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その日の帝都は珍しく晴れていた。

どんよりした曇り空でもなく雪も降っていない快晴。

こういう日の帝都は賑やかになる。

市場では店を出す人がいつもより多く、買い物客で溢れかえる。

外に出る人が多くなり活発的になるのだろう。

このような現象は帝都の各地で見られたが、

帝都の入り口である帝門付近ではこうはなっていなかった。

最初は賑やかだったのだ。最初は。

ある一団が入ってくると、喧噪は次第に消え静寂が訪れた。

道行く者は足を止めその一団を見つめた。

話をしていた者は、話を止め口をつぐんだ。

言い合いをしていた者、喧嘩をしていた者、店の売り子さえも静かになった。

静かさを破ってくるのはその一団が出す音のみ。


シャンシャン


鎧のこすれる音か地面を踏む音かあるいは馬車が動く音か。

白銀に金の装飾が施された甲冑。

天を衝く長槍。

一糸乱れぬ隊列。

旗に書かれた見慣れない紋章。

時折、日の光で白銀の鎧が輝く。

早すぎず遅すぎず、真っすぐ皇帝がいる城へと向かっていった。


一方、帝城は大騒ぎであった。

先触れが来た時、普段あまり動じない皇帝すら憤りを見せた。


「こんな急に来るなんて常識がないのか!?」


叫んだ声は文官の耳にも届いたが彼らは周りに吹聴はしないだろう。

そんなことをすれば、どうなるかわかっているからだ。

それに、そんな暇もなかった。

ただでさえ忙しい政務に加え、本来であれば何日も準備を要する歓迎を

すぐに行わなければならないからだ。

北方の周辺国なら幾分かは気楽だったかもしれない。

慣れた相手なら多少の誤魔化しがきくからだ。

だが、北の帝国の地を初めて踏む南大陸の王の場合一切の誤魔化しは通じない。

誤魔化したら最後である。帝国の面子が地に落ちてしまうだろう。


「無理です・・・間に合いません」


王の一団が城から見えた時、侍従長は皇帝に報告した。


「人員を倍にしても無理か?」


「はい。人を倍にしても時間が足りません」


「出入口付近と謁見の間のみに限定してはどうだ?」


「今まさにそれを行っているのです。陛下」


「むう」


「陛下、しばらく帝都を見て回ってもらってはどうでしょうか?」


頭を抱える二人を見てルエルは皇帝に進言する。


「―――なに?」


「来訪の目的は『観光』だったはずです。これを利用しましょう」


「確かにそうだが・・・、案内はどうする?誰を付ける?」


「私が付きます。案内をすると約束しましたから―――」




「ようこそ、ベルバーン帝国へ。ジン国王陛下」


そう言うとルエルはジンを出迎えた。

馬車から降り立ったジンは見知った顔のルエルを見て安心したような顔を見せる。


「急で申し訳なかった。迷惑ではなかったかな?」


その言葉にルエルは一瞬顔を引きつるも笑顔の仮面でなんとか取り繕った。


「そんなことありません。この程度なんともないですよ」


なんとかなっていないのだが、さすがに諫める訳にも迷惑とも言えず

見栄を張って答える。心の中では罵声が飛び交っていたが。


「それよりも申し訳ありません。現在、皇帝陛下は体調が優れないとのこと。

会談の前にどうです?帝都を見て回りませんか?」


さすがに、急な来訪で歓迎の準備ができているとは言えなかった。


「そうだな・・・」


ジンの言葉でルエルは承諾を得たと受け取った。


「では、私がご案内します。それから、護衛の方々は最小限でお願います」


そう言うルエルの周りに騎士たちが集まってくる。

対するジンの周りは甲冑の兵が周りを取り囲んでいた。


「わかった、エヴァ!アリナ!」


ジンが声をかけると全身鎧を着た騎士とおぼしき二人が前にでる。

一人が兵たちに指示を出すと、馬車と共に兵士たちは下がっていった。

ルエルはちらりとジンの隣にいる二人に目をやる。

名前と甲冑の形から恐らく女性だろう。そのうちの一人は見覚えがあった。


「まずは、どこから行きましょうか?」


そう言うとルエルは帝都の観光名所を話し始めた。

神殿、遺跡、帝国民始まりの地、帝国立学校・・・。

思いつく限りの建造物を挙げていく。

だが、ジンはそれに頷くことはなかった。

ルエルを見ると彼は端的に言った。


水晶平原に行きたい、と。


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