その36 ツムジ

                    

気の小さいツムジ*は

脚を揃えて

横倒しに寝ていても

まだ目を開けている

顔の前三十センチほどに

ボールがある

視界の裡にも

ボールがあるはず


そっと

ボールを取る

案の定

目は

俺の手の動きを追う


壁に投げつければ

こいつはきっと跳ね起き

三、四度床を空掻きしても

ボールを捕らえようとするだろう


こいつの股関節は

かくかくと鳴る


無理な動きをさせては……


俺はボールを置く

元の位置に


トイレに行って

戻ると


ツムジはボールを咥えている

誰にも渡さないと


* 愛犬の名



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