34

ドラムピ国が塩の輸出停止を布告してから幾数日が経った。

ドラムピの動きに対してアルファノア国は何もしなかった。

咎めることもなく注意をすることもなく兵を出すこともなかった。

民たちも初めは動揺が見られたが今や関心を失っており平和な日常が続いていた。

そんな時それは突然きた。恐らく、ドラムピ国から来た商人であろうか。


「戦争だ!ドラムピ国がアルファノア国に対して宣戦布告した!」


この発言により人々は混乱に陥った。

しかし、この言葉より先に戦争になったことを知った者がいた。

ジンである。少し前、彼はいつものように生活をし、マキシアリから

近々ベルバーン帝国の皇女が訪問するといった報告を聞いたばかりだった。

突如、システム画面が勝手に開きシステムメッセージが目の前に出てきた。


〈ドラムピ国がアルファノア国に対し宣戦布告しました〉


「は?」


思わず声が出てしまった。

この状況になると彼は予想をしていなかった。

塩ばかり生産している国がへそを曲げているだけだと思っていたからだ。

画面にはドラムピ国の軍がアルファノア国に迫っているのが見えている。

慌ててジンは軍を編成する。現状、兵力は申し分ない。

政策による食料生産の拡大で増えた人口と元のリトビエ王国の人口を

合わせると非常に多い。

そこから兵士への生産を行うことで兵士数は大幅に増強された。

また、王城のある領地のほうではエルフ弓兵の育成が終えたところである。

だが、軍隊は兵士の数だけいても指揮をする者がいなければ意味がない。

優秀な指揮官が必要だ。

ドラムピの軍勢が到達するまでに時間はまだある。

ジンは素早く、画面を操作すると指揮官と副官、各部隊長を決め、

投入する兵士の数のところで彼の指は止まった。

(どうするべきか)

どんなに強いキャラでも数の暴力には勝てない。そうジンは思っている。

侵攻軍の兵数はおよそ2万5千人。こちらが出せる兵数は4万人。

これはアルファノア国で出せる全兵力だ。

数だけ見れば3万も出せば十分かもしれないが、万が一のこともある。

結局、ジンは3万5千人投入することを決めた。

近いうちにドラムピ国に一番近い都市ヌンザワ周辺で両者はぶつかるだろう。


一方その頃、ベルバーン帝国第二皇女ルエル・ドラクロワは

アルファノア国王に会うために都市アルームに来ていた。

先触れは既に出しており、面会の約束も取り付けていた。

ルエルは若干14歳でありながら頭もよく皇帝からも期待されていた。

(騒がしいわね)

ルエルは馬車の中から異様な民たちの喧噪に気づく。

アルームは上へ下への大騒ぎだった。彼女は知らなかったが、この時

迫りくるドラムピ軍に対し軍を出すと王宮から布告があったばかりだったのだ。


「殿下」


ルエルにそっと騎士が近づき声をかけた。

彼はアルファノアの王宮に出向き訪問の日時を再度確認しに行った者だった。


「どうでしたか?」


「今少々立て込んでいるとのことです。日を改めて3日後では

どうかと言われました」


「わかったわ。それでいいと伝えてくださる?

それにしても騒がしいわね。何かあったの?」


「はい。騒がしいのはドラムピ国がアルファノア国に

宣戦布告を行ったせいかと」


「戦争!」


「はい」


「だから3日後なのね。それにしても大変な時に来てしまったわね。

ここは大丈夫なのかしら」


「何とも言えません。しかし、ここからドラムピ国までは距離があります。

万が一に備え一度帰国しますか?」


「いいえ」


ルエルは騎士の言葉に首を振って否定した。

そして、自から身の安全を心配してしまったことに少し悔いた。

これでは、戦争が起きるから帰りたいと騎士たちに思われてしまう。

皇帝陛下から頂いたせっかくの機会をここで逃すわけにはいかない。

今回の会談にあたり、ある程度の権限を与えられている。

一つでも成果を上げられれば上々だ。

それだけで、第一皇女との差が縮められると思った。


「少し都市の中を見回りましょう」


そう言うとルエルは騎士の視線から外し、外の様子に集中した。


「はっ。都市に詳しい者を手配いたします」


騎士が立ち去るのを視界の隅で見届けてから息を吐いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る