14日目『UMA vs HUMAN season6 No.138狼男ハンター』お題:おまけのひとひねり
『UMA vs HUMAN season6 No.138狼男ハンター』
狼男。
皆さんはこの言葉に対してどんなイメージをお持ちだろうか。
ハロウィンの変装? 古いホラー映画? 満月に変身?
確かにそれらも一理ある。
だが、一流の狼男ハンターであるマックスはこう語る。
「狼男は現に存在しています。わたしたちは、狼男によって被害を被ってきた人たちを何人も助けてきました。倒してきた狼男の数も計り知れません。いまや、狼男は時代遅れのB級ホラーなどではなく、現実に存在する、害獣なのです」
UMA研究の第一人者、アーノルド・アンソンの見解はこうだ。
「一般的には、突然変異などで巨体化した狼が、狩りのしやすい満月の晩に周囲の村を襲う、というのが万人に受け入れられるであろう科学的仮説でしょう。ですが、狼男は違います。狼と人間、それぞれの身体的特徴をもつ生物を見た、という人が何人もいるのですから。科学者であれば、その証言をきっちりと検証していかなくてはなりません。わたしの仮説ですか? いますよ。狼男は」
さらに取材班が独自に接触した村人たちは、悲しみをあらわにした。
「(プライバシー保護のため音声と映像に処理を施しています)ある満月の夜でした。わたしが妻と寝ていると、娘の部屋のほうから巨大な物音がしたんです。嵐で大木が倒壊するような不吉な音です。娘の悲鳴があがって、すぐに向かったんです。娘の部屋についた時には、部屋が荒らされていて、壁に大きな穴が開いていました。娘は、娘は、連れ去られたんです……」
「(プライバシー保護のため音声と映像に処理を施しています)この村は呪われています。わたしも、夫が犠牲になりました。何も、できなかったんです」
政府や警察当局は、との質問への答えには、我々も怒りを覚えた。
「(プライバシー保護のため音声と映像に処理を施しています)こういうときに限って国は何もしてくれません。調査中、との一点張りです。わたしたちの目の前で、実際に命が奪われているというのに、国は知らんぷり。貧乏人のことなんてどうでもいいんです。金持ちさえよければ。……もう、この慣れ親しんだ村を離れるしかありません」
長年マックスとともに狼ハンターを務めてきたケニー、ロドリゴは現地に飛ぶなり、悲しみにくれる村人たちを熱く抱擁する。
「わたしたちがやっつけてきます」
「任せてください」
今宵、マックス、ケニー、ロドリゴの三人が狼男に挑む。
果たして結末やいかに!?
十二月、我々取材班は狼男ハンターの三人とともに、アラスカにほど近い雪山を歩いていた。深く降り積もった雪の上を、かんじきで慎重に歩いていく。鼻がもげそうになる寒さがクルーの体力を容赦なく奪っていくが、屈強な狼男ハンターたちはびくともしない。
「狼男は冬眠をしません。この極寒の中でも餌を求めて常に活動しています。ヘラジカや、海沿いではアザラシなどを狩ったりもしますが、体の大きさから言って厳しい戦いなのは間違いありません」
――では、冬の狼男は何を食べている?
「人間です」
「開発によって、こんな寒い山奥にも人間が住むようになりました。狼からすれば、大きさも程よくカロリーもとれる。まさに、絶好の餌なんですよ」
「おい、村が見えてきた」
我々の前方に、雪の中身を寄せ合うようにして立ち並ぶ家々が現れる。
ここが、今回の最初の目的地、オースター村(仮名)だ。
「ようこそ、狼男ハンターの皆さん。そして取材班の皆さん。我々は皆さんを歓迎いたしますよ」
「ありがとう、村長。こんな大変な時に」
「いえ。アラスカの人間は、大変な時こそ助け合います。ハンターの皆さんに願いを託しているのですよ。そして取材班の皆さん、この取材を通して、この地に起きている真実を、全国にどうか伝えていただきたい」
重要な使命を背負った我々を、村人たちは手厚くもてなしてくれた。
村の名物であるシカ肉のパイ、キイチゴのジャム、そして薬草酒が、狼男を打ち倒すガソリンになるのである。
夜、ハンターたちは装備確認を行った。現地入りした以上、いつ狼男との戦闘になるとも知れない。
ドラキュラといえばニンニク、十字架、銀製品、そういったものが弱点として思い浮かぶが、狼男の弱点とは何だろうか。
「とくにはありません」
――ない?
「例えばドラキュラは、眷属を生み出したり催眠術を操ったり、様々な特殊能力を持ち得ているからこそ、代償としての弱点も多いのです」
「一方で狼男は純粋な生物です。重機のようなパワーはありませんし、特殊能力も持っていません。せいぜい、満月の夜に変身するくらいです。しかし、純粋な生物でもクマのようなパワーがあれば人間にとっては十分に脅威となりえます。生物としての能力を極限まで高める、奴らにはそれだけでいいのです」
「我々は、文明の利器に頼りましょう」
そういいながら、遅くまで銃の手入れに没頭するハンターたちだった。
アラスカの冬の夜は長い。
翌朝早く、まだ真っ暗なうちに、我々は村を後にした。
「狼男は狼と同じく夜行性です。この時期なら、もうそろそろ活動が鈍くなる時間帯でしょう。その間に移動して、痕跡を探します。同時に、奴らの動きを探るためのテントも張らなくてはなりません」
――痕跡が見つからなければ?
「我々はプロですよ」
ロドリゴが、にやりとした。
「実はケニーは狼男と話ができるんだ。準備はいいかい、ケニー。よし、やってくれ」
ケニーは口に手を当てて大きくのけぞった。
「ワオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
アラスカの山に、ケニーの遠吠えがこだました。
「ロドリゴ、聞こえたか」
「あぁ、マックス、あっちだ」
我々取材班には何も聞こえなかったが、ハンターたちは互いに目配せをした。
「東のほうからケニー以外の遠吠えが聞こえました。間違いありません。狼男はあそこにいます」
マックスを先導に、我々は東へ向かった。
後日この音声を、音響工学の専門家ジョニー・シルバーに解析してもらった。
「驚くべきことです」
ジョニーは興奮して言った。
「まずこの波形がケニー。一方でこちらが、一般的な狼の遠吠えの波形。確かによく似ていますが、ケニーのほうが若干低音部が弱いですね。これは人間と狼の肉体構造の違いから来ています。そして、実際にとれた音声をもう少し進めてみると……ここ、うっすらと別の音がかぶっているのがわかりますか」
確かに、ケニーのこだまにかぶさるように、別の波形が姿を現している。
「この新たな波形も狼の遠吠えとよく似ていますが、低音部が弱い。これは人間の特徴です。ケニーとそっくりですね。しかし、波形が微妙に異なる。ケニーのものではない。ここから、この波形は狼でも人間でもありません。むしろケニーの声帯模写の精度には驚かされますね」
――つまり?
「狼男の遠吠えです」
東へと進むうちに、先導するマックスが次々に驚くべきものを見つける。
「カメラ! これを」
けもの道の上に奇妙な凹みがあった。森の奥へ、ぽつぽつと続いている。
「狼男の足跡です」
マックスが少数のクルーを引き連れて森に足を踏み入れる。
「あの木を見てください。不自然に皮がめくれています。きっと狼男が縄張りを主張するために背中をこすりつけたんでしょう。さらに、これ……くっせぇ、糞です。においもあるし、まだ凍っていません。おそらく、近くを通ったんでしょう」
我々は狼の専門家であるドクター・ニイヤマにこの映像を見せた。
「なるほど……糞は狼のものにしては大きい。むしろ人間のそれに近いような気がします。木に体をこすりつけるのは、狼ではあまり聞かないような気がしますね。むしろ猫に多いような。それよりもこの足跡です。確かに形は狼に近い。ですが大きさは一回り大きいように思えます。さらに、不思議な点があるんです」
ドクター・ニイヤマはホワイトボードにイラストで説明してくれた。
「普通狼は四足歩行です。なので、足跡の数も四足分ないとおかしい。ですがこの映像は明らかに少ない。わたしには、二本足で歩いているように見える」
――つまり?
「二本足の狼。狼男、と言わざるを得ないでしょう」
近くに狼男がいる。
我々はさっそくテントを張り、待ち伏せを開始した。周囲数百メートルには暗視カメラをセットし、いかなる変化も見逃さない。
「夜が更けてきました」
「ここからは、四時間交代で映像を見張りましょう」
長い夜になりそうだ。空には満月が昇り始めている。
「狼男は満月の夜に力を発揮します」
「逆を言えば、そのあとは弱っていく一方です。だから、今日待ち伏せをして明日以降を狙う。それがいいんですよ」
――普通は、最も弱い時期を狙うのでは?
「最も弱い時期はむしろ活動が鈍るんですよ。自分たちの弱点はよく知っていますからね」
なお、万が一のことも考えて、我々取材班も銃を装備している。事前の講習や訓練もこなしてきた。それらが発揮されることはないといいのだが。
しかし。
往々にして、取材班の取材における不安というものは的中するものだった。
異変は早かった。
我々が監視体制を築いてほんの五時間。狼男が活動し始める時間帯になって、さっそくビーコンが反応したのである。
「三番のカメラだ!」
「映像を切り替えろ!」
だが映っていたのはシカだった。真夜中の雪山を悠々と闊歩している。不気味にきらめく二つの光も、シカの瞳だと思えば愛らしく感じるから不思議だ。
テントの中に再びリラックスした空気が流れ始めたころ。
ビービービービービー!!!
再びビーコンがけたたましくなった。
「どこ!」
「また三番!」
「シカじゃないのか」
「いや、違う、見ろ!」
先ほどのシカが、突如走り出し、そのあとを全く別の影が走り抜けた。
「今のところ巻き戻して」
撮影クルーが機材を操作する。ゆっくりと後ろ向きに進む影。
「一旦停止」
画面に映し出されたのは、人影に見えた。だが、どう見ても頭部は狼である。
「狼男だ……」
全員が生唾を飲み込んだに違いない。
だが、その暇はなかった。
ビービービービービー!!!
ビービービービービー!!!
ビービービービービー!!!
「どうした!」
「五番、九番、十三番のビーコンです」
「順番になったのか……?」
「まずい、奴が近づいてくるぞ!」
そう。ビーコンの設置位置を見てみると、三番、五番、九番、十三番はほぼ一直線に配置されていた。いかも、外側から内側に向かって。内側にあるのはもちろん、取材班のテントである。
「寝ている奴らを起こせ!」
「銃を構えろ!」
緊張感が走り、怒号が飛ぶ。手の空いたものはすぐさま銃を構え、十三番ビーコンの方角へ銃口を構える。
一瞬の静寂。
運が悪かった。この期に及んで、満月は雲に隠れていた。
完全な暗闇。
直後。
パキパキパキ! ミシミシミシィッ!
木が一斉に折れる乾いた音。
「来たぞ、撃て!」
ケニーとロドリゴが、交互に散弾銃を放つ。取材班もピストルで援護する。
マズルフラッシュが一瞬の影を浮かび上がらせた。
人影、狼の頭。
「いるぞ!」
「撃て! 撃て! 村の仇だ!」
狼男はテントのひとつに飛び込んだ。
「まずい、マックスが!」
「おい、マックス!」
「やめろ、撃つんじゃない! マックスに当たる!」
「照明は何をやってるんだ!」
暗闇の中、マックスのテントからもみ合うような激しい音だけが響く。
「くっ! 俺なら大丈夫だ!」
「マックス!」
「いいから撃て! 俺は下にいる! このチャンスを逃すな!」
「マックスー!!!」
ケニーとロドリゴがピストルに持ち替えて撃ちまくった。マズルフラッシュが、ボロボロになっていくテントと、テントの中で戦うマックスたちの影を浮かび上がらせる。もはや肉弾戦が激しいためにどちらがマックスでどちらが狼男なのか、取材班には判別できない。だが、ケニーとロドリゴは撃ちまくった。狼男ハンターのきずなは深かった。
「グウルルルルル……ワオー!」
と、テントが倒れる音を残して、狼男が逃げ出していった。
「あの野郎……」
「待て、ケニー」
ようやく照明班の照明が、マックスのテントを照らした。無残に倒壊してしまったテントから、全身血だらけのマックスがはい出てきた。
「お、おい、マックス、大丈夫なのかよ……」
「安心しろ。俺の血じゃない。狼男の血だ」
マックスがタオルで全身をぬぐうと、確かに彼は擦り傷程度で済んでいたようだ。真っ赤に染まったタオルを慎重にビニールに詰めながら続ける。
「あいつは大けがを負った。奴の後は血痕をたどればいい。それに、そう遠くまでは逃げられないだろうしな」
我々の勝利を予感させるかのように、雲が晴れ、満月が我々を照らした。
翌朝、空が白み始めるのを待って我々は狼男の追跡に乗り出した。
真っ白な雪の上に糸を引くような赤いしみ、そして足跡。
「歩幅が不規則だな。だいぶ体力を消耗したらしい」
十分ほど歩くと、不自然な洞穴を見つけた。成人男性がかがんでやっと入れるくらいの大きさだ。
「ここが巣穴らしいな。いつものをやるぞ」
狼男ハンターたちは、慣れた手つきで洞窟の入り口に鉄格子をセットし、隙間から発煙弾を投げ入れた。
「こうやって中の狼男をあぶりだすんです。ほら、来た」
グルルルルルルル……。
苦しそうなうめき声が近づいてくる。
「よし、撃て」
ロドリゴが散弾銃を発砲。
次いで、キャン、という犬特有の短い鳴き声、どさりと何かが倒れる音。
「このまま、煙がなくなるまで待ちましょう。完全に死んだのを確認するんです」
煙が完全に晴れるまで、二十分を要した。その間、異変はもうなかった。
「よし、引っ張り上げろ。気をつけろよ、まだ生きてるとも限らない」
そうしてマックスが穴から引きずり出した死体は、我々の想像を絶していた。
下半身と頭が狼、上半身は狼の毛皮をまとった人間。全身に銃弾を受け血に染まっていたが、まさしく狼男の死骸だった。
取材はさらに続き、狼男の巣穴に、ライト付きの内視鏡カメラを挿入、内部の撮影を試みた。
世界初、これが狼男の巣穴である。
全長は五メートル、高さは一メートルと少し。岩肌についているのは狼男の毛だろう。これで保温性を高めていたとみられる。巣穴の奥には無数の骨。シカの頭骨や、人間の頭骨とみられるものも発見された。
「おそらく、村の人たちでしょう。犠牲者のために祈りを……」
我々は、皆で十字架を切り、死者の冥福を祈る。
このような悲惨なことを根絶させるためにも、我々『UMA vs HUMAN』取材班は、これからもUMAハンターとともにこの世の真実を暴いていく。
次回の『UMA vs HUMAN season6』は、No.139サンドワームハンターをお送りいたします。お楽しみに。
後日。
我々取材班に興味深い手紙が届いた。
以下、抜粋をしよう。
――番組途中、テント内でマックス氏と狼男が格闘戦を繰り広げている中、マズルフラッシュで浮かび上がった影が一瞬だけ、両者とも狼の頭をしているように見えます。検証をよろしくお願いします。
該当箇所の映像を一フレームずつ確認していった結果、確かに指摘されているような部分を複数発見した。
マックスが狼男ということなのだろうか。確かに狼男は満月の夜に変身するともいわれている。
一方で、ケニーの遠吠えの精度や、弱点を突く自身にも違和感を覚える。『自分たちの弱点はよく知っていますからね』の自分たち、とはいったい誰を指しているのだろうか。
後日、マックスたちに接触を試みたが、あいにく通じなかった。
狼男ハンターというのは仮の姿で、映像中の戦いはすべて、狼男同士の縄張り争いだった、とでも、言うのだろうか。
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