第3話 神の如く

 階段を降りると、大きな照明のあるロビーに出た。マーディアス・グローはアティア・ステイスに促され、赤い絨毯が敷き詰められた暖炉のある広間へと入った。



 広間にあるソファーには見覚えのある男女が座っていた。片方の男、トウマ・グレンは普通に座っていたが、もう一方のカーリス・メティは両足をテーブルの上に置き、ふんぞり返っていた。



「転生者様のご登場か」

 マーディを睨みながらカーリスは厭味ったらしく言った。

「普段なら挑発的な態度は窘めるんだが。さっき、君に殺されかけたからね。大目に見てよ」

 トウマは左腕を摩りながら言うと、会話を続けた。



「で、アティア。これからどうするか決めてるんだろうな」

「もちろん」

 アティアは軽く返事をすると、豪華な柄の赤いカーテンをヒラリと触りながら窓の方へと移動し、ガラスに体重を少し預けた。



「マーディにはアカデミーに来てもらうわ」

「マーディ?」

「彼の名前よ。そもそも記憶が何もないみたいなの。名前もないって言うから、私がマーディアス・グローっていう素敵な名前をプレゼントしたのよ」



 アティアの付けた名前を聞くと、カーリスとトウマの二人は顔を見合わせて吹き出してしまう。その反応にマーディは不思議な表情を浮かべるしかなかった。



「マーディアス・グローってマジかよ。いいセンスしてるぜ」

「センスがあるのかないのか。どっちだろうな」

「もちろんセンスあるでしょ。当然ね」

 二人に笑われながらも、表情一つ変えずにアティアは平然と喋った。



「なぜ二人とも笑うんだ?」

「気安く喋りかけてんじゃねえよ」

 マーディアス・グローの戸惑う言葉に、カーリス・メティは不機嫌に返した。



「まあそんな邪険にするな。マーディ、僕が説明してあげよう」

 トウマの言葉に、助かるよとマーディは丁寧に返した。



「星空の勇者って言う物語があるんだ。その物語の主人公である勇者の名前でね。最後に竜を倒して終わるんだけど、問題なのはその過程でね。その勇者は仲間に裏切られ続けるんだ。何度もね。それでも諦めないっていうのがその話の教訓なんだけど。かなり昔に流行ったお話で、昔はどう捉えられていたかは分からないけど、今は裏切られまくる勇者の物語として世間的には通ってる」

「なるほど、何度も裏切られるのか」

 マーディはトウマの話を聞くと、目線を当然アティアに向けた。



「まあ聞け、マーディ。私は諦めずに竜を倒すという内容が気に入っている。それに名前自体も好きだ。良い名前だろう?」

「最初はそう思っていたが、今はわからなくなった」

 マーディの言葉に、アティアはワザとらしく大きく笑った。ごまかしたな・・っとマーディは強く思った。



「ったく、名前なんてどうでもいいんだよ」

 ポリポリと頭を搔きながらカーリス・メティは言うと、机に乗せていた足を戻して勢いよく立ち上がった。



「おい、アティア。アカデミーに行く前に、もう一度こいつとやらせてもらうぞ」

「こいつじゃなく、ちゃんと言って」



 アティアの言葉に頭を何度か掻くと、親指をマーディに向けてカーリスは話した。



「マーディとやらせろ。やっぱりこいつ見てたらむかつくんだわ。それに、確かめなきゃならねえだろ」

「まあ、それはそうだけど。わざわざ戦わなくてもいいじゃない」



「確かめるって何を?」

 マーディアス・グローは会話の腰を折り、アティア・ステイスは鋭い瞳で答えた。



「あなたは驚異的な力を使ったの。神の如き技、神技シンギを」

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