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水晶平原。

誰がそんな名前で呼び出したのか。

初めてこの地を発見した人なのかそれは誰にもわからない。

だが、水晶平原と帝国民に言えば、子供ですら知っている有名な場所だ。

水晶平原までの道のりはわかりやすい。

水晶が案内するように、平原に近づくにつれて増えていくからだ。

一帯を見渡せるところに案内されたジンは目を見開いた。

そこは、雪など一粒も見当たらない。青白い水晶が大地を埋め尽くしていた。

人の足先ほどのサイズの小さい水晶。

人の体の半分ほどのサイズの中くらいの水晶。

人と同じくらいのサイズの大きい水晶。

建物と同じくらいのサイズ、もしくはそれ以上の大きさの巨大な水晶。

それらがまんべんなく広がっている。

雪が降る地域なのに水晶には雪が積もっておらず根本や周りも同様である。

時折、カンカンという音が響き、水晶を持ち運びしている人たちがいた。

その者達以外は遠くからこの光景を見ているだけだった。


「一応、一般の人々の立ち入りは禁止しているんです」


ルエルが疑問に答えるように言った。


「どうですか?綺麗な場所でしょう?」


自慢気にルエルはジンに聞く。


「ああ、とても素晴らしい」


ジンはルエルに答える。

だが、それは感動に打ち震えている声ではなかった。

綺麗さに目を奪われている顔でもなかった。

喜びの表情だった。

ルエルはこのことに気づくことはなかった。

彼女もまた水晶平原を見ていたからだ。

彼女は続けて、夜に来ると昼とは違った幻想的な雰囲気があると言う。

特に夜は恋人が多くこの場所を訪れるとも。

しかし、ジンはその部分は聞いていなかった。

ルエルの説明などもはや耳に入っていない。

この水晶をどうやって手に入れるかそれを考えるのに必死だった。


「皇女殿下」


急に呼ばれたルエルは振り返る。


「皇帝陛下と交渉がしたい」


ジンにそう言われルエルは少し間を置きかしこまりました。と答えた。

ここしか来てないので時間はあまり稼げていなかったが仕方がない。


城に戻ってくると侍従長がやややつれた顔で出迎える。

なんとか間に合ったのだろうか。

そんなルエルに侍従長は耳元で二言三言話す。

内容はあまりいい物ではなかった。

進言した割には早すぎると嫌みを言われたのである。

一応、彼女なりに頑張った方だ。

なにしろ、皇帝の体調不良を理由に案内をしたのだ。

こんなに早く帰っても会えないかもしれないと、なんとか引き留めた。

すると、ジンは交易の交渉だけなら代理でも任せられるはず。と言われる。

確かにそうだ。と言えるはずもなく結局ここまで帰ってきてしまったのである。


城内に入ると金の装飾が施された布がそこら中に張られていた。

歓迎ムード一色ではあったものの待たされることなく

最短ルートで謁見の間へと案内された。

いつもは城内を少し周ってから謁見の間へ通される。

帝国の歴史や文化、財政力を自慢して威光を高めるためだ。

謁見の間には重臣らしき人物と騎士が数名と玉座に座っている女性が目に入った。

玉座にある程度近づくと騎士が制止する声が聞こえた。

ジンは止まると皇帝陛下に自己紹介を行った。


「お初にお目にかかります女王陛下。南大陸アルファノア国より参りました、

ジン・ユードリック・アルファノアと申します。

この度は謁見の機会を頂きありがとうございます」


「遠い所からよくぞ参ってくれた。

私がベルバーン帝国皇帝イーザ・ドラクロワである。

本来であれば訪問した際に会うのだが体調が優れず会えなかったことを詫びたい」


「いえ、お気になさらず。私も突然訪問して申し訳なく思っています」


「ふむ、ではこの件はこれでよろしいか?」


「はい。構いません」


「では、次に移ろう。交渉がしたいと伺ったがそれは帝国との交易交渉だろうか?外交交渉であろうか?」


「両方です」


「なるほど。であれば、文官の出席も必要なため別室でも構わないか?」


「はい」


謁見の間を出た後、ジンと護衛の騎士は広く豪華な部屋に案内された。

しばらく待っていると騎士と文官とおぼしき人物に加え皇帝が入ってくる。

ルエルも一緒であった。席に着くように促され、両者席に着く。


「さて、まずなにから始めようか?」


「水晶を輸入したいのだが」


ジンから出た言葉はある程度予想した通りだった。

鉄製品を欲しがらないのはルエルから聞いていたが、

ここまで固執する理由はわからなかった。


「して、量は?」


「(あるだけたくさんと言いたいところだが)

一回でどれだけ輸送できるのですか?」


すると、後ろにいた文官から小さな紙が皇帝に渡される。

皇帝はその紙を見つめると、ジンの方を向いて答えた。


「1500個程度ですな」


「少なくありませんか?」


「なにぶん水晶であるため壊れやすいのです。

輸送には細心の注意を払わなければなりません」


「そうですか。ではその数で」


「貴国からはなにかありますかな?」


「こちらからは小麦と干し果物でどうでしょうか?」


イーザは少し考えてから了承した。

小麦は自国では育たず、他の国からも輸入しても質が落ちていたり、

輸送中の事故など多くは届かなかった。

アルファノア国とは比較的近い。小麦の安定供給がされるとなれば

うれしい限りである。


「交易交渉はこのくらいですかな?」


「ええ」


「次は外交交渉と聞きましたが?」


「そうです。アルファノア国は帝国と争う気はありません。

そのため、しばらくの間帝国と自国が戦わないようにしたいのです」

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