とある農民の生活②(外伝2)

町にある役所は非常に混雑していた。

ここにくるのは初めてでどうしたらいいかわからなかったが、

入り口にいる案内人に聞くと、人が一番多い場所へ案内された。

とりあえず、なにをするかもわからない列に並びひたすらに順番を待った。

ジェフが並んでいる後ろには次々と人が補充されていき、

あっという間にジェフは人で埋もれた。

しかし、不思議と退屈はしなかった。周囲は様々な人々がいて

色々な話を聞くことできて新鮮だったからだ。


「平民登録だね?」


気づくとジェフの番に来ていた。


「そうだ。あと、」


「じゃあここの用紙に書いて向こうの受付に出すように」


「待ってくれ!俺は字も書けないし読むことができない」


「わかった。それならあそこに代筆人がいるから、あそこに行け」


「あ、あと質問が」


「次!」


質問する暇もなく何が書いてあるかわからない紙を押し付けられたジェフは

その紙を大事そうに持って代筆人のところへ向かった。


「これを頼みたい」


「あんたの名前は?」


「ジェフだ」


その後、代筆人はジェフに妻と子供の有無を聞かれ答える。

妻と子供たちの名前を聞かれた後、住んでいる場所を聞かれた。

都市の東の端だと答える。


「じゃあこの紙を持って向こうの受付に渡すんだ」


「わかった。ところで質問なんだが」


「俺は代筆しかできん。質問なら向こうの受付に聞くんだな」


そこからまた人に埋もれながら列に並び自分の番を待った。

ようやく自分の番が来たと思うと、受付は紙だけをもらうとあっさり

ジェフにもう終わりなので帰っていもいいと言ってきたため

ジェフは慌てて質問があると言った。

すると、受付は後ろにいた人に声をかけ、この人に聞いてくださいと言うと

他の人たちから紙を受け取り始めた。

仕方なく、ジェフはその人に聞くことにした。


「質問があるとか」


質問してくるジェフをめんどくさそうに見るとそう言った。


「ああ。子供を学校に行かせてなんの意味があるんだ?」


「意味?」


「そうだ。大体学校ってのは聞いた話によると金がかかるらしいじゃないか。

それも相当な額だ。税金が軽くなったとはいえ、前の徴収で貯蓄はない。

稼ぐにしても働く能力がある男手をとられちゃ困るんだ」


ジェフは一番の問題を指摘した。

学校に通うには金がかかる。当たり前のことだった。

質問を受けた人は深いため息を吐く。

今までも同じような質問をされたからだろうか。


「あんた、役所の外に貼ってある掲示板は読んだか?」


「いや」


「そこにあんたの疑問がすべて書いてある」


「そうなのか?しかし、俺は字が読めないんだ」


「・・・・では、私から簡単に説明しよう。まず、学校は無料で受けられる。

金がかかるのは貴族の学校だけだ」


「なるほど」


「それに一日学校にいるというわけではない。いるのはせいぜい半日くらいだ。

学校では、主に文字の読み書きや計算を教えることになるだろう。

あんた、文字を読めないんだろう?不便じゃないか?子供も同じでいいのか?」


「むう。確かに文字の読み書きくらいはできて欲しいが」


「だろう?もういいか?こっちも忙しいんでな。あとは外の掲示板に書いてある

誰かに読んでもらうんだな」


「わかった」


ジェフは人の波をかきわけながら外に出た。

外はすでに夕暮れに近かった。

畑による時間はなさそうなので、市場でパンとアッサルを買うと家に帰った。

家では妻がポタージュを煮込んでいた。

具材は主にビバ。近所からもらったゴチンが少し入っていた。

市場で買ってきたアッサルを渡すと子供たちから喜びの声が上がった。

妻もうれしそうだ。

ポタージュとパンが配られ、神と王に感謝すると食べ始める。

食べ終わると、妻に大事な話があるとジェフは切り出した。

子供たちは寝る支度をし始めていた。

今日、布告で言われたことを伝え、役所で言われたことを話した。

妻は戸惑いの表情を見せている。

それもそうだ。ジェフ自体あまり納得はいっていない。


「あなた学校ってそんなお金・・・」


「金はかからんらしい。文字の読み書きや計算を無料で教えてくれるみたいだ」


「確かにそういうのを教えてもらえるなら助かるけど、あの子も?」


妻はまだ幼い娘を見つめた。


「ああ、二人ともだ」


「でも・・・」


「国からの命令だ。拒否はできない。前の徴収を拒んだり渋ったやつらが

どうなったか忘れたわけではないだろう?」


黙っている妻を思い出させるようにジェフは続けた。


「金品を奪われ、家は焼かれ、女や子供は吊るされた。赤子すらもだ!」


「わかってる、わかってるわ。ジェフ。でも、心配なのよ」


「俺もだ。国と王が変わった。食事も以前よりマシになった。

でも、それだけなんだ。俺たちの生活は変わらない。仕事も・・・」


「ジェフ、もういいでしょ。それより、学校はいつから始まるの?」


どんどん暗く沈んでいくジェフを彼女は強引に話を終わらせる。


「あーいやわからない。明日もう一度役所に行って聞いてみるよ」


話が終わると彼らは寝る支度をして床についた。


【ビバ】

大きな葉っぱと白く太く丸い根が特徴的。

地球でいうところのカブに似ている。

大陸全土で育てられている。環境に強く寒いところでも暑いところでも

水さえあれば簡単に育てられる。

『農家を始めるのならまずビバから』と言われている。

一年中収穫できるので農家で育てているところも多い。


【ゴチン】

やや小ぶりで茶色いゴツゴツとした丸いなにか。

地球でいうところのジャガイモに似ている。

大陸全土で育てられているが、寒い地方ではあまり育てられていない。

パンが普及していない地域ではこれを主食としている。

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