38(対ドラムピ国戦2)

静寂がその場を支配した。

この平野に6万人の人がいるとは思えないほどの静けさだ。

両軍がにらみ合うこと数刻。ドラムピ国軍に動きがあった。

ドラムピ国軍騎馬隊が突撃してきたのだ。

シエラは慌てることなく冷静に指示を出す。


「エルフ弓兵隊、前へ」


アルファノア国軍の隊列が変わり弓矢を持ったエルフ達が前に出てきた。


「構え!」


エルフ弓兵隊の隊長が号令をかける。

エルフ達は弓を引き絞ると透き通るような瞳で遠くを見た。


「放てぇっ!」


ビュウ!という音ともに矢が一斉に放たれる。


「構え!」


間隔をおかず連続でエルフ達は弓を引き絞り何百という矢が空に放たれた。

矢が空から落ちてくると騎乗兵に次々と当たっていく。

何人かは矢を盾で防ぐ。ここまでは想定通りである。

動いている敵に対して矢を当てるなど至難の業。

ゆっくり狙って撃つより矢をばら撒く方が効果的だからだ。

アルファノア国軍の前衛が視界に映った時、先頭の騎兵は


「突撃!」


と叫んで気が付いた。

周りに自分以外に数人しか見当たらない。

後ろを振り返ると見たこともない光景が広がっていた。

地面に刺さっている矢の数が圧倒的に少ないのだ。

矢のほとんどは地面に倒れている騎乗兵に刺さっていた。

撤退と叫ぼうとしてその兵士は頭に矢が刺さり絶命した。

騎馬隊が全滅したことでドラムピ国軍は混乱が起きていた。

その混乱に拍車をかけるように報告が来る。


「将軍大変です!前衛隊にも矢が!」


「そこまで矢が飛んでくるものなのか!」


「エルフの力舐めていましたな」


「ガイマンド」


ダロンは声をかけた。

彼ならなんとかしてくれないかと思ったからだ。


「大丈夫です。おい」


「へへへっ。お任せください」


ガイマンドが声をかけると彼の後ろに座っていた人物が立ち上がる。

黒いフードとローブで顔がはっきりと見えないが異様な気配を感じた。


「この者はなんだ?」


ダロンはたまらず素性を聞いた。


「こいつは私が雇った魔術師です」


「魔術師!」


「これからこの者が魔術を使い敵の目を塞ぎます。

そしたら全軍で突撃してください」


「わかった」


「お前たちもだ。いいな?」


ガイマンドは傭兵たちにも声をかける。

傭兵の長は魔術師に対して半信半疑だったが、エルフ弓兵がいるところへ

一番槍を命じると目を輝かせた。


「一番をもらえるとなれば話は別だ。早いとこお願いしますよ」


そう言って自分の部隊へ戻っていく。


「それじゃあ始めます」


そう言うと魔術師は厳かに手を空に捧げ何かを発した。


「הערפל הזה」


すると、アルファノア国軍側に突如濃霧が発生し完全に見えなくなってしまった。

ガイマンドが突撃の号令をかけると兵士たちは一斉に走り出した。

霧が近づいてくると武器を突き出し突っ込んでいく。


霧がアルファノア国軍を覆った時、混乱はさして起こらなかった。

シエラは弓兵隊を後方に下げ、前衛に迎撃態勢を取らせた。

前衛部隊とドラムピ軍の突撃部隊がぶつかり激しいせめぎ合いが行われた。


「右翼、一部突破されました!」


右翼から来たであろう伝令がシエラに状況を伝える。


「抜けた穴は埋めて。全軍このまま」


「了解!」


シエラは伝令に答えると正面の戦いに集中した。


右翼を突破したのはドラムピが雇った傭兵団であった。

彼らは周りの敵を無視しつつアルファノア軍の奥へと突き進んだ。

この時、傭兵団長のオディスとその仲間たちの思考は一体となっていた。

(エルフ!エルフはどこだ!)

前衛を突破したあと敵兵とはあまり出会っていなかった。

この霧だ。恐らく混戦していて位置があまりわかっていないのだろう。

突然ヒュッという音とともに近くにいた味方が倒れた。

体には矢が刺さっていた。

ぼんやりと霧の中に現れた姿は彼の知っているエルフの特徴をしていた。

(エルフ!)

よく見ると周囲に弓を構えたエルフがたくさんいる。

オディスたちはアルファノア軍の弓兵隊のところまで入り込んでしまっていた。

仲間たちはエルフに一斉に飛び掛かっていく。

弓以外の武器を持っていなかったエルフ達は次々と地面に押し倒されていった。


「ぐえっ」


誰かがやられた声がした。その声は次々と周囲で起こっていく。

異変を感じ取り慌ててオディスが武器を構える。

すると、いつ間にか目の前にエルフが一人立っていることに気づいた。

そのエルフは弓を持っている今までのエルフ達とは違った。

見た目は他のエルフに比べさらに美しい。容姿もいい。

だが、すぐに飛び掛かれないのには理由があった。

まず、彼女が弓ではなく片手に剣を一本ずつ持っていたこと。

剣は血で濡れており、さっきまで使われていたのだろう。

そして、気配と雰囲気だ。

彼女が現れた時、周囲の温度が一気に低くなり寒く感じた。

彼女が動く。目の前のオディスには目もくれずにエルフを襲っている

傭兵たちを斬っていく。


「だ、団長!」


傭兵たちが次々と斬られていくの止めるべくオディスはそのエルフに向かった。

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