12
「戦いは終わった?本当ですか?」
「はい、襲撃者達は一掃されました。もう、大丈夫です」
あっけなく終わった戦いの報告を長の家で聞いたレキスタは一瞬驚き固まったが、
すぐに取り直すと避難している者達に戻るよう指示した。
そして、脅威がいないことの安心と安全、戦ってくれた兵たちへの感謝を込めて
宴を開くようにと伝えるが、そこでジャッドは待ったをかけた。
彼は宴はエルフ達だけで行い、自分たちは参加しないと告げた。
「なぜです?戦いの疲労などを癒すのにも必要なことだと思うのですが」
「申し訳ないが我らも他にやることがあります。それに、大した戦でも
ありませんでしたので」
そう言うと、レキスタの返答を待たずに去ってしまった。
ジャッドが去ったあと、レキスタの左右にいたネイハムとエリオットも
家を出ようとした。
慌ててレキスタは彼らを呼び止め、二人に改めて申し出をする。
「あなたたちだけでも残って宴に参加しませんか?」
そう言って足を組み替える。自慢の胸を強調し、誘うように言った。
彼女は自分の体のつくりに自信があった。エルフの美貌に完璧な容姿。
この姿ならどんな男も誘惑すれば、協力的になった。
この二人もそうであろう、そしてこれらを派遣した男も
今まで関わってきた男たちと一緒だと思った。
だが、二人は同時に断った。拒むことがなかった誘いもだ。
二人は出ていく。レキスタだけがそこに残された。
集落から少し外れた地点で、ジャッド率いる部隊は待機していた。
ジャッドの周りにはレオン、シキ、ネイハム、エリオットがいた。
一同は、討伐終了の報告後、帰還の命令を待っているのだった。
そして、命令が届く。それは、帰還の命令ではなかった。
【エルフの集落を占領せよ】
「簡単な命令だ。私が集落に行って焼き払い旗を立てて終了ではないか」
なんともないように言うレオンにエリオットは慌てて諫める。
「レオン様、それでは占領ではなく殲滅です。陛下の命令は占領ですよ?」
「むう。しかし、占領といってもどうすればいいのだ?」
「簡単ですよ」
今まで誰ともしゃべらなかったシキが唐突にしゃべった
シキはこの場所に他の誰よりも長くいることによって、集落の重要な場所や弱点を突き止めていた。
「この集落はあのエルフの長によって治められています。いや、魅了されていると
いったほうが正しい。魅了によって集落の皆は彼女の言うことを信じ切っており、疑問にすら思いません。何事においても、彼女の言葉なしでは動かないのです」
「つまり、彼女さえ捕虜にしてしまえば終わりだと?」
「その通りです。彼女さえ捕まえれば彼らは何をしたらいいかわからず
混乱が起きるでしょう。その混乱に乗じて兵を入れれば占領完了です」
そう言うと黒い装束に包まれ顔がわからないシキは怪しく微笑んだように見えた。
エルフの集落では宴が佳境を迎え、各々が眠りにつき始めていたころ、
レキスタは一人、家で飲んでいた。
脅威がなくなったのに彼女はとても不機嫌だった。
(結局あの二人も指揮していた男も私の魅了に引っかからなかった)
それどころか王と名乗る男にすらかからなかった。
彼女の魅了はスキルである。
条件は体の一部をかけたい相手に晒すこと。
と、いっても本人にはそれ以上のことはわからない。
レキスタ自身も『体さえ晒していれば相手は魅了にかかってくれる』
というぐらいにしかわかっていなかった。
分かった時はだいぶ前だが、非常に便利だった。
魅了にかかった者は、彼女を敬い、大人しくなんでも聞いてくれる。
特に男なんかは効き目が抜群によかった。
体さえ晒せばいいので、わざわざ透明度が高い服を着ることにより
常時発動状態になる。どんな悪漢も彼女にひれ伏せたのにも関わらず
彼らだけはかからなかった。それだけが彼女を不機嫌にさせていた。
それでも、まぁいいと思う。彼女のやりたいことはこれからだ。
愚かな人間の男をたぶらかし、散り散りになっていたエルフ達を
一か所にまとめる。それらを魅了すれば自分の影響力は絶大になる。
魅了にかかりにくく、醜いダークエルフも処分した。
勝利に浸っていると風を感じる。誰かが入ってきたのだろうかと入り口を見る。
だが、誰もいなかった。
残りの酒を全て注ぎ、一気に飲もうとコップに口を付けたところで
彼女は意識を失った。
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