15
リトビエ王国は広大で肥沃な大地が広がる国だ。
小さな山々から流れる河川の多くは、広大な大地を血管のように張り巡らされ
農業を活性化させた。
どこまでも広がる麦畑や牧場、河川や湖から得られる魚、ぶどう畑に果樹園等々
食料という食料は非常に豊富な国だった。
食料が豊富なら町も豊かになる。そして、その豊かさを横取りしようとする
邪な考えを持つ者もまた多かった。
王都より離れ、ベルファロン平野に一番近く、大きな町ユナシア。
この町には、他の建物より大きく人の出入りが一番激しい建物があった。
『カランコロン』
扉についている鐘が入ってくる人間を知らせる。
出入りが激しいため、終始鳴りっぱなしの鐘の音に慣れていない人は入り口に目を
やるが、常連にとっては聞き慣れてしまい
自分たちのたわいのない話に集中していた。
だが、この時は違った。入ってきた者達が、彼らの目に止まるような存在だった
からである。
一人目は赤く長い髪。着ている物も赤が多く、
腰に意匠が施された剣を差している。
二人目は金色に少し長い髪。銀色の鎧を着ており、背中に装飾がされた盾を背負い
一人目と同じく腰に剣を差している。
三人目は青い短い髪。青い線が入っている白い服で全身が包んでいた。
先端が十字に割れた杖を持っている。
3人と美少女で、容姿も鎧や服の上からわかるように抜群によくどこかの
王女様や高位な貴族のお嬢様が来たのかと思うくらいだった。
しばらくして、入り口を見ていなかった男たちも3人の存在に気づいた。
男たちは最初、美少女たちに見とれていたがそのうち口元はだんだんと
にやけ始めた。そして、ニヤニヤと嫌らしい視線が彼女たちを襲った。
そんな視線を物ともせず、3人は男たちの集団を無視して受付に向かう。
「仕事を探しているんだけど、ここは傭兵ギルドであってるのよね?」
赤い髪の少女が受付いる人に話しかけた。応対した人がしゃべろうとした瞬間、
男たちの笑い声ですべてがかき消された。
「ぶ、ははははははははは!傭兵ギルド?いったいいつの話をしているんだ!
ははははははは!」
むっとする少女をよそに男は続ける。
「今は冒険者ギルド!傭兵ギルドなんて何十年も前になくなったんだよ!」
「そう、じゃあその冒険者になるにはどうすればいいの?」
笑い転げる男を無視して少女は受付に話しかけるが再び邪魔された。
「ははははははは!やめとけやめとけ!冒険者はお嬢ちゃんたちがするような
きれいな仕事じゃないんだ!お嬢ちゃんたちにも出来る仕事なら他にもある!」
「一応、聞くけどどんな仕事なの?」
「なーに一晩俺と一緒に寝るだけの仕事さ、簡単だろう?」
笑っている集団から一人の男がにやけながら近づいてきてそう言った。
視線は彼女たちの足、尻、腰、胸、顔に向けている。
「それでどうやったらなれるの?」
体をじろじろと見てくる男を無視して受付に話しかける。
受付の職員は恐る恐る答えた。
「なるのは簡単です。登録用紙に名前を書くだけですから。
ただし、理由もなく簡単に脱退はできません。それ相応の理由が必要です。
でも、本当に大丈夫ですか?その人が言っているのも
間違ってはいないんですよ?危険な仕事ですから。
特に盗賊などに捕まった時とかは・・・その」
最後は濁したが言いたいことはなんとなく3人に伝わった。
しかし、
「別にいいわ、登録用紙を3枚ちょうだい」
気にせず登録用紙をもらおうとする。仕方なく職員が渡そうとすると『バン!』
大きな音とともに男の握りこぶしが用紙を叩き潰した。
目つきはさっきと違い鋭くなっていた。
「わかってねえな。いいか?簡単な仕事じゃねえんだ。力量や技術もいる。
度胸もいるが度胸だけじゃ無理だ。命に関わる仕事なんだ。
お前たちなんかが始めてもすぐに返り討ちにあって死ぬか
盗賊共に捕まって嬲られて心が壊される!
今すぐ家に帰るかここ以外の仕事を探すんだ!わかったか!?」
大きな声で威圧し、怒るようにそして説得するように言った。
もし、生半可な気持ちでここに来た少女たちだったら今の声で涙ぐみ
逃げるようにこの場から走り去っただろう。
だが、彼女たちは違った。何処吹く風か男の言葉は心に刺さらなかったのか。
男の言葉を気にせず、もう一度用紙をもらうと3人はその場で
名前を書き受付に渡す。
「ええと、リザさん」
受付は顔を確認するように名前を言う。
「私ね」
赤い髪の少女が答える。
「ジータさん」
「私」
盾を背負った少女が答える。
「ソフィーさん」
「私です」
最後に残った少女が答えた。
「確認しますが本当によろしいんですか?」
「構わないわ」
リザが代表して答える。
「3人はどういう関係なんですか?」
この言葉に3人顔をしばらく見合わせ
「・・・姉妹よ」
と、リザが答えた。
受付は色々事情があるのだろうと思い深く追及はしなかった。
次に仕事について説明をすることにした。
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