23(リトビエ王国襲撃編アルファノア国side)
カンカニア大陸のなかの大きな二つの国であるリトビエ王国と
ベルバーン帝国の戦いは長い歴史がある。
両国が戦う理由は単純に国力の削り合いだ。
王国は農民を帝国は騎士を失う。
何年か一度に行ったり、毎年のように行ったりもした。
失うのは人だけではない。軍を動かすには、装備や食料もいる。
特に兵糧に関しては、王国は失っても大して痛くないが
北部に位置する帝国には非常に痛手だった。
寒さで作物は平野近くの土地でしか育たない。
民と兵糧のほとんどを周辺国から輸入で賄っていた。
人と物資の削り合いが目の前で起きようとしていた。
ジンはこの知らせと王国の現状を知りチャンスだと思った。
なにしろ、王国軍のほとんどはベルファロン平野に向かい
残されるのは各都市の守備兵と税金の徴収、移送を行っている兵だけ。
(少数で敵兵に変装して潜入し首都を強襲という作戦はどうだ?)
問題はそれを行えるかどうかだ。
目の前にいるキャラ達がそこまでの応用を利くだろうか。
とりあえず、ヴァルトを呼んで意見を聞いてみようと思った。
様々なキャラ達がいるなかで彼を呼んだのは単に色々と答えてくれそうだと
思ったからだ。
呼ばれた大柄な獅子の顔をした獣人のヴァルトは、ジンの前まで来ると跪いた。
「楽にしていい」
「はっ」
「ヴァルト。この状況どう思う?私は今がいい機会だと思うんだが」
「はい。王国に攻めいるのによい機会だと思います」
「そうか。問題は作戦なんだが・・・」
「陛下。陛下はただ我らにご命令ください」
「なに?」
「我らは生まれたての子供ではありません。
自分たちで思考し己の力量を自覚し行動できる存在です。
陛下がただ我らに『王国を取れ』とそうおっしゃってさえすれば
我らはそれに向けて最善の手を使って遂行いたします」
何かしらの答えを期待していたジンだったが、ヴァルトの予想外の言葉に
驚きを隠せなかった。
(確かにそうだ。彼らは今生きている。
生まれ落ちた子供でも命令を待っているロボットでもない。
俺の気遣いや懸念は不要だったか)
黙っているジンに向けてヴァルトは再び言葉を向けた。
「陛下はただこの国をアルファノア国を至高の国へと作り上げてください。
我らが行えない部分を陛下が。我らが行える部分はすべて我らで行いましょう」
「そうか、お前たちは自分たちが何者なのかを知っているのだな?」
「はい」
「わかった。改めて命じる。ヴァルト・フォン・ブラッカー、王国を取れ」
「御意」
「それからこれを」
そう言うとジンは一本の旗を取り出しヴァルトに渡す。
ヴァルトは旗を見つめた後敬いながら受け取る。
「すべてが終わったら突き刺せ」
「かしこまりました」
ゲーム内では都市や国を制圧した演出時にこの旗を刺すことで、
自国として切り替わる。
つまり、演出上のアイテムであり実際にないはずなのだが、
なぜかジンの手持ちにあった。
試そうにも、一見するとただの旗で何も起きない。
演出上のアイテムなら、王国を制圧した時になんかしら起きるかもしれないという
期待からヴァルトに手渡したのである。
それに、国旗自体はアルファノア国を表した紋章であり旗としては問題はない。
ヴァルトが出て行ったあとジンは物思いにふけっていた。
ふと、もしかしたらと思う。
自分たちの存在はこの世界で非常に脅威なのでは、と。
元がゲームだからゲーム感覚でやればいいと思っていたことは
先ほどヴァルトが話したことで崩れてしまった。
ヘロルドから来た報告書をもう少し真剣に読もうと思った。
恐らく、ジンが気にかけている部分を彼らがすでに対処済みなのだと
思ったからだ。
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