9日目『アンとムーンのUFOレイディオ』お題:会話

『アンとムーンのUFOレイディオ』



「はいどうもー、宇宙一かわいい惑星侵略型Vtuber、衛利アンでーす」

「はいどうもー、宇宙一強い自立防衛衛星型Vtuber、ビッグ・ムーンでーす」

「アンとムーンのUFOレイディオ、今週もはじまりましたー」

「この放送では皆さんからいただいた、宇宙、天体、星空、侵略者、星外生命体などなどに関するみなさんからのお便りを、わたしたちふたりで徹底検証していきます」

「それではさっそく本日のふつおたー。UFOネーム早すぎた海藻さんからです。アンちゃんムーちゃんこんにちは。こんにちはー」

「こんにちはー」

「僕は先日、念願だった天体望遠鏡をついに購入しました。反射式のそこそこ大きいやつで、スマホに連動してお目当ての天体が追尾できる代物です」

「おー、すごいじゃん」

「それもこれも、アンちゃんのおかげです。え、わたし?」

「なんでアンなんよ、わたしは違うんかよ」

「待ちなさい待ちなさい、続きが書いてあるから。えーと、アンちゃんが日々、ひたむきに宇宙人やUFOの到来を訴え、ムーちゃんにぼろくそに論破されてもそれでもなお存在を信じる姿に感動し、ぜひともUFOを自分で発見して、アンちゃんの力になりたいと思い購入しました。どうか応援してください。発見した際にはいちばんにアンちゃんにメッセージを送ります。これからもラジオ頑張ってください。とのことです。海藻さんありがとー、めっちゃ嬉しい! わかってるじゃん、自分でUFOを発見するなんて」

「いやいやいやいや」

「家でうだうだ管巻いてとりあえず否定しとけばいっしょって思ってるどこかの防衛衛星とは大違いだわ」

「待て待て待て。違う。ちーがーう、ちゃう!」

「何が違うんさ、大事なリスナーさんだよ」

「それはそうだよ。あ、海藻さんお便りありがとうね。じゃなくて、望遠鏡でUFOなんて無理だから」

「あーはいはいまた始まったよこれ」

「じゃあ聞くけど、そもそもUFOを見つける際に大事なのは?」

「えーっと、夜空を見上げること!」

「んなのは前提の話だ! ほか!」

「えーと、お祈り?」

「うう……」

「チャネリング?」

「うがー! 違う! よくそんなんで侵略者やってんな!」

「そもそも侵略者は発見されるほうだし」

「うっさいわ。いい、海藻さん? まずこういうのは見間違いしかないの。まずは流れ星、それから人工衛星。これが99%」

「じゃあ1%が宇宙人!?」

「んなわけあるか。その1%も、飛行機、未登録の衛星、たまたま流れてきた気球やバルーン、望遠鏡のレンズの傷やほこりや何かの反射。最近はドローンなんかもあるし、山の向こうを走ってる自動車の光を見間違えたって例もある。もし海藻さんが海の近くに住んでたら、イカ釣り漁船のライトなんかも間違える対象になるわな」

「海藻だから海の中じゃない?」

「うっさいわ」

「もー、これだからムーちゃんはロマンがないって言われてるんだよー。ほら、UFO肯定派のスパチャすごいことになってるよ」

「否定派もスパチャ投げてくれてるんだけど」

「素敵じゃない、望遠鏡で毎日夜空を眺めて、わたしのためにUFOを探してくれるなんて」

「わたしの立場はどうなるんだよ」

「海藻さん、頑張ってUFO探してねー」

「UFO探しがしんどくなったら素直に天体観測に目覚めてほしい。そっちもそっちで素晴らしいものだから」

「というわけで今日のふつおたでした」

「では続きまして、メインコーナー。本日の徹底検証!」

「このコーナーでは、リスナーの皆さんから寄せられた不思議なUFO体験、宇宙人体験などをわたしたちで徹底検証していきたいと思います。ねぇねぇムーちゃん」

「ん?」

「今日のお便りはすごいんだよね」

「いや、まぁ、凝ってるといえば凝ってるか。わたしにはただの作り話か勘違いにしか思えないけど」

「ちょっとちょっと、それはそれでせっかく頑張って書いてくれた人に申し訳ないから!」

「うーん、でもなぁ、うそはなぁ……」

「はいはいはい、おたより行きます! UFOネーム、田中太郎さんからです。おたよりありがとー」

「ありがとー。やけにシンプルな名前だな。っていうか昔そんな名前の宇宙人漫画があったよな」

「ムーちゃん何歳! ってスパチャめっちゃ来てるよ」

「あーやめろやめろ、わたしは開発されてまだ2年だから2歳だ!」

「えー」

「その声をやめろ、お便り、早く!」

「あーはいはい、続き読みますね。えーと、初めてお便りします。当方、田中太郎と申します――


 ちょうどいいペンネームが思い浮かばず、かといって凝ったペンネームも、思考統計から分析されて足がつくとまずいので、つまらないペンネームかと思わせてしまったら申し訳ございます。

 それだけ、わたしの状況が差し迫っているのだとご理解ください。

 ことの起こりは、ちょうど夏にさかのぼります。

 当時、ちょうど彼女と別れたところで、言葉を選べば、非常にさみしい夜を送っておりました。かといってその手のお店に行くお金もない。いい女性を紹介してくれないか、と連日大学の知り合いに愚痴っては、合コンなどに足しげく通っていました。

 そんなある日、わたしは友人からひとりの女性を紹介されます。彼女のことは仮にKとしておきます。Kはとてつもない美人で、スタイルもよく、当方は喜んでその紹介に応じました。ただ、ひとつだけ疑問があり、紹介してくれた友人にどうしてお前はKを狙わないんだ、とたずねたところ、はぐらかされてしまいました。まぁ美人と付き合えるなら多少のことには目をつぶり、当方とKの関係は始まりました。

 思ったよりも当初の関係はうまくいきました。精神的にも肉体的にも相性が良かったんです。時折Kは遠くを見ながら何かつぶやくようなしぐさをしたりしますが、美人がやるならそれも絵になるし、と気にしていませんでした。

 一か月たって二か月たっても二人の関係は良好でした。

 ところが、そのあたりから当方の体調が急激に悪くなりました。全身の倦怠感、疲れが抜けない、食べても食べても満腹感が得られない、そのくせ太ったりしない。真っ先に糖尿病を疑いました。

 そのことをKに相談すると、Kはまた、遠くを見ながらつぶやくようなしぐさをした後に、この薬を使って、と当方に錠剤を差し出してきました。当時はKを信頼していましたから、何の疑いもなくその錠剤を飲みました。すると、ものすごい冷や汗が出て、急に気持ち悪くなり、当方はすぐに気を失ってしまいました。

 次に目覚めたとき、当方は手術台のようなものの上に寝かされていました。強いライトに照らされて、全身裸、視界もぼんやりしていましたが、下腹部をくすぐられていることだけはわかりました。どうにか顔を上げると、Kが当方の下腹部を触っています。こんな時くらい我慢してくれよ、と思いましたが、麻酔を打たれたようなあいまいな感覚の中、ジワリと広がる解放感に身をゆだねたまま、当方はまた眠ってしまいました。

 それからというもの、気分が悪くなってはKに薬をもらい、という生活が二か月ほど続きました。

 ことが動いたのは一週間ほど前です。

 久しぶりに体調がよかった当方はKといっしょに、Kの行きたがっていた山奥の温泉に旅行に行きました。温泉に入り、食事もとり、やることもやって眠りにつきました。

 ところが、ふと物音に目覚めると、妙に部屋が明るい。

 隣で寝ていたはずのKもいないし、と思って体を起こすと、部屋の奥、あの旅館の部屋によくある窓際のスペースで、Kらしき人物が窓を向いて立っていました。

 どうしてKらしき人物と書いたかというと、体格や髪の長さはKと一緒でした。でも、頭が真っ二つに割れて、中で何かがうごめいていたんです。窓の向こうには謎の発光物体が浮いていました。Kらしき人物の影が振り返ったのがわかりましたが、当方は途端に怖くなって、そこら辺にある荷物を適当に持って逃げだしてしまいました。

 真っ暗な旅館を走ってエントランスから飛び出し、自分の車に飛び乗って、もうKのことなんか忘れて走り出しました。追いかけてくるものもなく、連絡も一切来ませんでした。

 ただ、家に帰ると誰かがやってくるかもしれない。そんな不安から、インターネットカフェでの宿泊を決めました。手元を見ると、わたしが逃げる際にとっさに持ち出したのはKのバッグのようでした。財布にはそれなりの資金があり、体調不良のたびにもらっていた薬もありました。これで当分はしのげる、今後どうするか、インターネットカフェの中で考えましたが、結局は何も思い浮かびませんでした。

 そしてとうとう、このお便りを書いている前日、あのひどい倦怠感が来ました。

 わたしは、頭の割れたKらしき人物の後ろ姿と謎の発光物を思い浮かべましたが、我慢できずに、バッグに入っていた薬を飲みました。

 目覚めたのは、このお便りを書いている4時間ほど前でした。

 下半身に違和感を覚えました。

 それに、ものすごく酸っぱいような異臭もしました。

 下着がこんもりと膨れて、ぐっしょりと濡れていました。

 やれ大学生にもなっておもらしか、と思いましたが、やけに下着の中に固い感触を覚えました。とがったものというか、どうやらこれはただのおもらしではないぞ、と思いました。

 ベルトを下すと、緑色の粘液が太ももにこびりついていました。

 そして下着の中をのぞくと。

 そこにあったのは、まるで生まれる直前の鳥のような、大きな頭、嘴、人間とは明らかに構造の違う四肢の骨、緑黒い生物じみた何かでした。

 おふたりは、あのKの正体を何だと思いますか。

 そして、下着のなかにあったのは何だと思いますか。

 当方は宇宙人だと考えています。そのため、お二人のご意見を伺おうとお便り差し上げた次第です。


 ――長文失礼いたしました」

「はー、いや、ほんと長文だったね」

「わかったよ、ムーちゃん! これは間違いなく宇宙人だよ!」

「はぁ……」

「そのKって人が宇宙人で、この田中太郎さんに子供を産み付けてたんだよ、エロ同人みたいに!」

「いやいやあり得ないって。じゃあKを紹介した友人は何だったんだよ」

「その人も宇宙人だね。あるいは、人間だけど田中さんと同じく子供を産ませられてKに逆らえなくなったんだよ、エロ同人みたいに!」

「で、旅館で見た発行物体はUFOってか」

「ムーちゃんもよくわかってきたじゃない。時折遠くを見てたのは母船と交信してたんだろうね。いやいや、これはもう宇宙人で決まりだよ。田中さん、もしまだご無事だったら今すぐ警察に……いや、NASAに連絡を取ってください」

「やめろやめろ、NASAに迷惑をかけるな」

「えー、だって宇宙人の子供を孕むなんて一大事じゃない」

「そんなの作り話にきまってるだろ。まぁ、努力賞だとは思うけど。そもそもだ。Kはどうやって田中さんに子供を産み付けた。田中さんは男みたいだけど、男の体のどこに、宇宙人の赤ん坊を身ごもるスペースがあるんだ」

「それは宇宙人の神秘のテクノロジーとかで何とでもなるんじゃないの」

「いやいやあり得ないって、そんなことをする暇がいつあったんだよ。っていうか、それだけのテクノロジーがあったら、わざわざ人間に子供を産ませるなんて回りくどいことしなくてもいいんじゃないのか? レーザー一発撃てば終わりだろ」

「いやいや、宇宙人が人間のDNAを取り込んでさらに進化するためなんだよ」

「人間のDNAにそこまでの価値ってあるのか……?」

「でもわたし、わかるんだよ」

「何が」

「宇宙人はきっとこんな感じで地球に侵略してきてるんだって。とにかくものすごい方法で人間の体を改造して、人間に化けて接触してきて、子供を産ませるって。きっともう、各国の中枢は半分くらい宇宙人がのっとってるんだよ。そういえばこの前もさ、どこかの国のお偉いさんが消化器の病気で退陣したでしょ? あれもきっと宇宙人の仕業にちがッ――」

「……ん? おーい、アン? アーン。おーい……って音声切れてるなぁ。いやいや、せっかく話の途中なのにリスナーの皆には申し訳ない。ちょっとアンの復帰までわたしひとりでつなぐしかないな。そのまえに………………っと、アンにディスコ送っといたから、まぁ何とかなるでしょう。お、早いな。って、あらら。なんか復帰まで時間かかるっぽいからあれやっといてって言われたよ。マジかよわたしひとりでやるのかよ。まー、いいか、リスナーの皆、申し訳ない。本当はふたりで発表したかったんだがこういう状況だからひとりでやるわ。実はこのたび、わたくしビッグ・ムーン、相方の衛利アンといっしょにオリジナル楽曲を出すことになりました。協力してくれた人たちの名前は後で出すとして、とりあえず今は聞いてほしい。衛利アンとビッグ・ムーンで、『絶対宇宙大戦争』!!!」


「いやー、どうだったどうだった、『絶対宇宙大戦争』。めっちゃかっこよくない? 自画自賛だけどさ。いやー、作曲を手掛けてくださった――あ、ごめん、話の途中だけどアンが復活したみたい。おーい、アーン」

「あー、ごめんごめん、いきなりでちょっと手間取っちゃったよ」

「どうしたんだよ、珍しいな」

「なんでもないなんでもない」

「ん、なんか喉の調子大丈夫か?」

「PCの再起動してる間に生姜湯飲んじゃって、思ったよりも辛かった」

「何やってるんだよ」

「それでさ、さっきの田中さんのおたよりだけど」

「お、おう」

「やっぱさ、どう考えても変なのかなーって」

「……お?」

「うん、やっぱりムーちゃんの言うとおりだよ。人間に子供を産ませるなんて回りくどいこと宇宙人がやるわけないもんね」

「いやー、ついにアンもわかってくれたか。そうなんだよ、地球には宇宙人がわざわざ侵略するほどの価値はないんだって」

「うん、そうだね。宇宙人の侵略なんてありえないよ」

「……なぁ、アン、ほんとに大丈夫か」

「喉? うん、大丈夫だよ」

「いや、あー、んん……なぁ、野暮なこと聞くんだが、わたしの本当の年齢、言ってみ?」

「……………………」

「おい、アン? アン? おーい、何やってるんだよ。アン、おい? あ、通話切りやがった、何やってるんだよ、おい!」

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