33

ガイマンドの提案にダロンは驚く。

だが、納得もした。確かにその二国が付けば心強い。

しかし、ダロンはガイマンドの提案に首を振った。


「ヒュノウミは無理だろう」


「なぜですか?」


「あそこは騎馬民族が元だ。戦争となると各地に散らばっている部族に

声をかける必要がある。それに、恐らくヒュノウミ王は野心がない」


「そうなるとシュグニテしかありませんが」


「そうだろうな。声をかけてみるとしよう。だが、これだけでも

戦力的には不安だぞ」


「残りは傭兵を雇いましょう」


「傭兵だと!あいつらは金で簡単に手のひらを返すではないか!」


「確かにそういうのもいると聞いています。ですが、陛下。

傭兵は信用と実績を一番に大事にするということを知っていますか?」


「どういうことだ?」


「例えばですが、金の金額で元いた陣営を裏切り敵側についた

傭兵がいたとしましょう。その傭兵を次の戦で使いたいと思いますか?」


「思わん」


「そうです。一時の金欲しさに裏切ったとしても次に繋がりません。

裏切った時点で傭兵の信用は地に落ちてしまうからです。

だから、大きい傭兵集団ではそのようなことを犯しません。

次に実績です。彼らの中には二つ名を持つ者が数多く存在します。

なぜ、二つ名が付くのか?簡単です、それだけ戦場で活躍してるという証明です」


「詳しいな」


「一時、傭兵団に属していたもので」


「ほう。では、どこかおすすめはあるのか?」


「紅竜傭兵団と月下の剣傭兵団を雇いましょう。

この2つは大陸で1、2を争う規模の兵数を有しています。

金はかかりますが腕は確かです」


「金か・・・。果たしてそれだけの見返りがあればよいが」


「何をおっしゃいますか!もし、今アルファノア国を倒せば南大陸の覇権は

陛下が握ることになるんですよ?膨大な土地と経済が手に入るわけです。

投資するには十分ではないですか!」


少々弱気になったダロンにガイマンドは必死に売り込んだ。

もし、ここでダロンが引いてしまえばここまで来た意味がない。

やる気にさせるために利点だけを述べていく。

ガイマンドの説得あってかダロンはだんだんとやる気に満ちてきた。


「いいだろう。ガイマンド、貴公を軍の指揮官に任命しよう。アルファノアに攻め

あの生意気な王の首を斬り落とせ!よいな?」


思ってもみない提案にガイマンドは驚いた。この提案で彼は部隊の指揮程度なら

やらせてもらえるかもしれないと思っていたのだ。


「ははーっ!お任せください」


ガイマンドが出ていくとダロンはシュグニテ国への使者を出した。

あえて、詳しい内容は伝えずただ会って話したいことがあると。

数日後、城ではない限られた人しか知らない場所でドラムピ王ダロンと

シュグニテ王マルギスは小さいテーブルを囲って座っていた。

沈黙がしばらく続いたあと、怯えるようにマルギスがダロンに話し掛けた。


「大事な話があると聞いて会いに来たがいったい何の用で?」


「なにそんなに怯える必要はない。ただ提案をしにきただけだ」


「提案?」


「そうだ。マルギスよ、アルファノアを裏切れ」


「っ!?」


思いもしない言葉にマルギスは言葉を失う。

それを見て、ダロンは説得するように言葉を続けた。


「これから、ドラムピ国はアルファノアに対して戦を仕掛ける。

我らが奴らの軍を引き付けている間にお前が王都を取るのだ」


「そ、そのようなことはできない」


「ははは!いいか?お前は私に借りがあるはずだ。それを返してもらおう。

それに、あの国にまだなんの恩も義理もないだろう?」


「確かにそうだ。だ、だが勝てるのか?相手はあのリトビエ王国を倒したんだぞ?」


「リトビエ王国を倒した、か。だが、正面きって堂々と倒したわけではない。

それは知っているだろう?奴らは頭だけを取っただけなのだ。

それを我らでやり返すわけだ」


「し、しかし」


「もし、お前が成功した暁には南大陸を二人で統治しようではないか。

そうだな、お前には船が沢山あるだろう?海上輸送を任せてもいい。

塩の産業もお前の物だ」


「私が輸送と塩の産業を?」


ダロンの提案にマルギスは驚いた。あの欲深いダロンが利益が一番ある塩の産業と

輸送を自分に譲ると言ったからだ。

確かに今自分がやっている事業よりは魅力的な話だ。

考える余地など彼にはなかった。


「その言葉に間違いないな?」


「もちろんだ。書面に残してもいい。どうする?」


「その提案に乗ろう」


「取引成立だな。攻める機会は後ほど伝える。

今はアルファノアにいい顔をしておくんだ」


「わかった」


ダロンは顔をフードで被せ顔を隠すとわずかな護衛と共にその場から立ち去った。

しばらく、マルギスはその場にいた。

彼の頭の中はもはや未来の事業のことしか考えていなかった。


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