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リトビエ王国前国王ダイオニシアスは善政だった。

民のためを想い、民に気をかけ、貴族の圧力や他国の要求には断固とした

態度を取った。

そんな彼に、子供ができた。生まれた時、国民は大いに盛り上がった。

善政王ダイオニシアスの子となれば、この時代がいつまでも続くと

そう思ったからだ。

ダイオニシアスの子、ウドルフ王子は大切に育てられた。

ウドルフ王子の次に生まれてくる子は流れ、その次の子は娘、その次の子も娘

といったように男子に恵まれなかったからだ。

ダイオニシアスは王子を大切に大切に育て、溺愛した。

王子の言うことはなんでも聞き、なにひとつ不自由をさせなかった。

王子へにかける金銭の類は国庫からではなく自身の蓄えから出し、

王の財産は王子への蓄えとした。

ダイオニシアスの唯一の汚点は、王子に大切なことを物心ついた時から

教えなかった点にある。王の存在、役割、政治、王たる所以を。

それらを教えるには、王子が次期国王となる自覚を持った時にと

そう思っていたからだろう。

王としての教育を王子にしようとした時、悲劇が襲う。

ダイオニシアス突然の急死である。

死因について詳しいことは明かされなかった。時々咳をする時があったため

病死だろうといわれているが本当のところ誰にもわからなかった。

王の急死に伴い、簡単な戴冠式を行って王となったのが

今のリトビエ王国国王ウドルフ王である。

国民は期待した。あのダイオニシアスの息子である。この国を自分たちをよりよい未来に連れて行ってくれるに違いないと。

しかし、ウドルフ王が真っ先に行ったのは税金の値上げと

王宮で開かれる宴だった。

宴は毎日行われた。初めは、父を悲しみではなく笑顔で送り出そうという

名目だったが3日か4日目あたりからそのへんは適当になった。

他国から招いた踊り子や歌手、雑技団、大道芸人。

珍しい酒や動物、食べ物、装飾品、宝石、珍しい魔物の部位などなど。

それらは自費や王宮の財産で払われず、すべて国庫で支払われた。

国庫の中身はどんどん減っていった。

財務大臣が気づいたときには、金貨数枚が床に落ちている程度だった。



重税公布からひと月と少し。フレイクはウドルフ王と大勢の貴族を前にして

財政と国の様子について報告した。

家のあらゆる金品と蓄えを税として取られ、国民は暴動寸前だった。

また、少ない土地しか持たない貴族や商売をしている貴族も反乱寸前であった。

フレイクは王に減税を求めた。

国庫も十分に潤った。前の税率に戻すべきだと主張したのだ。

だが、王はその要求を突っぱねた。そして反乱に対して案があると皆に言った。


「反乱が起きそうな地域を重点的に徴兵して控えている帝国戦で消費しよう」


この言葉で多くの貴族は驚き、大半は反感を買わないように

名案だと口々に褒めた。

一部の者はこれに反対をした。特に大将軍であるガイマンド・オールダムは

一際大きく反対した。


「陛下!恐れながらそのような急遽徴兵した兵では訓練がたりません。

装備も武器も命さえも無駄になります」


「ガイマンド。奴らに立派な武器や防具はいらん。

簡単な武器と防具だけで十分だ」


「それにそんな自殺行為では人が集まらないかと思いますが」


「それには先の重税が関係してくる。徴兵に加え募兵要件に減税を約束するんだ。

戦場で多大なる戦果を挙げた者には、この先一年間税の免除と褒美をやるとも

付け加える。これならどうだ?」


「それなら人は集まるかもしれません。しかし、まだ問題があります」


「なんだ」


「反乱が起きそうな地域だけの徴兵では数が足りません」


ウドルフ王は怪訝な顔をする。


「足らんか?」


「足りません。前回の戦時は全軍合わせておおよそ2万人です。徴兵する地域の人口を考えると3000にも満たないかと。その程度の軍で戦いに行ったとしても帝国に

蹴散らされます。他国からも笑いものにされる可能性もあります」


「やるならいつも通り全軍で、か」


「はい。それと募兵要件は地域に拘らず公布しましょう。

そうすれば数はもっと揃うはずです」


「いい考えだ。私もそう思っていた。ガイマンド、戦のほうは任せるぞ」


「はっ」


「公布はただちに行え。早いほうがなにかといいだろう」


「かしこまりました」


この日、国王の名前付けで帝国との戦に備えた徴兵と募兵が行われた。

徴兵はいつも通り各家庭から一人以上だったが、募兵の方には

一年間の減税と戦果を挙げた者には自身と家族を含む一年間の税の免除と

報奨金が与えられると書いてあった。

減税と免除と報奨金につられ、多くの王国民がこれに群がった。



一方アルファノア国では、王国が帝国との戦に向けて準備しているという

知らせがジンの元に届けられていた。

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