リシアの初日①(外伝)

レキスタにお願いされた後、リシアは再び王に面会を取り付けるべく別室を出た。

自分の想いや願いを無視され一方的なお願いだったが、元は自分が言ったことと

自分に言い聞かせる。これからのことに不安と緊張でいっぱいだった。

だが、集落のためにもう何かをしなくていいと思うとなぜか急に心は軽くなり、

何かが解けるような感覚がした。

謁見の間の前にいる兵に、面会を申し出たが却下され、そのまま別のところへ

案内された。食堂だった。

長い机には、すでに獣人やエルフ、人間たちが座って待っていた。

少し離れたところに空いている場所があったのでそこに座るリシア。

そうすると、まもなく給仕が料理を運んできた。

それは大きなボウルに入った、山盛りのパンとあの赤い丸い果実だった。

各々が好きなだけパンと果実を取っていく。

リシアも倣って取る。だいたい全員に回りきると、各自で自由に食べ始めた。

果実だけのものもいればパンだけのものもいた。

みんな黙々と食べ続けている。食事の会話というものはない。

リシアは果実にかぶりつく。

果実は中がオレンジ色をしており、味は甘酸っぱかった。

パンはふっくらしており、中は真っ白で昔王国で食べたパンとは

まったくの別物だった。王国のパンは茶色くて固かったからだ。

(王国と比べると質素だな)

王国にいた頃は傭兵もやっていたせいか食事は今よりよかった。

酒も飲めたし、野菜などがはいったスープ、人間の仲間は塩漬けの肉を食べていた。

固い茶色いパンはスープと一緒に食べ、苦手なものは肉とオートミールだった。

金があったからかと思うがそれでも庶民はスープを飲んでいたし

肉や魚を食べていたと思う。


「食事に不満か?」


そんな思いが顔に出ていたのか唐突に話しかけられ飛び上がる。

目の前には獅子の顔をした獣人がいた。


「い、いえ。そんなことは」


とっさに否定する。

集落にいた頃よりはマシだが、つい王国と比べてしまったからだ。

不満という言葉を耳にしたのかそこにいた全員がこちらを見ている。

獣人がしっしっと手を振り払うようにすると、食べ終わった者はその場を離れ

こちらを見ていた者も再び食事を続ける。

リシアも不満でないことをアピールするために食事を続けた。

急いで食べると逃げるようにその場をあとにした。

食堂を出たところ、リシアは侍女に捕まった。


「こちらです」


侍女が案内した部屋に入るリシア。


「ここは?」


「リシア様のお部屋になります。ご自由にお使いください。

城内は何処に行っても構いませんが城を出る際は必ず許可を取るように。

それでは」


それだけリシアに告げると侍女は去って行った。

部屋は広くもなく狭くもなかった。殺風景な室内にベッドだけが置いてある。

そのへんにいた人にトイレの場所を聞いて用を足し、偶然通りかかった侍女に布と

水が入った桶をもらう。

濡らした布で体を拭いていると、いつの間にか女性が入ってきていた。

「やぁ君がお隣さん?初めまして、私はイレイン。よろしく」


全裸のリシアに手を差し出すその女性は人間で髪は黒く長かった。


「よ、よろしく。リシアです」


とりあえず胸元を濡れたタオルで胸を隠すと差し出された手を握った。


「ふーん」


イレインはじろじろとリシアの体を見る。


「背中ふいてあげようか?」


「え?お願いします」


つい返事をしてしまい、初対面の人になぜか背中を拭かれるリシア。

背中を拭く手は優しく丁寧だった。背中が終わったのにも関わらず、

腋、胸、腹、太ももと続く。そして、下腹部へと手が移った時

リシアは叫んだ。


「もう結構です!あとは自分でやりますから!!」


布をイレインから奪い取るリシア。イレインはにやにやと笑っている。


「そう?それは残念」


そう言って立ち去ろうとするイレインにリシアは意を決して聞く。


「陛下の寝室はどこにありますか?」



真夜中、リシアは最低限の衣服を身にまとい王の寝室に向かっていた。

レキスタに言われた通りのことを実行することだ。

嫁にとは言われたが、今までの待遇を考えると正妻ではないだろう。

何番目かもわからない。だが、自分の役割は王を満足させること。

自分の体で満足するかどうかはわからない。でも、させなければいけない。

そういう約束だ。

寝室まであともう少しといったところでリシアは声をかけられ止まった。


「止まれ、この先は王の寝室。何用だ」


声のする方向をみると、丈の長い民族衣装を纏った女性が

腰にある武器に手をかけ立っていた。


「わたしはリシアです。今晩の陛下の相手をするために来ました」


「相手?そのような話は聞いていない。貴様、さては暗殺者だな?」


話がとんでもない方向にいきそうになるのを慌てて修正する。


「暗殺者ではありません!えっとその…約束でして、

陛下の夜の相手をする・・・」


話をしても女性は怪訝な顔をするだけだった。

リシアは嫌な予感がした。まさか、連絡が行ってないのだろうか。


「確認をとってください!お願いします!」


「陛下はすでに眠られているゆえ、ここで騒がれると困る」


その言葉を最後にリシアの意識は途切れた。


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