22
アルファノア国の国旗を立てた瞬間、なにかがリトビエ王国全域に広がった。
それは視覚化できず、誰ひとり感知できなかった。
広がった後、それは効果を発揮した。
あるリトビエ王国民は、自分が『王国に住んでおり自国の王はウドルフ王である』
といった認識があった。だが、その日を境に元リトビエ王国民は
『自分がアルファノア国の民であり、国王はジン・アルファノアである』
という認識にすり替わってしまった。
すべての王国民の認識がすり替わったわけではない。
例外もいた。
王都襲撃の知らせを受けたガイマンドもそうである。
彼は各地に散らばってしまった兵士たちをかき集め、軍をなんとか再編した。
帝国軍と戦った時より少ない人数だったが、襲撃者たち程度なら倒せると思い
いざ、王都へ出発しようとした矢先だった。
出陣の号令をかけたが誰一人反応しない。
歴戦をともにしてきた副官にすら、「なぜ?」と言われてしまった。
彼は非常に困惑し、副官や参謀、兵士ひとりひとりに確認を取った。
すると、彼らは一同に「我々はアルファノア国民であり、国王より王都への出陣の許可は得られていない」と回答した。
「アルファノア国とはなんだ!」と聞いても
「アルファノア国はジン・アルファノア王が統べる国である」
という答えしか返ってこなかった。
そのへんを歩いている平民に聞いても同じ回答しか得られない。
ガイマンドは一時混乱していたが、徐々に冷静さを取り戻すと
兵たちを置いて王都とは逆の方向へ駆けて行った。
(なにか大規模な魔法あるいは呪術が行われたのかもしれない。
周りは敵ばかりだろう、味方を作らねば。
恐らく元凶を断てばきっと元に戻るはずだ。
ジン・アルファノアさえやれば恐らく…)
その後国内で彼の姿を見た者はいなかった。
謁見の間にいたウドルフ王もその変化を目の当たりにしていた。
おどおどしていた貴族たちや宰相が急に佇まいを正したからだ。
獣人が謁見の間にいる全員に問いかけた。
「問おう!汝らの主は誰だ」
「「ジン・アルファノア国王陛下であります!」」
「汝らの国はどこだ」
「「アルファノア国であります!」」
「よろしい」
全員が同じ答えを出すと獣人は満足したようだ。
ウドルフ王は戦慄した。
今まで纏まりがなかった貴族たちや何かにつけて苦言を言ってきた各大臣、
そしてさきほどまで説明を!と叫んでいた宰相までもが変わったからだ。
(魔法かなにかで操っているのか?人の頭を混乱させる魔法なら
聞いたことがあるがまさかこれが?)
「ヴァルト様」
宰相が獣人に声をかける。
「床に転がっているゴミはこちらで処分しても構わないでしょうか?」
ウドルフ王は一瞬なんのことかわからなかったが目線が
こちらを向いているのに気づいて慌てた。
「ま、まて!約束と違う!」
「処分に関して陛下から指示は受けていない。おぬしらの好きにしてよかろう」
「それでは。おい!連れていけ!」
周りにいた兵士がウドルフ王を連れて行く。泣き叫ぶ声が遠ざかっていき、
やがて聞こえなくなると宰相は再び話しかけた。
「今後についてですが陛下から何か伺っていますか?」
「ああ、先ほど受け取った。大まかな事柄だけだが」
「それは素晴らしい!ぜひお聞かせください、国の方針を示せねば。
それから、陛下はこちらにおいでになるのでしょうか?」
「それについては陛下に聞いてみないことには何とも言えぬ」
「わかりました。とりあえず、陛下からのご指示をみなにお願いします」
ヴァルトは声を上げ、ジンから受け取った大まかな国の方針を伝えた。
・生活基盤の復旧
・納税は次の年から行うこと
・食料生産に励むこと
「以上だ。もちろんこれだけではない。他にもあるので後日各大臣と
話し合いを設けるとのことだ。だが、現状はこれだけで十分であろう」
以前の貴族たちなら困惑し文句があがり不平不満の声で埋め尽くされただろう。
貴族たちは解散の言葉を聞くと各々の領地でやるべきことをするために
散っていった。
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