その33 「市民」について

君は普段自分を

なんと意識しているかね

夫、妻

父親、母親

息子、娘

それとも

サラリーマン、商売人、労働者

その上に〈しがない〉とか〈不甲斐ない〉とか

形容詞を付けるのは勝手だが


君は自分を

「市民」と意識することはあるかね


「市民」とは

血縁地縁の利害や興味を超えた

広い社会に関心を持ち

政府権力や大企業の判断に付和雷同せず

自分自身の意見を持って

自らが生きる社会を作り守る者であり

その権利と義務と責任を

自覚する者だ*

それは

ヨーロッパの市民革命にルーツを持つ

近代民主主義の申し子であり

理性と自由を堅持した

独立自尊の人間だ


市民革命など

経験したことのない国で

「市民」の存在の可能性が

法的にはほんの半世紀前に生じた国で

「市民」の姿など

まばらにしか見かけない国で

己の抱く人間理念の本質的な部分が

「市民」と重なる人間であることは

不幸か幸か


とは言え

やはり

言うべきなのだろう

民主主義が

人類普遍の原理である限りは


必須の課題ではないか

「市民」であることは

「市民」となることは


   


    *この「市民」の理念は基本的に日野啓三「『市民』のイメージ」による。  

   本作品はこのエッセイに触発されて書いた。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る