とある農民の生活①(外伝2)

国が変わったとしても人々の暮らしはすぐによくなるわけではない。

彼らが幸福を実感できる時はすぐには実現できないからである。


王都より北東にある都市ナルコザ。

その近隣で農家をしているジェフはいつものように

畑仕事に行くために家を出た。

城門を出て畑に行くために、広場を通らなければならない。

しかし、広場はいつも以上に人で溢れ、通りにくかった。

兵士が国からの布告を必ず読むように呼び掛けていたからだ。

みな広場にある国からの布告を見ようと、背を伸ばしたり

見える人に聞いたりしていた。

ジェフも布告を見たが文字が読めなかったためわからなかった。

しかたないので、隣にいる人になんて書いてあるか聞くことにした。

その人はジェフに書いてあることを教えてくれた。


・すべての農民は平民として統一される

・すべての平民は各都市の役所で平民として必ず登録を行うこと

・6歳以上15歳未満の子供を必ず学校に行かせること


「つまりどういうことだ?」


うんうんとうなずいて聞いてはいたがさっぱりわからない。

親切にも読んでくれた人はジェフにもわかるように説明してくれた。


「ええと、まずあんたは農民か?」


「ああ、そうだ」


「今まで農民と平民で分かれていたのが平民になるってことだ。

つまり、あんたは今から平民だ」


「なるほど」


「そんでもって、その平民になったからには

役所で登録を行わないといけないらしい」


「登録?いったいなにをすればいいんだ?」


「さあな。とりあえず役所に行けばいいんじゃないか?

役所の人間が説明してくれるさ」


「聞いてみる」


「次にあんた子供はいるか?」


「いる。息子と娘一人ずつだ」


「その子たちは何歳だ?」


「男のほうは12になった。女のほうは6つだ」


「じゃあその二人を学校に行かせなきゃならん」


「そんな!娘は構わんが息子を取られたら働き手がいなくなっちまう!」


「でも行かせにゃならん。なにしろ国からの命令だからな」


「だいたい学校なんて行かせて何になるっていうんだ」


「わからん。それも役所に聞け」


「結局よくわからんかった。俺は畑仕事に行くとするわ。

読んでくれてありがとう、じゃあな」


その場を立ち去ろうとするジェフに男は慌てて言った。


「おい、あんた!役所には必ず行くんだぞ!行かなかったら

どんなことが起きるかわからん!絶対に行くんだぞ!」


「わかった、わかった」


畑に着くと息子がすでにいて雑草を抜いていた。

息子と二人で畑の草を抜いていく。

ジェフが作っているのはビバという野菜である。

青々とした葉っぱは大きくなり始め、もうじき収穫できるだろう。

昼になると息子と二人で休憩する。

今日の昼食はパンとアッサルという果物だった。

以前食べていた黒いパンとは違い、柔らかく中は白い。

アッサルは少し大きめの赤い果実で甘酸っぱかった。

この二つは最近出回るようになり、安価で手に入るため

庶民の間で非常に好評だった。

食事がひと段落済んだところで、ジェフは息子に切り出した。


「おまえを学校に行かせなくてはならんらしい」


「親父、どういうこと?」


「国からの命令だ、逆らえん」


「畑の世話は?」


「それは俺と母さんでやることになるだろう」


「母さんが!?でも、母さんは家で世話が」


「妹も学校だ。おまえと一緒に妹も学校に行く」


息子はひどく混乱したようだった。ジェフの言っていることが

理解できなかったのだろう。

だからか、一番気になったことを父親に聞くことにした。


「学校ってなにすればいいんだ?」


「わからん。俺にもわからんことが多い。

午後から町の役所に行って聞いてみる。

だから、午後の間はお前が一人で畑の世話をするんだ。いいな?」


「わかった」


「草を抜いて水をやっておくんだ」


「わかってるよ」


ジェフは立ち上がると町に向かった。

息子はしっかりしている。言ったことをちゃんとしてくれるはずだ。




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