこまでやる価値があるという事か」
「そういう事だ。お前自身も味わったはずだ。この鎧の、マキナの力を。そして、生徒会長の実力もな」
アティアの言葉にマーディはこくんと頷くも、その反応が面白くないのかつまらないと言わんばかりの表情をアティアは作った。たぶん、マキナの実力を知った反応がみな、自分と同じ驚嘆したような、同じ反応を返していたんだろうとマーディはアティアを見ながら思った。
「だけど、お前の力。その神技。生徒会長も攻めあぐねていた。いつもだったら一方的な展開しか見たことがなかったが、良い物が見れたよな、ミランヌ」
「確かに。勝負がつかなかったと負け惜しみも言いましたね」
クククっと笑うミランヌにアティアも少し顔を緩める。
「まあ、あれ以上は泥沼だったとは思う。マーディの神技も続いていた。生徒会長が一度に出せる槍の数は・・、確か49本が今はマックスだったはずだ。実際数を数えながら戦いを見ていたが、50本目は1本目に操っていた輝きの槍だったはず。つまり50本目はない」
「だけど、それでも復活が早すぎる。生徒会長の力はやっぱりすごい」
マーディの言葉に素直にアティアは同意する。
「そうなんだよね。それでも、神技には勝てないと私は断言する。君はまだ神技に慣れていない。そして、転生してから一日もたっていない。この事実は驚愕することだ」
アティアの言葉に、ミランヌはまるで警戒するような鋭い目でマーディを見た。その視線にマーディ自身は居心地が悪く、そして、それほど危ない存在なのかと自覚するのだった。
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