36
シュグニテ王マルギスとその兵たちは予めアルーム周辺に潜んでいた。
ドラムピ国軍とアルファノア国軍が衝突したという知らせを受け、
彼らはアルームへと向かっていった。
彼らが率いるのは精鋭の兵士2千人。
その構成は王を守る近衛兵と軍から選抜された優秀な者、強い者と
海魔獣ハンターである。
海魔獣ハンターの中には単独や少数で大型の海魔獣を狩猟した者がいた。
彼らは王都目前まで迫っていた。先頭を走る兵士がふと前方に黒い騎士が
立っているのに気が付いた。
こちらは馬に乗っており、急に止まることはできない。それに、たった一人など
大した障害でもない。槍を突いて終わりである。
止まらないと判断し、槍を突きだして黒い騎士に近づいたところ
彼は炎に包まれた。
炎に包まれたのは彼だけではない。彼の周囲と後ろにも炎は広がっていった。
炎で馬は暴走し、四方八方に散っていく。
騎乗者は全身が炎で燃え上がり、生きている者は地面を転げまわった。
兵士に比べ軽装備だった者はそんなことはする暇もなく息絶えた。
後方にいた近衛兵は、黒い騎士から炎が生まれると同時に馬から飛び降りて
盾を構えた。王の近くにいた兵は、王を失礼を承知で強引に下ろし盾の後ろへと
避難させた。
炎は兵と馬を炎上させると、近衛兵の盾を受け止まった。
盾を持った兵士は、熱さですぐさま盾を手放しかったがそうはいかない。
次炎が来れば、防ぎようがないからだ。すると、再び炎が迫り近衛兵の盾を焼く。
鉄の盾はしばらくすると赤くなり始め、盾を持った者たちは悲鳴を上げ始めた。
真っ赤になった鉄の盾が崩れ落ちた瞬間、炎は近衛兵と守っていた王を焼いた。
悲鳴が聞こえなくなると同時に炎は消え、そこには焼き焦げた匂いと黒い物体が
転がった。
「お見事です」
スキルを使い2千人を燃やし尽くしたレオンに駆け寄り労いの言葉をかけるミオ。
「このまま王宮へ戻りますか?」
「いや」
王から命じられた任務はここまでだ。他に何があるのだろうか。
ミオはそう思い他になにかあるのかと聞いた。
答えたレオンの言葉にミオは驚く。
「このままシュグニテに向かう」
「一応、聞きますけどなぜですか?」
「決まっているだろう。潰すためだ」
「陛下は迫ってきている兵を潰せと命じたはずです」
ミオは戸惑いながら受け答えをする。
レオンが主の命ではなく自分の意志で動こうとしているからだ。
「そうだ。だが、こうも言ったシュグニテが反乱を起こした、と。
そして、それを潰せとも言った」
これを聞いてミオは頭を抱えそうになった。確かにそう言ったのは事実だが
王の意図はあくまで迫りくる兵の排除のはずだ。
「我らが王を裏切り後ろから刺そうとする行為は万死に値する。
王は死んだが国民もまた同罪である。よって、俺の手で国ごと潰す。
ミオお前は王宮に帰り陛下に報告しろ。このことも伝えていい。いけ!」
「わかりました。伝えます」
ミオにレオンを止める力はなかった。レオンがシュグニテ方面に向かうのを見て
ミオは王宮に戻っていった。
しばらくして、レオンは国境から一番近いシュグニテの都市に来ていた。
人々が賑わう声がする中、レオンはスキルを使う。
レオンの姿はみるみるうちに巨大な炎のドラゴンに包み込まれた。
ここまでくると、周囲の人々も騒ぎ出す。
王都目前にドラゴンが急に現れたので大パニックだ。
突如ドラゴンの姿は消えた。
パニックの元が消えたので人々はほんの少し安堵した。
その後、衝撃が来て人々は吹き飛ばされた。
大きな衝撃で飛ばされ、地面や建物に叩きつけられ
身動きが取れない人々に炎が迫ってきた。
衝撃で建物は壊れ中にいた人にも炎が来る。
炎は建物や人などすべてを飲み込み焼いた。
衝撃は街道に落ちてこなかったが、人口密集地には必ず落ちた。
何かが迫ってくると王都に早馬が届くがすぐに動ける人間は少なかった、
兵の出撃を命じようとした時、衝撃で王宮は崩れ炎に包まれた。
炎はシュグニテの生きているものすべてを焼き殺した。
唯一生き残ったのは、漁で海に出ていた者たちと内陸部の奥で暮らしている
小さな村落で暮らしている人たちだけだった。
海や山から黒い煙と共にシュグニテが焼けていくのが見れたが
できることはなかった。
この光景を見た者は、戦争で侵略されたと思っていた。
ある日、何も知らない商人がシュグニテを訪れるとこのことは
大陸全土に瞬く間に広がった。
ドラゴンを怒らせたとか海魔獣を狩り過ぎた結果災いを招いてしまったなどの
憶測が飛び交ったが真相を知る者はいなかった。
こうしてシュグニテは一夜のうちに滅んでしまった。
後に『災いの火』と呼ばれ大陸大事件の一つとして記録されることになる。
【海魔獣】
シュグニテ近海やその他の海域でよく見られる大型の海洋生物。
その姿は地球で言うところのタコやイカ、サメ、クジラなどに似ている。
しかし、上記の生物達と決定的に違うのは大きさである。
人畜無害の魔獣も含め、それらは巨大で船を襲う。
【海魔獣ハンター】
冒険者ギルドとは別の枠組みになるシュグニテ固有の職業。
(他国では海魔獣も冒険者ギルドが扱う)
ハンターギルドで登録すればなれるが、昔は漁師の職業を経験しなければ
なれなかった。彼らの凄いところは、船の上で戦うのではなく海魔獣に取り付いて
仕留めるという点である。強靭な体力と海の経験、肺活量などが必要とされる。
泳げるものが必須なのだが、金が儲かる職業や憧れの職業という意識が強く
内陸部からくる泳げない若者や一獲千金を狙った者が毎年亡くなっている。
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