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鬱蒼と生い茂る木々の集まりは深い森となって美しい城を包み込んでいる。

険しい山々が周囲を固め来るものを阻んでいた。

城の周囲は拓けており、所々に農地や民家はあるが

開拓はあまり進んでいなかった。

アルファノア国本城謁見の間。

ジンが直接手掛けた装飾は見る者を圧倒するだろう。

しかし、この場に装飾に見とれている者は誰一人としていなかった。

みんな緊張した面持ちで、主役の登場を待っている。


しばらくしてジンが現れた。彼はゆっくりとした足取りで玉座に向かい座った。


「楽にしていい」


ジンがそう言うと各々が楽な姿勢を取る。

彼がそう言ったのは現れた時、みな静かに跪き頭を垂れたからだ。


「南大陸制圧ご苦労だった」


答える者はいない。

 

「今から呼ぶ者は前へ」


ジンがそう言うと名前を並べ始める。

ロレイン、イレイン、シエラ、レオン・・・

呼ばれた者は立ち上がりジンの前に行く。

隣にいたレオンだけは動かなかった。


「シエラ、与えられた兵だけで勝ったのはさすがだ」


「ありがたきお言葉」


シエラは嬉しそうに笑みを浮かべる。


「ロレイン、イレイン。ドラムピ国王の討伐、よくやってくれた」


「ありがとうございます。陛下の為ならどんな敵でも討ち滅ぼしましょう。

今後も任せてください」


ロレインが嬉しそうにそう言うのを見てイレインは苦笑した。


「レオンもよくやってくれた」


前に出てこなかった黒甲冑の男は、何も言わず軽く礼をする。

通常であれば多大なる戦果を挙げた者には王から褒美がもらえるはずだ。

それは領地であったり武器、賞金、勲章、称号、爵位などだ。

だが、アルファノア国のキャラ達はそんなもの無用の長物だ。

彼らにとって王こそがすべて。王に絶対の忠誠を誓い、王の為に戦い死ぬ。

王に直接命じられ働くことで喜びを感じる。

故に、事前に王から下賜するから何か欲しい物があるかと聞かれたとき

全員がなにもいらないと答えた。

彼らにとって、王に名前を呼ばれ褒められることが

至上の喜びであり誉れであるのだ。

王に名前を呼ばれ、褒められただけで嬉しそうな臣下たちだったが

その反面ジンの方はあまり穏やかではなかった。

頑張ったのだから何か褒美をあげようと思い、欲しい物はないかと聞いてみたが

全員が断ってきた。といっても、あげられるものはせいぜい金か領地くらいだが。

結局褒めるだけで終わった論功式典であったが、名前を呼びあげ褒めている間

ジンの視界にはキャラの詳細画面が映し出され、こんなことで忠誠心が下がらないかと心配しながら行っていた。


続いて今後の方針について話す。

南大陸の制圧は思ったよりも早く終わったが、やることは山積みだった。

しばらくは、国の整備に専念するとジンは皆に伝える。

それまで黙って聞いていたヘロルドが手を挙げた。


「北の帝国はどうしますか?」


その問いに少し考えてからジンは答える。


「戦いたくはないな。興味はあるが」


「わかりました」


納得したのかどうかわからないがヘロルドは特に言わなかった。

南大陸の国々を制圧した王にしてはやや弱気に聞こえたかもしれない。

だが、これには理由があった。

帝国を攻める場合、問題となるのは山と寒さである。

ゲーム上、山は行軍速度が大幅に低下し、寒さは毎ターンHPが1割減る。

帝国の皇女殿下の話から推測するに、帝国は北国で間違いない。

進軍しても山で阻まれ、寒さで兵士の数は減るだろう。

防寒着なしでは無理だろう。

しかし、攻める理由はある。水晶だ。

皇女殿下がお守りとして見せた水晶はジンにとって今もっとも欲しい物だった。

『紅暁の空』において、魔結晶は重要アイテムである。

ゲーム上、初期の段階は作成物が限られている。

作成物を増やすには研究が必要であり、要求される素材やミッションで

開放していくわけだ。

初めは木材や石材、特定の建築物の作成。次に鉄と続いていく。

そして、魔結晶だ。これがないと次の研究が進まない。

魔結晶で作れる物は強力なものばかり。しかも、最後までお世話になる。

国作成時に魔結晶がないと確実に詰むだろう。

この魔結晶を帝国が所有しているわけだが、どの程度の規模なのかまでは

わからなかった。

水晶平原と彼らが呼んでいるほどあるのならば、膨大な量かもしれない。

十分な量であれば、攻め込む理由にはなるが、

攻めにくいのは先に述べたとおりだ。

少し考えてから帝国宛の手紙を書くことにした。

ジンはいささか仰々しい紙に帝国を訪問すると書く。

ふと、訪問の理由を何にするかと悩み、一言『観光のため』と書いた。

その書は帝国に素早く送られた。

訪問をする旨が書かれた書は昼食をとっていた皇帝に届けられ、

訪問理由を読んだ彼女は食器を落とし口を開けたまま

しばらく固まっていたという。


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