18

王都アルーム。

カンカニア大陸の南にあるその都市はかつて貿易拠点の一つであった。

毎日大量の他国の交易品が運び込まれ、出ていく。

王都の市場はその大陸の珍品希少品があふれ、王都を訪れる人の目を引いた。

彼らは王都を見て、王城を見て、

「リトビエ王国はなんて豊かな国なんだ!物であふれかえっている!」

と称賛した。裏側がどうなっているとも知らずに・・・。


リトビエ王国の王城は港よりやや離れた丘にある。この丘から、

王都を一望することができ、王は民たちを見下ろすのに最適だった。

リトビエ王国財務大臣のフレイク・ハマーフェルドは重い足取りで

王がいる部屋にたどり着いた。

部屋から複数の女性の声が聞こえる。数回ノックした後入室の許可が出た。

高価な布をふんだんに使ったベッドでは3人の全裸の女性と男性が絡み合っていた。

それらに目をくれず、フレイクは持ってきた紙に目を通しつつ王に注意した。


「陛下!国庫はもはや空同然です!今すぐ何か手を打たなければ

手遅れになります!」


声に反応して男が立ち上がると、自然に女性たちは体を隠しつつ部屋を出ていく。


「だったらやればいいじゃないか」


豪華な布を使ったガウンを着ると、テーブルに置いてある

酒を飲みながら男が言う。


「それを陛下が指し示していただきませんと・・・!」


「この俺が何かを言わないとお前はなにもできないのか?」


「それが王政というものです。

私が勝手に何か行えば反逆罪で処刑されてしまいます」


「そうか。では今の倍の税を・・・」


「それでは民が!」


王の言葉を慌てて遮るが、にらまれ後の言葉が続かない。


「王都を見たまえ!物であふれかえっている。他国との交易も順調だ。

革袋に金貨をぎっしり詰めた人間がそこら中にいるじゃないか!

今より少しくらい税が増えても誰も文句は言わないさ」


「王都の商人はそうかもしれません。しかし、国境の都市や農民、平民は違います。彼らは今の税率でもぎりぎりなのです」


「それでも蓄えはしているはずだ。搾り取るんだ。

金や銀は平民や農民に不必要なものだ」


「で、では彼らは何を食べればいいのですか?自分で育てた麦すら

食べれない彼らは?」


「そのへんの森にある物を食べればいい。まぁ何か食べるものはあるだろう。

なにしろ食べ物は豊富にある国だからな。あと税金はいますぐ公布するんだ。

金が入るのは早いほうがいいだろう?」


「わかり、ました」


「忘れるなよ、フレイク。すべての税を倍だぞ!」


フレイクが頭を下げて部屋を出て行く背中に向けて怒鳴ると

男は女たちを呼び戻しさっきの続きを始めた。



税金の値上げの公布はただちに行われた。

今までリトビエ王国の税率アップは人頭税が主だった。

本来であればこれだけが倍で十分国庫はなんとかなっただろう。

だが、王の指示により、人頭税を含むすべての税が倍になってしまった。

対象も当月分も含むとされ、多くの反感を生んだ。

多くの金貨を持つ商人や貴族は少々の痛手で済んだ。

それ以外の小売りを生業としている商人や生産職、農民には非常な痛手となった。

この政策により王都を含む都市の物価は上昇した。


数日後。国の金庫室に、金貨や銀貨の入った袋や箱が次々と運び込まれていく。

中には金杯や銀杯、宝石が付いた装飾品、布などが紛れている。

希少な魔物の部位までもがあった。


「見ろ!フレイク!当月分でこれだ。来月にはもっと積まれていくぞ!」


高らかに笑う王だったが、フレイクは暗い顔をしていた。

各地で税という名の金品や物品を取り上げている。

今積まれているのは、王都とその周辺都市の分だけだ。

金貨の山はこれからもう少し増えるだろう。

問題は、来月、その次の月、さきの月だ。

今蓄えをすべて失ってしまった民はどう生きていけばいいのだろうか。

だが、フレイクは民の心配をする前に自分の心配をすることにした。

王の反感を買えば、殺されるだろう。恐らく家族も一緒だった。

愛する妻と子供のことを考え、民の心配はよそにやり、まだまだ運びこまれてくる金貨を部下と共に数える作業に移った。







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