8

一人のエルフ、レキスタ・ルユイ・ネがゆっくりと謁見の間に入ってくる。

その姿はエルフを超える美しさをもっていた。

背丈はリシアよりやや低く、エルフらしいすらりとした体型。

透き通るような少し白めの肌色。

胸も大きく、緑色の衣服は時折透けて体の一部が見える。

長い金髪の頭の上には緑の冠が載っていた。

レキスタはジンの少し前で止まり、跪くことなく、綺麗な顔のまま口を開いた。


「ご機嫌麗しゅう、ジン・アルファノア陛下。」


「跪かんか!誰の前だと思っている!!」


ビリビリと怒声がジンごと貫いた。

ジンが挨拶を交わす前に、脇にいた獅子顔の獣人が吠えたからだ。


「私は古き血脈を継ぐものであり王族でもあります。であれば、立場は対等。

跪く理由はありません」


殺気立つ獣人をに視線を向け、臆することなく反論したレキスタは

再び顔を戻しジンに話しかけた。


「この度は臣下の無礼な申し出に対しての寛大な処置ありがとうございます。

私からの申し出であれば兵を出してくれるということですか?」


再び吠えそうだった臣下たちを手で制しつつ、ジンが答える。


「そうだ。もちろん、それなりの対価はいただくことになるが」


「対価ですか・・・。私たちは裕福ではありません。金銭や宝物と呼べるものは

なにも持っていません。ですが、美しきエルフの娘を差し上げます。

これを対価として献上いたしましょう」


「これは異なことを。そもそも君たちはその美しいエルフが

目当ての人間の襲撃者達に襲われているのではないのか?」


「その通りでございます。しかし、誰かもわからない蛮族の慰み者になる未来より

かは遥かな高貴なる人間のお方にお渡ししたほうがよいかと思いました。」


願ってもない機会にジンは心躍る。対価に自分も要求しようと思っていたからだ。


「いいだろう。だが、ただのエルフではだめだ。

そうだな・・・リシアをもらおうか」


リシアと聞いた時、レキスタの美しい顔は初めて崩れ眉をひそめた。


「あの娘はダークエルフですが?」


「だから?」


二人の間に沈黙が訪れる。

レキスタはふと思う。なぜ、あんな醜い色のエルフを要求するのだろうかと。

自分はもっとも美しいし、献上する予定のエルフも美しい。自分には劣るが。

理由を聞かない限り、疑問は解決しないと思っていたが、

意外なことに答えはすぐ出た。そう、自身の経験からだ。

今までそれこそ数えきれないほどの男たちと交流をしていた際、

特殊な性癖を持った人間たちがいたことに。

処女に異常な執着を持っていたり、胸が小さい娘を、すべてが未成熟の幼い娘を

時には、女に近い顔をした男や男子を要求されたことがあった。

つまり、今目の前に座っている人間の男もこの類の性癖というわけだ。

(王なんかを名乗ってはいるが所詮はただの人間のオス。

やることも求めることもそのへんの人間と大して違わない。)

そう思った次の瞬間、奈落へと落ちるような錯覚に陥った。

錯覚は一瞬で消え、周囲も何事もなかったように見える。

声をかけられなかったのは、まだ自分が返事をしてなかったことに気づくのに

また少し時間がかかった。


「いいでしょう、リシアをお渡しましょう。ですが、彼女だけでは対価としては

やや不足。集落に何人かいるダークエルフもお付けしましょう」


レキスタは、この際、集落で美的価値を下げているダークエルフ達も

引き取ってもらおうと思い提案する。


「それは素晴らしい。では、リシアは今すぐもらおうか」


再び、崩れる表情。


「今すぐですか?一応彼女は私の護衛です。集落までの道のりは安全ともいえません。護衛なしでは・・・」


「もちろん、別に一人で帰す気はない。二人、護衛をつけよう。それにあなたは

兵を求めにここに来たのだろう?だったら、襲撃者討伐隊の兵も一緒になる。

これなら問題はないだろう?」


確かに、これなら文句はない。特に条件を指定しなかったということはこの状況を好きに使ってもいいということだ。約束を取り付けたのはリシアだが、討伐隊を

連れて戻ればさらに自分の立場は上がるはずだ。

厄介者も処分できるし、なにより価値が低い者達で今後守ってもらえるのだ。

対価が非常に安価で済んだことも素晴らしい。

リシアの戦闘能力はやや惜しいが、あの程度の力量であれば

本国にもたくさんいるし、あれより上も大勢だ。

失ったところで何も問題はない。


「それで構いません。ありがとうございます。」


そう言って去ろうとするレキスタをジンが止める。


「ネイハム、エリオット、前へ」


呼ばれた二人の男は、横から出てくるとジンの前に静かに跪いた。


「命令だ、戦いが終わるまでお前たち二人は彼女の護衛に付け。」


「「はっ!」」


命令を受けた二人はそのままレキスタの傍に向かう。

レキスタは二人見て僅かに微笑むとそのまま謁見の間を後にした。









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