第4章

第15話

 ミクルちゃんが抱えて持って来てくれた自分の服を着てから、ハンカチで犬の右足をテーピングし、このワンコを警察に届けようと移動を開始する事にした。



 その間、終始しゅうしミクルちゃんは『すごい、すごい』を連呼してオレをたたえてくれていた。





 正直、寒中かんちゅう水泳すいえい敢行かんこうしたせいで身体からだかじかんでいたが、このにコレだけたたえてもらえるのなら、この程度って気持ちになってくる。





 派出所までもう少しというところで……。



「ラッキー‼ ああ……アナタ方がラッキーを保護して下さったんですね! ラッキー……‼ 無事で……無事でかった……‼」


 どうやら、このワンコの飼い主さんの様だ。



 この寒い時期なのに汗を大量にいていて、どれだけ熱心に探していたのかという事と、このワンコがどれだけ愛されているのかがうかがえた。





「この子の飼い主さんですね。たまたまボクたちがこの子を見付けて警察に届けるところでした。」


 言って、ワンコを飼い主さんに差し出す。





 飼い主さんは、ワンコをめてから頭を軽くでて……、


「本当に、ありがとうございます。」





 深く頭を下げてお辞儀をし、ワンコに頬擦ほおずりをしようとして右足のハンカチにめて……、


「ラッキー‼ 右足を怪我けがしてて手当てしてもらってたのね⁉ それに、ちょっと身からだれている?」


 飼い主さんは、ハッとした様に、コチラに目を向けて来た。





「その子、右足を怪我けがして白鷺しらさぎばしの下の海でおぼれていたんです。それで、お兄ちゃんが泳いで助けて上げたんです。」


「そんな事になっていたんですか⁉ 私、この子を乗せた車を運転していたんですけど、この子を後部座席に乗せて窓を開けていたんです。この子、窓から顔を出すのが好きで、窓を開けないと怒るんです。でも、ふと気付いたらこの子がなくなってて…。多分、橋を通っている途中で、窓から落ちて、右足を怪我けがしながら、さらに橋から海に落ちたんですね。」





 なるほど、そういう事だったのか。


 しかし、窓から飛び出したら足を怪我けがして、さらに橋から海に落ちておぼれるという不運の大連鎖をしたワンコの名前がラッキーとは皮肉が効いている。





「でも、何はともあれ、大事にいたらなくて良かったですね。」


「ええ、お二人のお陰です。」


 飼い主さんがほがらかに笑って答える。





 そこで…、


「お兄ちゃんのラトルミレショニーがイクトデシブしたからその子を助けられたんですよ。私は、ただエナジーウェーブを間接かんせつ転送てんそうしただけで何もしてないです。全部お兄ちゃんの力です。」


 ミクルちゃんの電波でんぱ炸裂さくれつする!





 どうも興奮こうふん状態じょうたいが続いたためにオレのでっち上げたイニシエーションという決まり事を忘れてしまったらしい。





 飼い主さんの笑顔が、どんどん曇って行き、怪訝けげんそうな顔になる。





 しかし、飼い主さんは、何とか笑顔をもう一度作って…、


「な…何かお礼をしないといけませんわ。」


 何とか言葉をつむいでいく。





 しかし…、


「その子は、チャイファーのウルトアクティを私に送ってくれたから、もうお礼は頂いています。」





 必死の抵抗をはばよう放射ほうしゃされる電波でんぱ


 飼い主さんの顔が見る見る青くなっていく。





 多分、ここで、オレが方向ほうこう修正しゅうせいしないといけない場面なんだろうけど、今のオレは……。



「そういう訳で、もう、お礼はりません。それに、オレたちは世界を救うためにやっただけですから。」





 ミクルちゃんの世界を肯定こうていする!


 彼女の世界が、悲しい過去を乗り越えるためのモノだと知ったのだから‼





 そりゃ、いつかは『世界せかい』を見詰みつなおさなきゃいけなくなるだろう。


 このままでは通用しない。





 でも、今はまだ支えてやる奴が必要なんだ。


 それはオレであるべきはずだッ‼


 だってオレはッ! ミクルちゃんの、お兄ちゃんなんだからッッ‼





 飼い主さんはパクパクと口を動かして止まってしまう。


 それを横目に、ミクルちゃんの手を取る。





「さぁ、行こうか、ミクル!」


「うん! お兄ちゃん!」





 ニッコリと笑い合って出発する。


 もう飼い主さんから声がかることかった。





 今日のこの事で、オレも電波でんぱ野郎やろうとしてうわさされるかもしれないが、このとおそろいなら悪くない。

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