第11話

 

「――あ、もうこんな時間!」

 伝蔵と楽しく会話をしていたら瞬く間に時間は過ぎていた。今日は休日だが諒の予定ではこの後夕方特売のためにスーパーへ行かなくてはいけないのだ。何せ今日の特売はナスが安いのである。

「伝蔵さん、また来ますね」

 諒は慌てて立ち上がると、伝蔵は笑った。そして諒の手を優しく握った。皺々で乾燥気味の肌は少し冷たい。

「今日は来てくれてありがとう。もう時期退院できるから大丈夫だ。今度は小太郎を交えて会おうじゃないか。帰りは気をつけるんだぞ」

 そうして伝蔵と別れた諒は予定通りナスを買って帰路へとついた。

 その日の晩ご飯はナスとピーマンの味噌炒めにし、美味しく頂いたのだった。

 

 休み明け。

 諒が出社すると早い時間にも関わらずフロアは騒ついていた。

 いつもは原田と課長しか来ていない総務部も二人以外に佐々木や鈴木までも出社していた。思わず時計を確認したのはしかたがないことだ。

「あ、先輩、おはようございまーす」

 フロアの入り口に立っていた諒に気づいた鈴木が笑顔で駆け寄ってきた。

 彼女の表情を見る限り、大変な事が起こっているとは考えづらい。

「どうしたの、今日は一段と早いみたいだけど」

「あれ? 先輩知らないんですか? 昨日メール着てましたけど……」

「え、何の――」

「おおー常盤来たか」

 疑問が口から出る前に課長が話しかけてきた。彼の手には大量のファイルが抱えられている。その表情は少し申し訳なさそうだ。

「いつも出社ギリギリの連中には連絡したんだけどな。今日から出向だから。引き継ぎのために早く来なきゃいけないだろ」

「出向? 誰がです?」

 そんな話あったのかと思い出そうとしていると、石川が空の段ボールを持ってやってきた。その段ボールを見て嫌な予感が諒の頭を横切る。

「なんだ、課長まだ言ってないんですか」

「や、だってな」

「だってじゃないですよ。義務でしょ義務。……常盤も、急な話だけどな。覚悟決めろよ」

 諒の机にドンと段ボールを置いた石川は、決定的なセリフと物的証拠となる紙を渡してきた。

 その紙には、諒の出向辞令と出向場所の詳細が書かれていた――

 

 

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