21

ベルファロン平野で王国軍と帝国軍がぶつかり合っていた頃。

王都ではウドルフ王は王宮の自室で一人酒を飲んでいた。

昨夜も女を複数人連れ込み、酒をかけあい金貨をばら撒いたあとだった。

今や国庫は金銀財宝でいっぱいだった。

王の特権で何回か使ったが減る様子は見られなかった。

ウドルフ王は満足していた。

自分の政策が見事に成功したからだ。

今頃、馬鹿な民がベルファロン平野で散っていっているはずだ。

彼は酒を飲みながら次の策を考える。

農民と平民から取るのはもう無理だろう。

次は商人がいいかもしれない。

今回の重税でも奴らの懐は大して痛くなかったはずだ。

絞る取るには、別の方法を取らなければならない。

王の名の下に、接収するのはどうだろうか?

様々な思惑は自室を激しく叩く音で消されてしまった。

自分の考えを邪魔され、不機嫌になる。

「入れ」といい終わる前に兵士は入ってきた。

ひどく慌ている兵士は、息を切らしながら報告した。


「陛下大変です!敵襲です!王都が襲撃されています!」


「敵襲?帝国か?」


「違います!」


ウドルフ王は自分が覚えている周辺の国々を挙げたが

兵士はすべて否定した。


「旗をかかげていましたが誰も知りませんでした」


「未開の蛮族が王国に攻めてきたというのか?くだらん、

守備兵だけでなんとかなるだろう。さっさと潰せ」


「現在守備兵が交戦中ですが・・・」


「陛下!」


そこに二人目の伝令が飛び込んできた。

彼は一人目とは違いやや装備が崩れている。


「陛下!ただちにお逃げください!」


「な、なに?」


「守備兵は全滅しました!王都から直ちに脱出しベルファロン平野で戦っている

ガイマンド将軍と合流することを進言します!」


ウドルフ王は予想外の伝令の言葉に思考が停止する。

もし、ここで王がすぐに王家の隠し通路を使って脱出していれば、

王国の未来は変わっていただろうがそうはならなかった。

彼はすぐに脱出はしなかった。

兵士や使用人をかき集め、王宮の金庫に向かうと

先代が集めた宝石や金品を箱や袋に詰めさせ運ばせた。

それらを限界までに詰めた箱と袋を積んだ馬車に王は乗り込み、

手伝った使用人や兵士を置いて彼は城を出ようとした。

だが、金銭を詰めるのに使った時間の消費は大きく、また金品の重みで

馬車は思ったより速度が出ず彼は城を出る前にあっさりと捕まった。


リトビエ王国城の謁見の間には、王都にいた多くの貴族が集められていた。

玉座に王の姿はない。そのため、貴族たちは口々に王の行方を心配の声を発した。

しかし、王の心配をする貴族は決して多くはなかった。

ほとんどが、つい先ほどの王都の襲撃について知っていたからだ。

王が大量の財宝と共に捕まったこともだ。

扉が開く音が聞こえると、皆が一斉にそちらを向いた。

縄で縛られた王の姿を見ると一同に悲痛な声や落胆の声を上げかけた。

一瞬ざわめきが起きたが、すぐに収まる。

その原因は王を連れてきた集団の中央の人物。

獅子の顔をした鋭い目つきの大柄な獣人。

その獣人を見た者は恐怖で口をつぐんでしまった。

貴族や精鋭の近衛兵も目すら合わせようとしない。

謁見の間にいる王国民全員が青ざめ、体を震えさせ、歯をガチガチと鳴らした。

最初、彼に会った時ウドルフ王は小便をたらし気を失った。

今股間から出るものはない。

気を失うことはなかったが、状態は彼らとほぼ一緒だろう。

集団が謁見の間の中心あたりに来ると恐怖はふっと和らいだ。


「ぐぺっ」


獣人がウドルフ王を乱暴に床へ転がす。顔から床に突っ込んだためウドルフ王は

変な声を上げた。

恐怖からいち早く立ち直った貴族の一人が獣人を迎えた。


「おお!あなたが我らの新たな王ですね?」


無礼者!と叫ばなかったのは登場時の恐怖のせいだった。

決して怒らせてはいけないと思ったからだ。

あえて、媚びへつらうことで機嫌を取ろうとする。


「あの威圧!佇まい!まさに王の風格そのものだ!そこに転がっている愚か者とはまるで違う!まさに、し・・・」


彼は最後までしゃべることができなかった。

獣人が手を振っただけで体がバラバラに裂かれたからだ。

血と臓物と貴族の体のパーツが飛び散る。

不思議と悲鳴は上がらなかった。


「愚か者め!儂が王だと?儂を愚弄するか!この世でもっとも神に近しき王と

間違えるとは!不届き者め、死をもって償え!」


獣人が吠えると再び恐怖がこの場を支配した。


「ここに来たのは終わりを告げるためだ。

今日この時をもってリトビエ王国はなくなった!

そして今日からここはアルファノア国となる」


そう獣人が言うと、兵士たちが厳かに持ってきた旗を丁寧に掴む。

旗をその場に立てようとした時、小さく待ったという声が聞こえた。

リトビエ王国の宰相だった男だ。


「お待ちを!色々と説明が足りていません。あなたの名前もご存じない。

聞いたことがない国に突然従えというのは無理です。納得ができない」


「そういうことは別に知らなくてもよい。これからわかるからだ。

それにそちらの王との取り決めにより、この国は我らのものになることが

すでに確定している」


「意味がわかりません。ちゃんとした説明をしていただきたい」


「まどろっこしい」


説明するのが面倒になったのか気が短いのかはわからないが

獣人は宰相の言葉を無視しその場に旗を立てた。

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