35

3日後、ルエルは王宮を訪れていた。

戦争だと騒いでいる城下と違って王宮は静まり返っており不気味であった。

最初、戦える人間すべてが出払ってるのかと思ったが、

奥に行くにつれ、素人の目でも戦士だとわかる者が見かけるようになると

それも違うのだとわかった。

謁見の間に着くと、ルエルは帝国の作法で挨拶をした。


「お初お目にかかります。ベルバーン帝国第二皇女ルエル・ドラクロワ

と申します」


「初めまして。私はアルファノア国王、ジン・アルファノアだ」


ルエルは目の前の男を見る。第一印象は平凡な男だった。

容姿は普通。髪色は黒だがそれも別に大したことではない。

体格も武勇に優れているような体つきはしてないようだ。

凡庸な男にもかかわらずこの男に付き従っている者達はいったいなんだろうか。

という疑問が頭の片隅に浮かんだ。


「この度はお忙しいなかこのような会談を申し込んでしまって

申し訳ありませんでした」


ルエルがそう言って頭を下げるとジンは慌ててそれを止めさせた。


「頭を上げてくれないか。今回の戦争は予想できなかったこと。

あなたのせいではない」


「ありがとうございます」


「ルエル皇女殿下。挨拶はこのくらいにして場所を移さないか?

ここは少々堅苦しい」


「陛下がそう仰るのであれば」


そう言うとジンはルエルを中庭へと案内する。

花と緑で色鮮やかな庭園を見回せる場所にテーブルと椅子が置いてあった。

ジンが席に着くとルエルがそれに続いた。

二人が席に着いた後メイドがお茶を二人の前に置く。


「さて、遥か北の帝国がどのような用件で来たのかな?」


ジンはお茶に手を付けずに真っすぐとルエルのほうを見てそう問いかけた。

ルエルは直感的にこの王に長い言い回しなどは必要ないと判断した。


「帝国とリトビエ王国は長年に渡り不毛な戦争を行ってきました。

こちらから和平や交流などの交渉を持ち掛けても

王国は見向きもしませんでした。今は国も変わりましたが、元はリトビエ王国です。アルファノア国であっても帝国と争う気なのかそれを聞きにきたのです」


「ふむ。正直なところ、こちらとしては帝国と争う気はない」


「では!停戦、いえ休戦ということで?」


「待ってくれ!そもそもアルファノア国と帝国は戦ってすらない。

ならば休戦や停戦はないはずだ」


「確かにそうでした。失礼しました」


「交流は今後どうなるかわからないが少なくとも交易はしたいと思っている」


「それはありがたいお言葉です」


「皇女殿下、帝国ではなにが特産なのか教えてくれないか?」


「はい!お教えしましょう」


そう言うとルエルは帝国の自慢な物を並びたてた。

まずは、毛皮などの衣類系から始まり、魚やハチミツ、ハチミツ酒など食べ物などの紹介がされた。特に熱を入れて紹介したのは鉄に関してである。

帝国は鉄鉱石が豊富で鉄精錬に長けており

鉄製品が多く出回っていることを話した。

話している最中ルエルはジンのほうをちらりと見るが惹かれている様子はない。

実のところ帝国の鉄製品が一番の見所だったのだ。

鉄精錬の良さはどの国も引けを取らず、帝国が作る武具の数々は武人であれば

あるほど喉から手が出るほど欲した。

(武人ではない)

それは彼女が最初に抱いた印象。

(武人でないのなら精練された武具の話は興味がない?

でも、鉄製品にも興味がないのはどうなのかしら)

あらかた話終わるが特に惹かれた様子ではなかった。

ジンから他には?と聞かれ彼女は考えこんだ。

そして、帝国ではあまり重要視されていない物に行きつく。

他国でもあまり興味が惹かれないものだ。


「水晶なんですけど」


「水晶?」


「はい。帝都のさらに北の方で採れるんです。

効果も特になく暗闇で仄かに青く光る程度なんですが、装飾品として庶民向けに

出回っている物でして」


「今実物とかはないんですか?」


「残念ながら持ってきてはないのですが。あっ!でも確か騎士の一人が着けていたのがあるのでそれでよければ・・・」


「頼む」


予想外の食いつき方にルエルは騎士を呼び

水晶が付いた装飾品を受け取りジンに渡した。


「一応、お守りらしいので返していただけるありがたいのですが」


「もちろん」


了承するジンだが目は水晶に釘付けだった。

ずっと見続けているため、ルエルは不安になり声をかけることにした。


「あの陛下?」


「ああ、すまない。こういった美しい物はここではあまり採れなくてね。

つい見入ってしまった。こういうのはたくさん採れるのかな?」


目線を水晶から外してジンは少し笑いながらルエルに話しかけた。


「はい。たくさん採れますよ。ですが、一番採れるところといったら

帝都の北にある水晶平原と呼ばれるところでしょうか」


「ほう、水晶平原?」


「ええ、小さい物から大きい物まで、ありとあらゆる大きさの水晶が

広がっているんです」


「それは見てみたいな」


「でしたら是非帝国に来てください。私が案内します」


「それはありがたい。その時はよろしく…」


ジンの言葉が突然途切れた。視線は中空を見つめ固まっている。

再び不安になるルエル。今度は一体何だというのだろうか。

しばらくして、ジンが動いた。


「レオン」


「はっ!」


ジンの近くにいた黒い鎧を着た騎士が呼びかけに応じる。


「シュグニテが反乱を起こした。こちらに軍が来ている。

兵士2千を連れてこれを潰せ」


「陛下。シュグニテの軍勢はどのくらいですか?」


「約2千だ」


「その程度の人数であれば俺一人で十分です」


「・・・わかった。だが、念のためにミア!」


「ここに」


どこからともなく獣人の少女が現れる。

ルエルが獣人!?と声を上げたが無視をした。


「レオンに付いていけ」


「わかりました」


二人が立ち去るとジンはルエルに再び向き合う。


「突然、申し訳なかった。ええと、どこまで話したかな?」


「え?あ、あの反乱と聞きましたが」


気になることがありすぎて、ルエルは混乱した。


「ああ、大丈夫。ちょっとした反乱だ。大したことはない。

そうだ、この騒動が収まったら近いうちに帝国に行きたいのだが

大丈夫だろうか?」


「も、もちろんです!大丈夫です!」


急な展開に言葉がおかしくなってしまったが、

この提案は願ってもない機会だった。南大陸の王が北大陸に訪問するというのは

何年ぶりだろうか。彼女にとって非常に大きな成果だった。

その後二人は他愛もない会話をした。主に食に触れ、笑いあった。

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