13
レキスタの目が覚めた時、そこは見知った場所だった。
隣には猿ぐつわをされ、両の手を後ろに縛られた男が転がっている。
声も出ず、腕は後ろに回されて動かない。おそらく自分も同じ格好なのだろう。
そして、正面には自分がよく知っている男が座っていた。
初めてあの男を見た時、第一印象は『よくわからない』だった。
今もよくわからない表情でこちらを見ている。
なぜ、自分がこうなっているかわからない。
何か自分に非があったのだろうか。
あるいは、献上物が何かやらかしたのだろうか。
だから、嫌だったのだ。あんなモノをあげるのは。
集落にはもっとイイのが残っているというのに。
「陛下、こちらの男が襲撃者の隊長です」
どこからともなく声が聞こえる。
「情報を聞き出せ」
正面の男がそう言うと男はそのまま連れ出された。なぜか無抵抗だ。
次は自分の番だろうと思い、必死にアピールする。
「そしてこちらが・・・」
身をよじり、肢体を見せ、涙を浮かべ、懇願をするレキスタ。
もし、魅了の力がかかれば、立場はすぐ逆転するだろう。
だが、名前を言われる前に発言は止められた。
「言う必要はない、それは今日中に速やかに処分しろ」
無慈悲な言葉。
そのまま、まるで物のように引きずられていく、それは、兵士の手を
振りほどこうと必死に懇願した。が、正面の男はすでに自分を見ていないことに
気づいてしまった。
絶望で固まったまま、レキスタは連れ出された。
「よろしかったのですか?」
ジンの隣にいたヘロルドが聞く。
「あれに価値はない。それに、価値のあるものはもう手元にある」
「失礼いたしました」
ジンは手元見る。ヘロルドには何も見えない。
ジンだけが見えているもの。
エルフの集落が自分の領地になったという通知に加え、
新たな資源を発見という通知だった。
シキからの大量の報告の精査はジンの自由と睡眠時間を大幅に削った。
なにしろ、この報告はジンにしか見えない代物。
誰かがやってくれればいいが、重要な物とそうでない物を振り分けるのが
非常に大変だったのだ。
まず、レキスタがエルフの集落に何もないというのは嘘だった。
確かに金品自体は少なかったし、出せるのは武器や防具くらい。
それ以外に価値のあるものは、集落の奥地にあった。ミスリル鉱山である。
紅暁の空のミスリルは軽くて丈夫なため武器や防具といったものに使われる。
だが、ゲーム序盤ではあまり必要ではなく、中盤以降の装備強化素材だ。
そして、加工は少し面倒くさい。
まず、鉱山でミスリル鉱石を掘り出す。
他の鉱石ならここで炉にくべて、インゴットにするのだが
ミスリルはまず、エルフが扱う錬金術で不純物を取り除き、液体にする。
これをまた錬金術で加工することによって鍛冶で使えるようなインゴットになる。
ミスリルを使うには、加工の際、錬金術を2回入れないといけないのだ。
しかも、エルフの錬金術師を。
今、エルフの集落はジンの手によって鉱山と倉庫が並ぶ別の施設に置き換わった。
場所が城よりやや離れているため、採掘と貯蔵のみに特化させ領内の隅に
設置された錬金術師小屋に運び込む形だ。
小屋の周りは、木々をあえて残しアルファノアのエルフと集落出身のエルフが
住める環境が整備されている。
集落のエルフたちは、なぜかジンを神のように拝み、ほとんどが領内で住むことを
受け入れた。
あれから幾日か経ってエルフ達は前よりかは幸せそうだった。
リシアは初日にひと悶着があったものの、今は毎朝訓練に明け暮れていた。
ある日、リシアは訓練の休憩中に呼ばれた。
呼ばれた場所は会議室だった。
そこには、エヴァ、シキ、ヘロルドが座っていた。
自分がなぜ呼ばれたのかさっぱりわからないなか、ヘロルドが口を開いた。
「それではリシアさん、教えてもらいましょうか。この世界のことを」
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