ヒュノウミ国のその後(外伝3)
ドラムピ国がアルファノア国と戦を仕掛けようと思っていた頃、
ヒュノウミ王クウィーリーは帰国した。
会談の成果を聞いてくる豪族たちに改めて従属した旨を伝える。
豪族たちの反応は二つに分かれた。
声高く愚かな王だとクウィーリーを罵る者と従属に対して前向きな者だ。
従属に前向きな者は、自分たちの現状を正しく理解していた。
クウィーリーは激しく反発する者達を根気よく説得はしたが失敗。
従属に反対な者はクウィーリーから離れて行った。
布告で民にも説明を行ったが、多くの者達は従属で何が変わるのかと聞いてくる。
様々な憶測が飛び回ったがどれも信憑性が薄く
民たちはいつもと変わらない日々を過ごした。
変化が起きたのは数日経ってからである。
まず、中くらいの集落に突如井戸ができた。
一夜でできたため、住人たちは誰が作ったのかわからなかったが、
目の前の水を飲むことで必死であった。
渇きが癒えたあと、彼らは神に感謝をした。
また、放浪していた者達や小さな集落のいくつかはまだ誰にも発見されていない
オアシスを見つけることができた。
どうやって見つかったのかはわからないが、集まった者達は突如頭の中に
ここへ行くように指示されたと語った。
水が民たちに行き渡ったあと、いつ間にか農場ができていた。
畑にはすでに黄金色に輝く麦が生えていたり、
青々とした野菜や瑞々しい果物などがあった。
飢えた民たちはその恵みに飛びつこうとしたが、
育てている人を見て動きを止め固まった。人間ではなかったからだ。
人間よりも大きな体躯をしたホブゴブリンが土をいじり作物を収穫している。
この地域では滅多に見ない魔獣であったため、恐れはあまりなかった。
それでも、ありあわせの武器で対抗しようとした集団もいた。
しばらくして、ホブゴブリンは作物を収穫すると民たちの前に
どさりと収穫物を置いて戻っていく。
収穫物に手をつけると民たちの戦意は徐々に薄れていった。
数日後、クウィーリーのもとに豪族たちが集まっていた。
話題は各地で起きた不思議な現象のことだ。
お互いに自分たちの住んでいる場所に起きた変化を話した。
だが、その話に入れない者も多くいた。
彼らはそういった恩恵をもらっていなかったのだ。
他と比べ比較的豊かな暮らしを送っていることで、有利な立場だったが
危機感を覚え、不平不満を言いにきていた。
そんな彼らに、クウィーリーは言った。
「貴公らがアルファノアに従属を誓うのであれば、
みなが味わっている豊かさを手に入れることができる」
この言葉で数人が従属を受け入れ、残りは渋った。
クウィーリーは、みんなを引き連れて王都を見渡せる場所へ案内する。
そして、ある場所を指さしよく見るようにみんなに言った。
みんなが注目するその場所は、驚くべき光景であった。
そこは、今まで家が敷き詰められていたところであったが今は空き地で何もない。
よく見ると真っすぐとその空き地は続いており、時折左右に分かれていた。
注目する中、突然何もない空間に骨組みが形成された。
骨組みができると、今度は次々と石が積まれていく。
積まれた丸い石は綺麗にカットされ、全体的に形が整えられた。
あっという間に王都の水源から都市に続く水路の完成である。
その後木の根のように小さな水路が都市中に広がっていく。
水路に豊富な水が流れると都市のあちこちで歓声が上がった。
あっけに取られている豪族たちにクウィーリーは言う。
「従属を宣言し、数日後にこれだ。わかるか?これがアルファノア国の力だ。
これを見てまだ従属に反対な者がいればこの場から立ち去るといい。
ただし、立ち去った時点でこの恩恵は一切与えられないだろう」
その言葉に反対だった豪族たち全員が従属に賛成した。
「この従属でヒュノウミという国はなくなるだろう。
だが、その名前は消えることはない。今後、我らの国はアルファノア国。
そして、この場所はヒュノウミ地方として残るのだ」
その日は王宮では宴が行われた。ヒュノウミ地方中の豪族がすべて集まった宴は
盛大に執り行われた。
もはや、王でなくなったクウィーリーは今後の生活に思いをはせる。
そこに、一人の親しい豪族がクウィーリーに近づいて話しかけた。
彼はどうしても聞きたかったことがあったのだ。
何の疑問も持たずに、なぜアルファノア国に従属を即断したのかと。
その問いに、クウィーリーは誰にも言ってはならないぞ?
と、前置きをしつつ答えた。
「私には人がどのような人物なのか一目でわかる力がある。
もちろん、すべてがなんでもわかるというわけではない。
なんとなくこういう人物なんだなということが分かる程度なのだ。
初めてアルファノア国王を一目見た時わかったのだ。
これはなんだ?と。すべてが異常で異質。人間とは思えない。
分からない何かが全身を駆け巡り震えた。
そして、こう思った。決して敵対してはならないと。
ならば、従属しかあるまい?いいか、このことは他言無用だぞ?
あの人間ではない王の機嫌を損ねたくはないからな」
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