20
ベルファロン平野に最も近い王国領土の町ユナシアは大勢の人が集まっていた。
ほとんどが農民や平民だったが騎士や兵士もいた。
人が集まれば商売が繁盛するというが、この時はそんなことはなかった。
なぜなら、活気に満ちているとは少し違ったからだ。
騎士や兵士を含むほとんどの人間は手持ちがなかったからだ。
重税により家にある金品や蓄えをすべて持って行かれてしまった者が大半だった。
食べるのにも苦労しているわけだが、軍に入れば最低限の食は確保されるからだ。
そして、軍に所属している騎士や兵士たちは徴兵した者や募兵で集まった者を
半年以上かけて訓練し戦場に送り出していた。
剣の握り方も槍の扱い方すらも知らない農民だからだ。
しかし、今回は違っていた。なぜなら上からの命令は
『訓練は最低限にとどめること』だ。
これには、ほとんどの兵士が困惑した。
武器の扱いも知らず、まともな武器も持ってない兵士未満の新兵が役に立つのかと。
結果的に王国軍は、指揮をする騎士と兵士以外ろくな武器と防具を持たない集団と
常備軍の二つに分かれてしまった。
王国軍は、ベルファロン平野で陣を張り戦に備えて隊列を整えた。
装備を持たない集団は最前線に配置され、
その後ろを常備軍が通常通りの配置を行った。
王国軍側の最高指揮官はガイマンドである。
軍の最高指揮官に大将軍を据えることは滅多にない。
それが特に国全体で行う戦争であればなおさらだ。
王が最高指揮官となり、大将軍がそれを補佐するのが通常だった。
ガイマンドは後方より帝国の陣形を眺めていた。
彼の脳内ではいくつもの戦法が浮いては消え浮いては消えを繰り返していた。
今回の王国軍動員数はおよそ4万人。対する帝国軍は2万に満たない。
常備軍3万、徴兵と募兵軍合わせて1万で構成されている。
数だけで見れば帝国の倍であり、過去最大数だったことから
出陣した貴族の顔に若干の期待が見られた。
数刻のにらみ合いが続き、日が頭の上に来た頃最前線に突撃が命じられた。
常備軍は動かないまま、突撃していく集団。
帝国陣営とぶつかったその瞬間、帝国兵たちに若干の動揺が見られた。
突撃してきた集団が、平服の上から木の板を巻いており
木の槍のようなものと棒しか持っていなかったからだ。
帝国兵のほぼ全員が金属の鎧で身を固めており、武器は鉄の剣に槍と鉄の盾だ。
王国兵の突撃を迎え撃つため、最前線の帝国兵は盾を構えた。
金属の盾に木の棒がかなうはずもなく、砕かれる。
ひるんだところに、すかさず盾の隙間から一斉に槍が伸び刺される。
撤退の声はない。何回か槍が貫き、突撃してきた王国兵は全滅した。
「今のはなんだったんだ?」「さあ?」「罠かも」
戦った帝国兵たちから疑問の声があがる。
戦争中は私語を禁じられているため、騎士が注意をする必要があったが
この時だけはなかった。騎士も彼らと同様に困惑していたからだ。
それから少し経って、再び王国兵が突撃してきた。
今度は装備がちゃんとしていた。
(油断させるための罠だったかもしれない)
前線にいた騎士はふとそう思った。
しかし、それには数が多かったことまでは考えが回らず次第に忘れていった。
そのあとも何度か陣形を変えた、王国兵の突撃が行われた後夜になり
戦いは明日に持ち越しとなった。
次の日、王国と帝国は何度か小競り合いを行い、時には帝国が突撃を行ったり
数で勝る王国が包囲戦を仕掛けたりと戦法を幾度も変え戦いあった。
だが、結局勝敗は決まらず、両軍の数がそこそこ減ったところで停戦になり
撤退していった。
この戦で王国軍は兵士を1万強失い、帝国は1万と少し残った結果になった。
その後、王国軍の大半はユナシアで何日か過ごしたあと
自分の領地へと帰って行った。
ガイマンドに急報が届いたのは兵士のほとんどがいなくなったあとのことである。
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