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「今、なんと言った」
思わずフォンゾは聞き返してしまった。
斥候の言葉に間違いではないかと思ったからだ。
「村です。この先に村があるのです」
斥候は落ち着いているようだった。錯乱している様子もない。
しかし、この平野に村があるとはとても信じられなかった。
ベルファロン平野は別に危険な生物がいるわけではない。
むしろ、平野の奥にある森のほうが危険である。
昔は比較的安全な地域であるため、平野に集落を築いたことがあった。
住みやすい気候であったため、そこそこ発展し平野に住む人々は増えた。
ある日それが来るまでは・・・。
いつの日かわからない。王国軍が来たのだ。
王国軍は平野に住む人々を襲った。
集落の金銭と食料を奪い、女は犯され連れていかれた。
家々は焼かれ住人たちは殺された。
集落の中には王国民もいたが関係なく襲撃された。
帝国は集落を襲わないよう王国に抗議したが効果はなかった。
結局、帝国は軍を派遣し、王国軍に対抗することにした。
これが長年帝国と王国が続けた戦争の発端であると言う人もいる。
王国との決着はつかなかった。
戦がたびたび行われたが、その間に集落も襲われた。
平野に集落ができるたびに王国軍がそれを食い散らかしていく。
最終的に帝国は平野に居住することを全面的に禁止した。
もし平野に住んでも帝国の庇護は受けられないとも言った。
それでも平野に住もうと考える者はいた。
平野なら税を払わなくてもいいと思ったのだ。
しかし、住んだとしても自衛できなければ意味がない。
なぜなら、もう帝国は助けに来ないのだから。
その後、その者達の集落は王国軍に襲われた。
人々は噂する。『平野に住もうと思うな。王国軍が来るぞ』
結果、平野を通る者はいても平野に住む者もいなくなってしまった。
恐らく難民だろうとフォンゾは思った。
ここ最近戦が何度か起きた。
行き場のない者達がこの場所に住み着いたのに違いない、と。
危険はないと判断され隊商はその村へと進んでいった。
村に近づくにつれ全容が見えてきた。
高い壁に石造りの門。
門の周りには武装した兵が見える。
粗末な装備ではない。しっかりとした装備だ。
とりあえず中に入ってみようと思った。
これだけ守りがしっかりしているのであれば、
わざわざ外で野営をする必要はない。
一行が門までくると兵士に声をかけられた。
「止まれ」
兵士が近づいてくるのでフォンゾが出て対応することにした。
護衛が周囲を固める。
「通行か滞在か居住か」
兵士の問いかけは、意味が分からなかったため聞くことにする。
「どう違うのでしょうか?」
「通行は中で一時的に休息をとり出て行くことだ。
滞在は中で過ごすことを意味している。
居住はそのままだ。
どちらも滞在日数が決められている。
通行は1日もしくは2日まで。
滞在は4日まで。
居住は居住権を得なければならない。
それで?」
「滞在で」
「結構」
そう言うと兵士は紙を取り出し何か書き始めた。
兵士から時折質問が来るのでフォンゾはそれに答えなければならなかった。
「一応聞いておくが何を輸送している?」
隠すことでもないのでフォンゾは正直に答えた。
「ベルバーン帝国からアルファノア国へ?ちょっと待て」
すると兵士は詰め所に戻る。しばらくすると、駆け足で戻ってきた。
「失礼した。門を通ったら右に倉庫があるのでそこで待機するように。
帝国に帰る場合はこの門を、アルファノア国側に抜けたい場合は
南門を使うように。西門は通行禁止なので気を付けるように。以上だ」
そう言って紙を渡してきた。
フォンゾが受け取った紙を見てみると滞在許可証と書いてあった。
門をくぐり言われた通り右に曲がる。すると、そこには倉庫が立ち並んでおり
何人かの商人たちが荷下ろしを行っていた。
空いた場所に馬車を止め待っていると兵士の一団が近づいてきた。
装備は先ほどの兵士とは違い立派である。
「アルファノア国軍の者だ。そちらの積み荷は我々が輸送する」
兵士のなかでも一際目立つ立ち住まいをした者が近づいてきてそう言った。
フォンゾは慌てた。そんなこと聞いたことなかったからだ。
「そのようなことは伺っていませんが・・・。
それに私どもの契約ですと帝国からアルファノア国までの運送です」
「その荷物は非常に重要な品である。
よって我々が運ぶことを王より任せられたのだ」
「しかし・・・」
フォンゾは自信がなかった。彼らの言っていることが本当なのか。
「これが王からの命令書である。ご確認を」
心の内を読んだかのようにすっと兵士がフォンゾに差し出す。
綺麗な白に金で縁取られた紙は丸まっており赤いロウで止められていた。
一目で偽物ではないとわかる。
フォンゾは、一旦その巻物を受け取り紙の感触を確かめ、
ロウを外して内容を確認する。
(間違いない、本物だ)
国によるが王を騙る文書を作成した者は極刑にあたる。
若干手を震えながら書類を兵士に返すと荷下ろしの指示を出した。
荷物を下ろして代金を受け取ると今夜の宿を探すことにした。
明日は市場で、麦の買取を行ったら帰国となる。
フォンゾは通りを見渡す。
建物が立ち並ぶそこはとても村とは呼べなかった。
(これはもう一つの街だ。いつの間にこんな場所が・・・?)
疑問は解決することはなかった。
魔結晶を受け取った輸送隊は南門には向かわず西門を通って出ていった。
その後輸送隊を見た者はいなかった。
ジンは勘違いをしていた。
都市国家の資源の共有化は可能であるが
それは自国の影響下ではないといけないのだ。
アルファノア国から自由都市を作った場合、それは独立という扱いになる。
この場合、アルファノアからの影響力はリセットされ
どこからも影響受けない都市ができるのである。
共有化なしでも魔結晶を早く受け取れたため、
ジンはこのことを忘れてしまった。
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