6

しばらくすると、大きな白い城が見えてきた。

真っ白というわけではない。所々に、装飾が施されており、壁面は光に当たると

キラキラと輝いて見えた。白銀の城というべきだ。

城門を抜け、あっさりと中に入っていく。応接間のようなところで

待たせれている間、リシアは何が主を名乗っているのかを推測することにした。

種族によっては対応や要求も違ってくる。交渉のしやすさと難しさも。

それに、ある程度予測することで心の余裕もある。

考えられるとすれば、ホブゴブリンを従えていることから、ゴブリンキングもしくはオークキング、オーガキングなどが考えられる。だが、これらは暴力至上主義。

知能も低く、村や町を襲って暴れまわる。農業なんていう繊細な仕事は無理だ。

しかも、おとなしく獣人が従っているのも謎。

それならば、獣人が従属しているので、獣人王というのもある。

だが、獣人王は獣王国でのみ名乗ることができる称号。

異国の地で勝手に名乗っても効力はないし、獣人たちも従わないだろう。

獣王国に潰されるのがオチだ。

つまるところ、最初から出ていた答え。わからない・不明・謎だ。

考えているうちに、いつの間にか通され、謁見の間らしき場所を歩いていた。

天井や壁の装飾は煌めき、光が落ちてくるように見えた。

これだけの装飾、恐らく財を極めた者にしかできないだろう。

いつまでも眺めていたい装飾だったが、視線は正面の玉座に目を

奪われてしまった。

適切な距離まで近づき、ゆっくりと跪く。


「それで、私に会いたいという君は何者だ?」


玉座にいる人間がこちらを観察するように見たあと問いかけた。


「私はロンガン村一の戦士、リシアと申します。城主様」


「私は、アルファノア国王、ジン・ユードリックだ」


「ユードリック国王陛下、折り入って頼みごとがございます」


リシアは一抹の望みをかけて当初の目的とは違う提案を出すことにした。


「ふむ、聞こう」


「我らエルフ族を助けて欲しいのです」


そう告げた時、ジン・ユードリックは首を傾ける。


「具体的には?」


「人間の襲撃者達からです。陛下」


「ふーむ、報告と違うな」


ジンがそう言うと、近くの案内してくれた獣人がビクッと体を震わせ、

耳がへこむ。


「報告では腹を空かせた耳長が食べ物を恵んでほしいので

許可が欲しいと聞いている」


「それはもちろん間違いではございません。しかし、緊急性を鑑みてこちらを優先しただけです」


「つまり、食料も欲しいと」


「は、はい」


すると、ジンは少し考えこみ、こう告げた。


「食料は持てる分あげよう。だが、それ以外はだめだ」


「な、なぜですか!あなたの配下なら人間の襲撃者簡単に蹴散らせるはずです!

対価が欲しければエルフの武器でも宝でもなんでも差し上げます!」


叫ぶように訴えかけるリシアにジンは発言を遮るように手をあげる。


「ダメといったのは君だけだからだ。これは国との約束になる。一介の戦士である君の言葉を信じ約束をし反故にされたらこちらの面目は丸つぶれだ。

簡単に言うとだな、決定権がある者を連れてこい。契約や約束事はその時だ」


もっともな話だと冷静になりつつあるリシアは口を閉ざす。

村一の戦士とはいえ、戦士は戦士。戦時の決定権はあるが、村自体を巻き込むような約束事は自分にはない。それに、そもそもここにはこういう提案するために来たわけではない。様子を見に来ただけだった。


謁見が済むと王は去り、リシアも外にだされた。

城門の外で持っていけるだけの果実を受け取ると村に一直線に帰った。


村に帰ると、まず長老になにがあったのか端的に報告し、

村長のレキスタ・ルユイ・ネ様の元へ向かった。

レキスタ・ルユイ・ネ様は、古代エルフの血脈を受け継いだ数少ない

ハイエルフだ。王族の資格は失っているが、王の風格はあるし、

今まで我らを引っ張ってきたお方でもある。

東の森であったことを報告すると、レキスタ様は頷きながら答えた。


「リシア、私と一緒にその国へ向かいましょう」


最初は近衛達が、そして周囲のエルフ達が反対した。

だが、今や村の防衛に近衛達は必須といっていい。防衛のためと言われると

頷くしかない。加えて、リシアならどんな状況でも切り抜けられると、武勇も含め語られると反対する者はいなくなってしまった。


早ければ早いほどいい。とレキスタ様は言い、

身支度を簡単に済ませると早々に東の森へと向かうことにした。

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