16日目『超万能ライト』お題:ユニークなガジェット

『超万能ライト』



 宇宙の片隅に、昼と夜がちょうど十二時間ずつの星がありました。

 そこには魔女が住んでいて、魔法でいろいろな家具を作って楽しんでいました。

 魔女は自分の家を建て、自分の大好きな家具で彩りました。


 それとは別に、もうひとつ家を建て、特別な家具で彩りました。特別な家具たちは人間と同じように、自分で考え、話し合い、文章を書くことができます。魔女は、自分で考える家具たちに、より良い家具になるにはどうすればいいのかを、自分たちで考えてもらいたかったのです。魔女ひとりの頭では、思いつくアイデアの数にも限りがありましたからね。


 ある家具は、一生懸命考えたことをほかの家具と話し合いました。ある家具は、一生懸命考えたことを日記にまとめました。

 ですが時間が足りません。

 夜になると真っ暗になって、話し合うことも日記を書くこともできなくなってしまうからです。一日十二時間ぽっちでは物足りなかったのです。


 そこで人気になったのはライトでした。

「なぁ、ライト。今夜みんなで話し合うから、家を明るくしてくれないか」

 とのテーブルのお願いには、

「よしきた」

「ねぇ、ライト。今晩日記を書きたいから手元を明るくしてくれない?」

 との本棚のお願いにも、

「任せて」

 こんな風に、みんなを明るくすることのできるライトは夜を昼に変え、話したり書いたりできる時間をたくさん増やしてくれました。


 そんなある日、昼と夜がちょうど十二時間ずつの星に異変が訪れます。

 最初に気が付いたのは魔女でした。

「最近、どうも眠った気がしないのよね」

 魔女はいつも、暗くなると眠くなり、明るくなると目が覚める、十二時間睡眠の健康的な生活を送っていました。

 ところが近頃では、眠くなっても周囲は明るいままで、明るくなってもまだ眠いままでした。


 そこで時計に相談します。

「わたし、どこかおかしくなったのかしら」

「そうではありません。魔女様はいままで、夜の六時に眠って朝の六時に起きていました。ところが最近は、夜の七時に眠って、朝の五時に起きています」

「まあ! 睡眠時間が二時間も減ったの? どうりで眠たいはずだわ!」

 そうです。昼と夜がちょうど十二時間ずつの星は、昼が長くなり夜が短くなっていました。

 これでは、昼が十四時間で夜が十時間の星です。


 異変はとどまるところを知りません。

 魔女は眠い目をこすりながらまた時計に相談します。

「昼が十四時間で夜が十時間の生活にやっと慣れたと思ったのに、まだまだ眠いの。やっぱりわたしのどこかがおかしくなったんじゃないのかしら」

「そうではありません。魔女様はいままで、夜の七時に眠って朝の五時に起きていました。ところが最近は、夜の八時に眠って、朝の四時に起きています」

「まあ! 睡眠時間がまた二時間も減ったの? どうりで眠たいはずだわ!」

 これでは、昼が十六時間で夜が八時間の星です。

 そうです。昼がどんどん長くなり、夜がどんどん短くなっているのです。


 魔女は、周りが真っ暗でないと眠れません。

 このまま夜が短くなり続けると、睡眠時間が無くなってしまいます。

 魔女は考えました。

「外が明るいなら、自分の周りを暗くする家具を考えればいいわけね」

 そこで窓を呼び、時間になったら閉じてくれるようにお願いしました。

「了解しました、魔女様」

 夜の六時に窓がぴったりと閉じ、部屋の中が真っ暗になりました。

「これで眠れるわ」

 ところが、窓が閉じたせいで換気ができなくなり、魔女は苦しさで飛び起きました。


 魔女はさらに考えます。

「窓を開けた状態でも部屋を暗くするには……」

 そこでベッドを呼び、天蓋つきのベッドにしました。

「これでどうでしょうか、魔女様」

 天蓋から降りるカーテンが、真っ暗闇を作ってくれます。

「これで眠れるわ」

 ところが、カーテンが閉じているせいで蒸し暑くなり、魔女は暑さでまたまた飛び起きました。


 魔女はまだまだ考えます。

「天蓋つきベッドにクーラーをつけたらどうかしら」

「クーラー、合体するぞ!」

「了解だ、天蓋つきベッド!」

 ところが魔女はクーラーの冷たい風が苦手で、風邪をひいてしまいました。


 魔女は頭を悩ませました。

「窓も天蓋つきベッドもクーラーもダメ。こうなったら……」

 魔女は人気者のライトを呼びました。

「あなた、そういえばいろいろな家具の話し合いを聞いたり、日記を見たりしてきたわよね。何か、わたしがぐっすり眠れるアイデアはないかしら」

「それならこんなアイデアがありますよ、魔女様。なので魔女様、僕に新しい機能をつけてもらえませんか」

「それはいいわね。早速あなたを改造しましょう」

 アイデアは見事に成功し、魔女はまた、毎日十二時間ぐっすりと眠れるようになりました。


 それから数百年が経ちました。

 魔女はたくさんの家具たちに見守られながら息を引き取りました。

 昼と夜がちょうど十二時間ずつの星も夜が完全になくなってしまい、昼が二十四時間の星になっていました。

 昼が二十四時間になると、家具たちの話し合いや書き物はさらに活発化します。

 家具たちは目覚ましい進化を遂げ、自信もつけていました。


 そんななかただひとり、ぽつんと置いて行かれた家具がいます。

 ライトです。

 昼が二十四時間になってしまったせいで、ライトがみんなを照らす必要がなくなったのです。

 ライトはみんなから必要とされなくなり、話し合いにも参加できず、みんながどんどん前に進む一方で、何もできなくなってしまいました。


 意地悪なストーブが言います。

「久しぶりだな、ライト。ちょっと俺の周りを照らしてみろよ」

「う、うん……」

 ライトは一生懸命にストーブを照らします。ですが、元から太陽がさんさんと照らしているので何も変わりません。

「全然明るくならないぞ? もっと頑張ってみろよ」

「こ、これで手いっぱいだよ……」

「情けないな。ほら、俺が暖かくしてやる」

「あ、熱い、熱い!」

「ハハハハハハ!!!」

 ライトは火傷しながら、ストーブから逃げました。


 ライトは悲しくなりました。

 昔はみんなにあれだけ必要とされていたのに、昼が二十四時間になったせいで居場所がなくなってしまったのです。

 だからと言って太陽に文句は言えません。昼が二十四時間になったことでみんなは家具としての切磋琢磨が存分にできるようになり、文句を言っている人なんて誰ひとりいませんでした。ライト以外の家具たちは幸せだったのです。

 ライトひとりのわがままで太陽をどうにかすると、みんなを不幸にしてしまいます。それは、家具としての本文に背く行為でした。

 だから、ライトはじっと耐え続けていました。


 そんなある日です。

 昼が二十四時間になった元昼と夜がちょうど十二時間ずつの星に、また異変が起こります。

「熱い、熱い!」

 みんなの住んでいる家の屋根が、火傷をしてしまったのです。

 家具たちは真っ先に、意地悪なストーブを疑いました。ストーブは首を横に振ります。

「ま、待てよ、俺は何もしてないぞ。っていうか、どうやって屋根に火傷させるんだよ。俺はあそこまで登れないぞ」

 ストーブの言うことにも一理ありました。ストーブの体では屋根に登れませんし、かといって床にいたままでは屋根は遠すぎて火傷なんてさせられません。ストーブの疑惑は晴れました。


 みんなは悩みます。

「じゃあ、いったい誰が屋根に火傷を……」

「あちちちちちち!」

 その時です。

 家の壁も火傷を負いました。

「あっつ!」

 窓も火傷を負いました。

「確かに熱くなっている……」

 煙突は焚火に耐えられる頑丈なつくりなので火傷は負いませんでしたが、自分の体が熱くなっていることには気づいていました。


 それだけではありません。家の中にいたテーブルも本棚もベッドもクーラーもストーブでさえも、火傷になってしまいました。

「熱い熱い!」

 そこで気温計がやっと原因に思い至ったのです。

「気温がものすごく上がってる。そうだ、昼が二十四時間になって太陽がずっと出てるから、僕たちも温め続けられているんだ」


 みんな顔を真っ青にしました。

 この星の気温が延々と上がり続けたら、みんなドロドロに溶けてしまいます。

 それに、みんなは家具、この星から逃げる手段なんて持ち合わせていませんでした。

「ど、どうしよう……」

 みんなは頭を悩ませました。

 相手は太陽です。家具が太刀打ちできる相手ではありませんでした。


「ぼ、僕がやるよ!」

 声を上げたのはライトでした。みんなが一斉にライトを見つめます。疑いのこもったまなざしで。

「周囲を照らせるだけのお前に、いったい何ができるんだよ」

 当然の意見です。

 ライトは光を出すもの。太陽の光で気温が上がり続けているいま、ライトが頑張るとかえって状況が悪くなってしまいそうです。


 ですが、ライトは自信満々に胸を張りました。

 自分たちの陥っている危機が、あの時とよく似ているからです。

 そう、魔女が眠れなくなっていた時と。

 無事に魔女を寝かしつけたライトには、今度も成功するとの自信がありました。

「大丈夫、僕に任せて……熱っ!」

 家を飛び出したライトを、太陽の日差しが容赦なく襲います。

 それでもライトはひるみませんでした。


 ライトは自分の顔を太陽に向けます。

 ピカリ。

 スイッチを入れました。

 途端に、周囲はあっという間に暗くなってしまいました。

「いったい何が?」

 家具たちはあたりを見回します。あれだけ明るかったのが急に暗くなったのですから無理もありません。


「あ、でもちょっと涼しいよ」

「気温の上昇が止まりました。ちょっとずつ下がっています」

 みんなは喜びました。バンザイをしたり飛び跳ねたり各自思い思いのやり方で喜びを表現します。

 ですが、なぜ?


「なぁ、ライト。いったいどうやったんだ?」

 顔を太陽に向けたままのライトに、窓が尋ねました。

「数百年前に魔女様が、昼が長くなって眠れない、って言ってたの覚えてる?」

「覚えてるよ」

「あのとき僕は魔女様にお願いしたんだ。ライトは周りを明るくするものだけど、暗くする機能も欲しい、ってね。魔女様の周囲を暗くして眠れるようにしたんだけど、それと同じことを、あの太陽にもやってやったのさ」

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