24(リトビエ王国襲撃編アルファノア国side)

命令を受けたヴァルトの動きは素早かった。

彼はまず兵舎に行き、訓練を終えた兵士500人からなる部隊を編成した。

ちょうど居合わせたネイハムを副官に据えると、早々にリトビエ王国へと

向かった。

王都へ行く途中の街道で、彼らは待ち伏せをした。

狙いは王都へ運ばれていく荷馬車だった。

しばらくすると、兵士に囲まれた一団が来た。

戦闘はあったものの、激しい抵抗は一切なく王国兵たちはすべて骸となり

街道の脇の茂みに捨てられた。

王国兵たちは、王国とわかるような装飾をすべて取られていた。


王都へ入ると彼らはまっすぐ王宮を目指した。

邪魔な荷馬車は途中で放棄した。盗られても別に困らなかった。

王宮に近づく不審な兵たちに気づいた守備隊長は若い守備兵に伝令の任を与え

自ら戦いに赴いた。

王宮を守る兵はおよそ200。王都の守備兵はおよそ300。

都市の守備兵の応援で撃退できると踏んだからだ。

加えて、自分たちはただの兵士ではない王宮を守る守備兵だ。

兵の中でも精鋭に位置する王宮守備兵なら応援が来るまでの間、

持ちこたえられるはずだ。

むしろ、自分たちだけで撃退してしまうかもしれない。

そんな淡い希望は、一瞬で砕かれてしまった。

敵の兵士は強かった。

特に強かったのは兵の戦闘に立つ男で、

精鋭である守備兵を次々と打ち取っていく。

そして、暴れまわっている獣人。あれは別格だった。

武器を持っているわけでもないのに、腕を振るうだけで3、4人がバラバラになる。

徐々に押され始めると、再び伝令を送ることにした。

王を避難させるため兵士を何人か選別した矢先、恐ろしいものを感じた隊長は

伝令役を突き飛ばした。結果的に伝令は生き残ったが、隊長は絶命した。


「他愛もない。これが王宮を守る兵だと?」


何かしようと一か所に集まっていた集団に飛び込んだヴァルトは、

爪で切り裂き全滅させた。そう思ったのだが、間合いから遠ざけられた

一人を仕留めそこない、逃げられて悔しそうに言う。


「ヴァルト様。何人かを出入り口と思われるところに配置しました。

これで誰も逃げられないでしょう」


「うむ」


激しく戦っていたにもかかわらず疲れた様子が見えないネイハムは

剣を持ち合わせた布で拭うと言った。


「このまま王のところですか?」


「そうしたいところだが場所がわからぬ」


「捕虜は・・・いませんね。生き残っている兵がいればいいのですが」


周りを見るが生きている兵はいなそうだった。

地面は赤く塗れ、人のかたちを保っていない兵士が多い。

ネイハムは王宮を向く。


「城の中にまだいればよいのですが」


「そうだな。しかし・・・む?」


「いかがしました?」


「騒ぎが聞こえる。裏手のほうだ。ネイハムお前はここに残れ。

何人かついてこい!」


そう言うとヴァルトは駆けだしていった。



大きな声で騒いでいたのは御者とその馬車の主だった。

金をふんだんに使った豪華な馬車がゆっくりと進んでいた。

徒歩で追いつく速度だ。

豪華な馬車にはその装飾に見合わない、大きな箱やはじけそうな革袋が

大量に載っていた。


「もっと早く走らせるんだ!」


「無理ですよ!馬車が重すぎるんです!初めはよかったが馬も疲れてしまった。

休ませないと!」


「じゃあ代わりの馬だ!早くしろ!」


「今から新しい馬を入れ替えるとなると一度戻らないといけません」


「も、もどる?馬鹿なことを言うな!」


「じゃあ荷物を減らしてください!」


「それも無理だ!」


御者が反論しているが馬車の主はまともに聞こうとせず、

一方的に早く、早くと急かしていた。

ヴァルトは馬車に近づくと扉を力ずくで強引に開ける。

中には豪華な布地を身にまとい頭の上に金の王冠をかぶった男がいた。

男は驚いた表情でこちらを見ていた。

ヴァルトは威圧するように問いかける。


「お前がリトビエ王国王だな?」


だが、返事はない。

よく見ると白目をむいている。

ヴァルトの威圧に耐え切れなかったのかウドルフ王は失神していた。

馬車の荷物を押収し、王を抱えてネイハムのところに戻る。


「それは?」


奇妙な荷物を抱えて戻ってきたヴァルトにネイハムが尋ねた。


「この国の王だ」


「まさか!」


「財宝と一緒に城を脱出しようとしていたのだ」


「露骨過ぎませんか?影武者では?」


「その可能性が高い。念のため付近を捜索だ」


「わかりました。包囲は完了しています。抜け道がない限り逃げられないかと」


ネイハムは転がっている王の影武者らしき人物の顔を何回か叩き、水をかけた。

ヴァルトだと力加減を間違えて殺してしまうか心配だったからだ。


「起きろ!起きろ!」


「う、うーむ・・・」


「起きないか!」


もう一度水をかけると男は目を覚ました。

きょろきょろと辺りを見回し始めるのに対しネイハムは男に問いかけた。


「おまえは王の影武者で間違いないか?」


キョトンとした顔をした後男は言葉に詰まりながら答えた。


「ち、ちがう!私が王だ!」


「影武者だろう?王の居場所は知らぬか?」


「私がリトビエ王国ウドルフ王だ!」


「見上げた忠誠だ。足を切り落されたくなかったら本当のことを言え」


ネイハムは剣先を足に軽く押し当てる。


「待ってくれ!私が王だ!影武者ではない!信じてくれ!」


「嘘だ。さあ居場所を」


「本当だ!本当なんだ!」


「待て、ネイハム。そやつの言っていることは恐らく本当だろう」


必死さが伝わったのかヴァルトはネイハムを止める。

剣は鞘にもどり、安堵からかウドルフ王は冷静さを少し取り戻した。


「お前たちは何者だ?」


「我らはアルファノア国の者。王の命によりリトビエ王国を取りに来た」


「アルファ?聞かぬ名前だ。どこぞの蛮族が・・・ひい!」


ヴァルトの殺気に充てられ再び失神しかけるウドルフ王。

今度はネイハムがヴァルトを止める。


「ヴァルト様落ち着いてください。殺すのはいつでもできます。

さて、ウドルフ王あなたに二つやってもらいたいことがあります」


「な、なんだろうか」


「まずは我らに降伏を。そして国の大臣や貴族らを集めてください」


「降伏したらどうなるんだ?そのあと処刑か?」


「さあ、それはわかりませんが」


「では、約束しろ!降伏してやる。国も民もすべてくれてやろう。代わりに

私と馬車に載っていた物を見逃せ」


「確約はできません。それにそういったものは我らが王が決めます」


「では、お前たちの王にそう取り次ぐんだ!」


「わかりました。もう一つの方は?」


「集合をかければいいんだろう?そんなことは簡単だ。いったいなにをする気か

知らないが造作もないことだ」


「お願いします」


ウドルフ王は生き残った兵たちを見つけると方々に走らせた。

しばらくして、続々と貴族や国の重役たちが王宮へと入っていく。

入っていく人々のほとんどは、なぜ呼ばれたかわからないそんな顔をしていた。

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