その35 自動改札機が挨拶する

                        

自動改札機の後ろに

今朝も立っていて

声をかけてくるのだ

オヤダマースと


〈お早うございます〉

の言葉が

紋切り型の早口なので

「親騙す」としか聞こえない

声の主は

ダブルの制服をぴしりと着て

赤地の帯に金筋の入った帽子を被っている


挨拶されれば

返さなければと思う

律義者には

爽やかでもない気分の時に

煩わしいことだ


駅長に昇進した

あんたの張り切りか

あんたに見習って

今日もしっかり働け!

というハッパか


いや

これは職務なのだ

改札機とセットになった


声をかけるのも

返すのも

生身の人間なのに


つながらず

その辺り

空しく落ちていく

挨拶の言葉


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