5

私たちは平和に暮らしていた。森は豊かで実りも多く、魔物もいたが凶悪な物は

さらに奥にいたため比較的安全だった。奴らが来るまでは・・・。


人間だ。


奴らは訓練された魔物と共にやってきた。

奴らは村を襲った。

奴らは女子供を優先して狙った。

我らも無抵抗だったわけではない。

弓を取り、精霊を使い、木の遥か高くから射かけた。

だが、どんなに優れた能力を備えていたとしても数の暴力には勝てない。

人間の数は非常に多かったのだ。

対する我らエルフは少数精鋭。

10~30人弱の小さな集落が森に散らばっていたのだ。

30人いても子供や非戦闘員を含まれている。まともな戦士はわずかだった。

襲われた集落から逃げた者や負傷した者が新たな集落に行き襲われる。

反撃を考え、散らばっている者達をまとめようと思った時、

100近くあった集落は片手で数えるくらいしか残っていなかった。

さらに、逃げてきた者の大半は子供か戦えないほど負傷した者ばかり。

とても反撃などできるわけもない。

保護を求め隣国に使者を何人か送り出したが、帰ってきた者はいなかった。

絶望だ。今、我らエルフは絶望に染まっている。


目を細め遠くを見つめる。人間たちはまだ来ていない。

木の上から見張りを行っていたリシアは軽い走ってくる音に気づき下を見た。


「リシア!長老が呼んでいるわ、見張りは私に任せて」


やや小柄で未成熟感を見せるエルフの少女が言った。


「長老が?わかった」


地面に音もなく下り、急いで集落の真ん中、長老の家に向かう。


「おお、ようきたな」


「失礼します。お呼びだと聞きました」


「うーん。ここより東の森でなにかが起きたらしい。見てきてくれんか」


呼ばれた理由に驚く。今はそんな場合じゃないはずだ。

顔に出てたのだろう。長老は、真剣な眼差しでリシアの目を見て続けた。


「何が起きたかはわからん。だが、悪い感じはせん。パッと見てパッと帰ってくるだけじゃ。それに、もしかしたら今のこの状況が変わるかもしれん」


この長老は危機感をあまり感じないタイプだが、悪に対しては信頼における。

すぐ戻ってきますと告げるとリシアは長老の家出て、東の森へ向かった。


東の森へはすぐに着いた。

最初は何も問題がないように思えたが、音に気付いた。

木を切り倒す音、遠くから石を切る音も聞こえる。


(まさか人間が?)


注意深く、足音を消し、音のするへ向かう。

木々の厚みが徐々に薄くなるとそこには拓けた大地と農園が広がっていた。

黄色い作物が風に揺られているのを、ホブゴブリンが掴み収穫していく。

ホブゴブリンが、赤い果物を大事そうにもぎ取って籠に入れていく。

収穫された作物たちは荷車に乗せられ、どこかへと運ばれていく。


(ありえない!)


ホブゴブリンは凶暴な魔物の一つだ。魔法などは一切使えないものの

オークの次に力が強いことで有名だ。

リシア、ふと思う。あの果物はおいしそうだ、と。農作業をするホブゴブリンに驚いてはいたが思考はすぐに別の方向へ切り替わった。

最近、集落防衛のため残っているせいで、食料調達に出ていない。

集落でも栽培はしているが数に限りがある。

個々に与えられる食料の数が少ないせいで最近はずっと空腹だ。

少しくらいもらえないだろうか?と思い、でも言葉が通じるかわからないし、最悪

奪えばいいか、ホブゴブリン一体くらいならなんとかなるかな?と、考え動こうとした瞬間、背筋が凍るような感覚が起きた。


「何者?」


後ろから声がした。振り向こうとするが体と顔が動かない。

手足は震え、歯がガチガチと鳴る。


「わ、わたしは、に、西のほうからき、来たんだ。す、す、すまないが、食料を分けてくれないか?」


そう言ってから後悔した。そもそもここには異常を調査しにきたはずだ。なのに、恐怖と直前まで考えていたことが先行し物乞いのようなことを言ってしまった。


「食料?残念だけど私にそれを行う権限は与えられてない。

 許可なら陛下に言って」


「へ、へいか?」


「そう、我らの主にして神の御業を使う究極の王」


「王?そのお方はどちらに?」


すると、背後の寒気は消え横に獣人が現れ、まっすぐ指を指した。


「あっちの方向。案内してあげるから付いてきて」


そう言うと歩き出し始める。リシアは慌てて獣人に付いていくのだった。

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