31
ドラムピ国が塩の輸出を制限を発表した同時期。
ようやく、リトビエ王国がアルファノア国に統一されたことが北大陸に伝わった。
ベルバーン帝国帝都スピハダは帝国領の最北よりやや手前に位置している。
北に行き過ぎると寒さで生存が困難になるためだ。
帝都は活気に満ち溢れているものの、
リトビエ王国王都アルームよりかは下だった。
帝都の奥にある荘厳で大きな城は見る者を圧倒した。
城内はなるべく日の光を取り入れるように工夫されていたが、床は非常に冷たく
滑りやすいため歩く者に『氷の上を歩くように慎重さが必要』といわれている。
この城に執務室はなく、皇帝は政務を行う場合謁見の間にて政務関わる臣下と
宰相に囲まれながら各地方からくる嘆願や知らせなどを
受け取り決定を下していた。
その日の朝、朝食を終えた皇帝とその臣下たちはいつもの業務をこなすため
謁見の間に入り待った。知らせや新たなできごとを最初に聞くためだ。
数枚の紙を持った秘書官が入ってくると、略式で皇帝に挨拶すると紙を渡した。
紙を受け取ると、ベルバーン帝国皇帝イーザ・ドラクロワは立ち上がり叫んだ。
「あのリトビエ王国が滅んだ!?馬鹿な!」
王国と帝国が戦ったのはまだ最近のことだ。
新たな国と王が成り立ったことも伝わっているのだが、長年戦ってきた国が
あっけなく滅んだことの衝撃は計り知れない。
北の女王と呼ばれている彼女は美しく気品があった。
子を産んでも体型に変わりなく、見る者は彼女に夢中になった。
また、北国なのに体が見えるような恰好は扇情的であった。
何事にも怯えず美しい顔の皇帝である彼女が動揺しているのである。
一大事だ。
「アルファノア国?聞いたこともない。いったいどこの勢力だ?」
イーザはブツブツと口元に手をあて現状把握している勢力のうち
リトビエを攻めそうな候補を探し始める。
次第にそれは、これからの対策について切り替わり始めた。
「あのう・・・」
「なんだ?」
皇帝が思考の海に潜る前に秘書官は声をかける。
伝えたいことはまだあるからだ。
「それからこれもです」
「なに?」
秘書官から手渡された紙を見てイーザは眉をひそめた。
臣下たちは身構える。また彼女が声を上げるかと思ったのだ。
「ふん。先ほどの知らせよりは大したことはないな」
そう言うと彼女は隣にいる初老の男に紙を手渡した。
男は紙を見て内容を簡単に読み上げる。
「ドラムピ国が塩の輸出を制限ですか」
「ああ。北方の国が喜ぶぞ」
ドラムピ国の塩は大陸全土シェアを占めているわけではない。
もちろん、大陸一の生産量である。だが、塩が採れるところは他にもある。
北大陸の西のほうでは塩生産が盛んである。しかし、すでにドラムピ国の塩が
市場の大半に浸透してきてるため、この土地の塩が売れにくいというわけだ。
それもすぐなくなるだろう。
なにしろ、ドラムピ国の塩は市場から減っていくわけだから。
「しかし、これはまた露骨ですな」
「まったくだ。『アルファノア国のせいで』なんて、他の国に介入してほしいと
言っているようなものじゃないか」
「新たな国と王ですか。いかがなさいますか?」
「新王が即位した場合、祝いの言葉を贈り物と共に送るのが通例だ。
誰か行かせて様子を見ようじゃないか」
「誰にしますか?」
「2番目にしよう。いい具合に育っているし」
「わかりました。第2皇女殿下をアルファノア国の使者としてお送りいたします。
ご命令は陛下がなされますか?」
「夕食の時に伝える」
「護衛のほうは?」
「それは任せる。ただし、ケチるな。あれを簡単に失われても困る」
「わかりました」
この話はこれで終わりとなり、彼らは政務を再開した。
さすがにもう彼女が叫ぶようなことはないと彼らはそう思っていた。
【補足】
秘書官:文官の最上位。ただし特別偉いわけではない。
王や宰相、側近にいたるまであらゆる雑務を行う。
扱い方は使う人様々で、来客の知らせを王に知らせたり、
商人ギルドからの知らせを紙にまとめたり、
王から相談されたりと多種多様である。
唯一の特権は王と直接話ができること。
王と直接話すため、最低限の礼儀が必要なため秘書官は貴族出身者のみ。
子爵以上で文官経験がありそこそこの勤続年数がある者に限られている。
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