第48話 なんの話?
翌朝、結局真相がわからんまま私は悠吾と誠司の車に乗っていた。帰省の理由を何度か訊ねたけど相手はまっすぐ前を見て「着けばわかる」としか答えん。
ふむ。べつにいいけど。
電車やと二時間かかる距離、車やと一時間半ほどで着く。長いようで案外すぐの一時間半。手の掛からん悠吾は終始ぐっすりやった。
車内は気まずさはまったくなく、誠司の職場である学校の話や部活の話、それからうちの柏木商店のお客さんの話、ミクさん一家の話、悠吾の成長の話、懐かしい昔話と話題は尽きんかった。
久々に誠司とこんなに話した気がした。
なんやろな……うん。楽しかった。
家、というかお店に着くとおかあとミクさんが出迎えてくれた。
「あら、お揃いで」
意地悪ミクさんにからかわれて「やめてください」と言わされた。
「体調、大丈夫なんですか?」
私がそう訊ねるミクさんは大きなお腹を抱えながら「暑くてかなわん」と嘆いた。
よその子の成長はほんまに早くて。赤ちゃんやったはずのミクさんとこの長男くんは今や二歳の悪ガキ。ミクさんから今買ってもらったらしいお菓子をさっと奪い取ると店内を駆け回って今もうちのおかあに捕まって騒ぎよる。そしてそのミクさんのお腹には二人目の赤ちゃんが。また一段と賑やかになりそうやね。
「ね、どう、『結婚しよ』てなった?」
耳元で小声で訊ねられて慌てて「まさか」と否定をした。
「なんで? そういうことやなかったの?」
「ちがいますよ! ただ、瞬くんとのことの真相を本人に確かめたかっただけで」
「ああそれ、やっぱ私の読み通りやったでしょ?」
そう。ほんま、ミクさんはすごい。
「いい人やと思いよったのにねぇ……。わからんもん、いうか、なんか怖いね」
言いながら悠吾と戯れる誠司をちらりと見やった。
「ほんであれもあれで意外と子煩悩みたいやし」
「まあ誠司は子どもは好きやったもん、昔から」
「ああ、そういえばそやったね、兄貴分いうか、子分いっぱい引き連れて、ガキ大将してたよね」
うんうん、懐かしいなあ、と頷き合ってくく、と笑った。
「ほんで、どうするん? まだこのままでおるつもり? さっきも真知ちゃんおかあと話しよったんやけどね」
ミクさんは遠慮なくそう切り込んでくる。すっかりうちのおかあの強い味方なんや。
「その気ないもん、あっちが」
言いながら誠司をちらりと見る。
「なら誠くんがその気になれば、真知ちゃんもいいってこと?」
質問は手厳しい。「どうでしょね」とはぐらかすと、「浮気さえなければ?」と核心をついてきた。はい、その通りやね。
するとミクさんは「誠くん」と手招きして当事者を呼びつけた。あら、どうしよう。お世話すんのに慣れよるお姉ちゃんはほんまに無敵。そんなら今日はちょっと、任せてみようかな?
「誠くんはこのままでほんまにええん? またいつ真知ちゃんにいい人できるかわからんよ? それでもええん?」
詰め寄られた誠司は慣れたふうに「なんや。べつに構わん」と返す。
「真知が選ぶことじゃろが」
相手がミクさんだろうが誠司は変わらん。それなら今でも私が「結婚してよ」と言えばするつもりなんやろか。もちろん言うつもりなんかないけど。
「ちうかそれも誠くんが妨害しよるんやからね? 真知ちゃんは誠くんとはちがうもん、誠くんに遠慮して新しく彼氏作るんもなかなか出来んのやから」
「……ちょ、ミクさんっ!」
さすがにそんなことまで言われる予定はなくて慌てた。けどミクさんは「言うといたほうがいいもん」と聞かん。
「だから真知ちゃん任せにせんと誠くんがもっと男らしう……」「おっと、電話じゃ」
ミクさんの話を遮って出た電話は案の定女の人からのようやった。リナちゃんか、はたまた別の人か。はあ。
「はあ……。相変わらずか。やっぱ誠くんはやめてほか当たろか? 真知ちゃん」
冗談半分でそんなことを言うミクさんに苦笑いで応えた。
「ところで真知ちゃん、悠吾くんも連れて行くん? 結構人多いよ?」
いきなり飛んだミクさんの質問。意味がわからず困った。「え、なんのこと?」と訊ねるのと同時に電話を終えた誠司が「悠吾なら預かってもらえるから」とまた私のわからん話をする。
「やっぱその方がええよね、私も好きやけどやっぱ人多いもん今年はパス。でも子どもは行きたがるもん、うちの人に連れてってもらう予定なんよ」
「あの、あの! ……なんの話?」
ようやくそう訊ねるとミクさんはその目をぱちくりして「あれなんで? 聞いてないん?」と私と誠司を交互に見た。つられて私も誠司を見る。
「なんで知らんのか知らんけど。七月の第三日曜といえばそこの神社の納涼祭に決まっとるやろが。そろそろ行くぞ」
ははあ、そういえばそんな季節やった。
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