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ベルバーン帝国訪問時、王を見つめる周囲の目は興味深そうに見られていた。
皇帝との会談が終わった時は、落胆と上から見るような視線となっていた。
「意外に大したことはない」
「こんなのが王か」
「辺境の蛮族による交渉の方がマシだ」
と、散々に言われていた。
もちろん、大声で言われていたわけではない。
扉越しに聞こえてきた声が耳に入っただけだ。
怒りで手に力が入る。だが、それをなんとか押しとどめたのは王の顔だった。
陰であんなことを言われているのに王はとても嬉しそうな顔をしていたのだ。
突然のベルバーン帝国への訪問。
それは王が決めたことであり、自分にそれをどうこうする権限と力はない。
一都市を簡単に滅ぼすことができる力を持っている者、
単体の相手であればどんな敵も打ち取れる者、
万の兵を操る者など様々な力を持っている者がいるのがアルファノアだ。
その中で自分ができることは守る力しかない。
誰かを守るための盾とスキルのみ。
今の自分の任務に不満はない。
常に王の隣、王がどこに行くのも付いていく役目。
そのせいで、周りからは嫉妬の目で見られているが・・・。
日の目を浴びていない者達は多い。
みんな王の傍で活躍したいのだ。
アルファノア国本城。
ジンは早速お土産にもらった魔結晶を使うことにする。
輸送編成ではなかったため、少量であったが今はこれで十分だった。
研究画面を開き魔結晶を消費して新たな建造物を開放する。
『魔結晶研究所』
この建造物を建てるのに魔結晶は使われない。
空いた土地に建てると次に貯蔵庫を建てていく。
魔結晶研究所は魔結晶を活用していくうえで必要な施設だ。
手元にある魔結晶はもうなくなってしまったので、早く来ないかと焦る。
そこでジンは操作している手を止めた。
「ちょっと、待てよ?」
魔結晶のための施設を建て、迎え入れる準備は万端。
あとは来るのを待つだけというところであった。
ふと、疑問に思ったのである。いつ来るのだろうかと。
北の大陸から南の大陸まで陸路で魔結晶を輸送するとなると大移動である。
今回の訪問はアルファノア本城から出たため早く着いた。
通常の行軍速度であれば一週間もあれば着く距離。
だが、輸送部隊は大量の荷物を運ぶため非常にゆっくりである。
帝国は元リトビエ王国へ運び込むはずだ。
試しに輸送部隊で帝国までどのくらいかかるのか、地図を開き
時間を算出してみることにした。
「60日!?やばっ!」
想像以上の時間だった。
輸送速度を少し落とすだけで100日は超える。
これでは時間がかかり過ぎである。
途中のアルファノア本城へ運び込んで欲しいところではあるが
本拠点を他の勢力に知られたくはなかった。
ベルファロン平野までだとおおよそ12日ほどである。
(いっそ平野に城を作ってしまうか?)
だが、元々そこは中立地帯である。
もし、アルファノアの旗が立った城ができれば帝国との緊張が高まるだろう。
今は魔結晶の研究を優先したかったのでそれは避けたい。
(そうだ!都市にしよう!)
ジンが考え付いたのはまず、平野にアルファノアの都市を作成。
その後都市を独立させる。こうすることで、この都市は自由都市となる。
あとは自由都市との関係を構築し同盟関係に。
国と違い自由都市のような都市国家の同盟には資源の共有がある。
つまり、都市国家が有する資源を宗主国であるアルファノアが
使えるようになるのだ。
これを行えば、わざわざ大陸の端から端まで輸送しなくても済む。
問題は帝国側にこの都市で荷下ろしをしなければいけない理由だ。
(だめだ、思いつかない・・・。何かないか何か)
頭を抱え考え込む。しかし、名案はなかなか浮かんでこなかった。
脳内でシュミレーションを行う。物資を拠点まで運搬。拠点で受け取り帰還。
(受け取りを・・・。いや、待てよ?)
(中立地帯での受け取りにすればいいのか?重要な品だからという理由で
兵士達を配置して兵士たちに運搬させよう。軍が輸送を引継ぐといえば?)
ある日、水晶を載せた輸送隊が帝国を出発した。
国同士のやり取りであったものの、運搬を行うのは商人ギルドである。
いわば、この場合の商人ギルドは国の下請けだった。
例えば、国より『ある品物をこの国まで届けて欲しい』という依頼が来る。
ギルドはこれを受け運搬車と護衛を手配し品物を届ける。
届けられた品はその場で売買され、売買際に生じた金銭はそのまま
厳重に保管される。次に商人は国から仕入れて欲しい品をその場で購入する。
この際、購入する金銭は先ほどの取引で使われたものを使用してはならない。
予め用意された購入用の資金で取引を行うのだ。
こうして売買を行った商人は国に戻り、売り上げと購入した品を国へ引き渡す。
そこで、初めて商人に依頼料が払われるわけである。
さて、中くらいから大きいものまでの水晶を荷馬車に満載した輸送隊はゆっくりと
確実に進んでいった。
護衛は商人ギルドの私兵がほとんどであったが、重要な品ということもあって
冒険者ギルドからも数人護衛として参加していた。
一見、物々しいほどの隊商に見えるがこの世界では国同士の交易を行う場合
これが一般的であった。
ベルファロン平野に差し掛かると、嫌な顔をする者がちらちらと見かけられる。
長年王国と帝国が争った地なので、色々と嫌な噂があるからだ。
主にゴーストやゾンビといった死者にまつわる噂だ。
ドドッドドッ
音が近づいてくる音に御者がビクついたが周りの者は落ち着いていた。
それが馬の駆ける音だとわかったからである。
次に隊商に緊張が走った。敵襲かと思ったからだ。
近づいてくる者を確認すると一同の緊張は解けた。
なんのことはない。隊商の一番前を進んでいた斥候だったからである。
何事かと商人のフォンゾも顔を出した。
斥候が帰ってくるということは何か伝えることがあるのだ。
斥候の報告を聞いてフォンゾは驚いた。
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