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豪華な馬車が隊列をなして進んでいく。
時折風でなびく旗を見て、人々は口々に塩漬け肉の印だと言って笑った。
シュグニテ国の輸出している海魔獣の塩漬け肉は国家事業になっているため、
肉の包紙をロウで固める際、国旗の印をつけて売っているからである。
普段、塩漬け肉を食べている人たちは必ず知っているというわけだ。
ただ、国自体の知名度は低い。
印を見ても「シュグニテ国だ!」とは誰も呼ばない。
みんな「塩漬け肉の印」と呼んでいるからだ。
先ほどよりいっそう豪華な馬車が王宮へと進んでいく。
風でなびく旗を見て人々は口々に塩の旗だと言って笑った。
シュグニテ国同様に、ドラムピ王国の塩生産と輸出は国家事業。
運ばれてくる塩や塩が入ったツボにはドラムピ国の印が入っている。
こちらは、シュグニテ国より知名度があった。
商人たちがドラムピ産の塩といって売り込んでいるからである。
それでも、やはり人々は国の名前で呼ばず「塩の」とか「塩の国」と呼んでいた。
三つ目の隊列は馬車ではなかった。
馬は連れているが跨っている人間は布で目元以外を包み、
腰には曲刀を下げていた。
隊列の中央には、大きくて見たこともない生物の上に壁を取り払って
屋根と床しかない物見櫓のようなものが載っていた。
そこにいる人物は、金で装飾を固めた服で肌黒かった。
掲げられている旗を見ても誰も見当がつかず、人々は物珍しそうに見ていた。
2つの馬車と生物が王宮の中に入っていくのを見て、
人々はやっと王の訪問者だということがわかった。
王宮の周囲は普段より兵士が多く、槍と盾を持った兵士たちが王宮を2重3重と
取り囲んでいた。
3人の王は、地面に降り立つと会って雑談をしながら
物々しい警備の王宮へと入っていった。
3人は謁見の間まですんなりと通された。
さすがに、ここにくると雑談などしてる場合ではない。
謁見の間の奥にある玉座には3人の人物が立っていた。
左に白銀の全身甲冑を身にまとい、盾を持っている騎士。
右に黒い全身甲冑で槍を片手に持っている騎士。
玉座のすこし後ろになぜか修道女が立っている。
不思議な光景で目を奪われる3人。
玉座に誰もいないため、どうしても玉座の周りにいる人物に目が行ってしまった。
特に注目を浴びているのは、修道女のほうだった。
服の上からわかる容姿のよさと整った顔立ちは見ていて飽きなかった。
どのくらい待ったのかわからない。太り気味のドラムピ王が限界に
近づいてくるのがわかった。汗も出て立っているのが辛そうである。
他の二国の王はまだ余裕であるが、さすがにこうも露骨に待たされると
気分は嫌な方向へと向かってしまう。
王の所在を聞き出そうと口を開いた時、今まで誰もいなかった玉座に
いつの間にか誰かが座っていた。
隣にいた白銀の騎士が声を出す。
「アルファノア国、ジン・ユークリッド・アルファノア王陛下の参上である!」
それは、一見するとそのへんにいそうな普通の青年だった。
頭の上に王の証である王冠の類はない。
服装は見たこともない意匠であったが、派手な装飾はない。
玉座に寄りかかり、楽な姿勢でこちらを見ていた。
一国の王にはとても見えないと誰もが思った。
このため、二人の王は少し出遅れた。
真っ先に口を開いたのは、シュグニテ王だった。
「このたびはアルファノア王国の建国及びアルファノア王戴冠、
誠におめでとうございます。シュグニテ国王、マルギスと申します」
慌てて同様に賛辞の言葉と共にドラムピ王とヒュノウミ王がつづく。
「ドラムピ王ダロンです」
「ヒュノウミ王クウィーリーです」
「「この度はおめでとうございます」」
「ありがとう。わざわざ遠路はるばるご苦労だった。
今日はゆっくりと過ごされるとよかろう」
見た目に合うくらいの若い声が返ってきた。
続けて、ドラムピ王ダロンが質問をした。
本来ならここで祝い物を与え機嫌を取るのだが、
王が思ったより若かったためダロンが意図的に省いたのだ。
「陛下、この機会にひとつ質問をよろしいだろうか?」
「許す。なんであろうか?」
「陛下の目的を知りたい」
「どういう意味だろうか?」
「今まで無名であった貴殿が、リトビエ王国を倒し新たな国を
作り上げ王と名乗ったのだ。
リトビエを潰したら終わりか
それともまだ続くのかそれが知りたい」
無名と言った瞬間、護衛の騎士たちの圧が鋭くなった。武器を持つ手に力が入る。
「なるほど、目的か。それならば答えよう、私の目的は一つ統一だ」
「統一?」
「まさか・・・」
「?」
「まだ、色々とあるがまず足掛かりとして南大陸の統一を行う」
「なにっ!」
「貴公らには我が国への従属を示してもらいたい」
「くだらん!なにを世迷言を言っている!」
ドラムピ王ダロンは吐き捨てるように言った。
「誰が従うものか!従属したところで我らに何の利もないのだろう!
財貨を没収して利権が欲しいだけであろうが!」
「利ならあるとも。我が統一国家の名の下に平等で豊かな生活を保障する。
お前たち王も残すとも。もっとも、王ではなく地域の統制官としてな」
「豊かだと?今でも十分豊かだ!これ以上ないくらいにな!」
「貴公のことではない。民のことだ」
「くだらん!まったくもってくだらん!儂はこれにて失礼する!
おい、お前たちさっさと行くぞ!」
ダロンは悪態をつくと、他の二国の王に声をかけ去ろうとした。
だが、二人は動こうとしなかった。
「おい!」
再び声をかけるが動こうとしない二人に見切りをつけ
さっさとダロンは出て行ってしまった。
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