第12話

 それから数軒すうけんの店を二人で渡り歩いてミクルちゃんの所望品しょもうひんたちをドンドン献上けんじょうして行った。



 店の一軒いっけん一軒いっけんで、店と店の間の路地ろじで、二人で所望品しょもうひん品評ひんぴょうをして笑い合ったり、『コレが似合にあっている、似合にあっていない』と、語り合ったり、たまにミクルちゃんをイジってショートさせたりの、飽きの来ない楽しい時間。





 直々ちょくちょく、道行く野郎達がミクルちゃんのプリティーフェイスに振り返り、さらにオレを見て、『何で相方あいかたがコイツなんだ?』と、疑問に思い、くやしそうな羨望せんぼうの目でオレを見て来る。



 くすぐったい様な、何とも言えない優越感ゆうえつかん


 一〇七回もの失恋しつれん回数かいすうという偉業いぎょうために、長く味わった事が無かったこの感触に、思わずほおほころぶ。



 っていた様な奇特な出会いだったが、このとこうしていられるこの夢の様なファンタジーに感謝したい。





 だが、このファンタジーを維持いじするためのお財布の残弾ざんだんがそろそろ心許無こころもとない。


 具体的にはオレの見て回ろうとしたコート等は望むのが困難になって来た頃だ。


 しかし、ここでオレがコートを買うのを諦めればミクルちゃんにらぬ良心の呵責かしゃくを与える事になる。





「う~んと…これはあの店のコースだな。」


 うんうんと納得して見せて、新たな進路を取ろうとしてみる。





「あの店? お兄ちゃんの探したいって言っていたコートがあるとこ?」


「ああ、そうだ。ここからしばらく歩くとな、白鷺しらさぎばしっていう、南区の工場地帯に通じる人通りが少ない上に無駄に長い、全長一キロもある橋があるだろ? その橋を渡り切ったとこにあるんだけどな。南区は工場が中心で、そこの従業員さんたちも仕事の利便性から工場地区のアパートに住んでるのが大半な上、普段は繁華街の中央区や一般住宅街の西区から訪れる用事もほぼ無いって事で、交通の便が悪い上に、中央区とかの繁華街やショッピングモールからも遠い。工場の仕事の関係で橋の下を通る船も平日は良く通るんだけど、どうもその橋を通る船が休日に限って何度も事故を起こしたとかいう事があったみたいで市民からの苦情があったとかで、何でそんな無駄なことをってオレは思うが、市のえらいさんがたが南区の休日の船の行き来を禁止したとかで、橋なのに今日みたいな休日は船すら通らない。その上、橋の高さが十五メートル程もあるのに、安全ネットが無くて安全面も悪いって事で、橋そのもののひとどおりも少ないんだ。だから、橋の先にある目的の店も、パッと見た感じ、流行はやって無さそうな上に、古着屋なんだけど、南区の工場や住居自体は発展してて、あの区に住んでる工場の従業員さんたちが割と訪れてくれてて、中々の品質の物とかも売りに出されてるのも多いし、結構良いのがそろっていて、思いのほか人気にんきのある穴場なんだよな。」





 オレのその説明に、


「古着って、前に誰かが着ていたけど、らなくなって売った中古品って事でしょ? そんなので良いの?」


 ミクルちゃんは、向かう先の橋の無駄な長さより、古着である事に疑問がいた模様もよう





「ミクル、古着を舐めちゃダメだぞ。結構ブランド物とかも入っている事があるし、場合によっては新品よりも良いのが置いている時もあるんだ。それでいてリーズナブル。まさにいたれりくせりの素敵すてきスポットなんだ。」


「そうなんだ。じゃあいたらミクルも良いの無いか探してみようかな?」


 期待に胸をふくらませたホクホク顔で、ミクルちゃんも楽しそうだ。



 さて、良いブツが入荷していますように…。

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