32
ドラムピ国の輸出制限は多くの者を驚かせたものの北大陸を含む
その他の大陸にはあまり効果がなく国を動かすようなことはなかった。
それでも、多少なりとも影響がある国からチクりと嫌みのような意見が
アルファノア国に言われる程度であった。
帝国が介入してくるかもしれないというドラムピ国の期待は裏切られる。
加えて、ヒュノウミ国とシュグニテ国が続けざまにアルファノア国の属国となり
ドラムピ国は徐々に追い込まれている形になった。
「くそっ!」
ガシャン!!
ドラムピ王ダロンは自身の思惑が外れ、怒りのままに宝石が散りばめられた
金の杯を無造作に投げた。
ダロンは自国の産業に絶対の自信を持っていた。
多くの国へ輸出し莫大な利益を上げているからだ。
だからこそ、影響力もあると信じていた。
これまでは、こちらが渋れば相手が折れ、
量を減らすと脅せば大抵の相手は要求に従ったからだ。
だが、今はどうだろうか。
輸出を停止したのに、他三か国はなんにも言ってこない。
シュグニテ国など一番困るはずなのに。
帝国を動かそうともしたが、未だ動く気配すらみえない。
他の国々は小国が多く、あのアルファノア国と対等に渡り合えないだろう。
「何か手はないか」
「陛下」
「なんだ!」
「陛下にお会いしたいという者が来ております」
「いつものように適当に済ませろ」
ダロンは来客の知らせに来た宰相を適当にあしらう。
普段何度もこのような会見の申し込みがあるため、
特別な客人以外は代理に任せていた。
「直接お会いした方がよろしいかと思います」
しかし、宰相は王に向けて会見することを強く求めた。
「なに?」
結局、ダロンは宰相の強い勧めに折れて直接会うことにした。
ただし、謁見の間ではなく執務室で会うこととなった。
部屋にはすでに男が立って待っていた。
出で立ちはみすぼらしかったが強者の気配がピリピリとしており
部屋の周りに立っている兵士は殺気立っていた。
ダロンが杯で机を叩くと気配と殺気は霧散する。
「なにものだ」
「私の名はガイマンド・オールダム。リトビエ王国の大将軍を務めておりました」
「ガイマンド!?あのリトビエ王国の?」
偽物かもしれないと一瞬よぎったが、あのような尋常ではない気配の持ち主が
騙る意味はないと確信する。
「それでガイマンドよ。なぜ我に会おうと思ったのだ?」
「陛下がアルファノア国と争っていると聞きまして、
自分を売り込みに来た次第です」
「まだ争ってはいない。まだな」
ダロンは細かく訂正する。
「失礼しました。ですが、いずれは争う予定なのでしょう?」
「いずれな。今はそう準備中というわけだ」
手段を模索中とはさすがに言えなかった。
「でしたら、私に考えがございます」
「ほう、申してみよ」
「アルファノア国を武力を持って制圧しましょう」
「ふん、それができたらとっくにやっているわ!」
どんな考えかと一瞬でも期待した自分が馬鹿らしい。
ダロンは単純過ぎるその案に怒声をあげた。
「陛下、落ち着いてください。これも考えあっての案です」
怒るダロンに対して冷静なガイマンドは落ち着かせるように言葉を続ける。
「アルファノア国は確かに大国です。今や周辺二国を取り入れ南大陸は目前です。
私はリトビエ王国がアルファノア国に切り替わるところを見ています。
あの時兵士たちは私の命令を受け付けませんでした。
王宮が真っ先に落ちたということも王が逃げ出したということも知っています。
しかし、こうは思いませんか?
アルファノア国を名乗る集団とジン・アルファノアという人物は
大した力を持っていないのではないかと」
「なにを馬鹿な!王都が落ちたのはその集団の力だろう?
十分力があるではないか!」
「確かにそうです。ですが、王都と王宮だけを攻めるのであれば
別に大軍でなくても簡単に落とせるはずです。
私が言いたいのは、彼らは脅威と呼べる戦力を有していないということです。
十分な軍の数と脅威である魔術師が彼らにはいなかった。だから、リトビエ王国を正面切って戦うのではなく軍の目が帝国に向けていられる間に王の首だけをとったのではないでしょうか」
「切り替わったというあれについてはどうだ?十分脅威ではないか!」
「確かにあれは恐ろしいです。
しかし、そう何度も使えないのではないでしょうか。
頻繁に使えるのであれば、わざわざ他の国へ従属を呼び掛ける必要もない。
洗脳ならば、3人の王にかければいいのにそれもしなかった」
「確かに。だがあの二人は従属したぞ。あれがそうなのではないのか?」
「その場にいなかったのでわかりませんが、
むしろなぜダロン陛下にはかけなかったのです?」
「む、耐性があったのやもしれぬ」
「そのような魔道具の装着は?」
「ない」
「では違うでしょう。三か国の中で一番力がある国にかけないのも変ですし」
「中枢が力を持っていないとはいえ元のリトビエ王国は大国だ。
動員される兵の数も馬鹿にできん。どうやって勝つのだ?」
「それも問題ありません。リトビエ王国の常備軍はおよそ3万ですが
その大半は農民を兼務してる兵になります。帝国との戦いが終わった後、
軍は解散し兵たちは自分の領地へと帰っていきました。
一部を残しましたが今いる兵士の数は1万程です」
「なるほど、時間か」
「そうです。元々帝国との戦いは時期が大体わかっていたので
兵が揃うまで十分な時間がありました。しかし、今や兵は王国領土内に
散らばっている状態もしくは家に帰っている最中です。
それらを呼び戻すにはかなりの時間がかかります。
そして、なによりアルファノア国は建国して間もないことも
我々に有利に働くでしょう」
「どういうことだ?」
「最初に王を取り頭と軍を抑えましたが、それだけでは国の運営はできません。
多くの貴族の説得も必要になります。恐らく、今国内の掌握に必死でしょう」
「なるほどな。今内部のゴタゴタで忙しいというのであれば叩く機会かもしれん。だが、我が国だけでは心許ないな」
「ですから、陛下。シュグニテかヒュノウミ
どちらかに裏切るよう説得できませんか?」
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