第7話メイド服パニック

●メイド服パニック


 放課後、相変わらず氷は校門で待っていた。


 もはや、慣れた光景だった。


「結城さん、この間は傘をありがとうございます」


 コートを着こんだ氷は、結城にぺこりと頭を下げる。


「傘をお返しします」


「おう」


 結城は、氷から傘を受け取った。


「それで、今度デートしていただけませんか?」


 氷の言葉に、結城は顔を曇らせる。

 

 小学生とデートなど狂気の沙汰である。だが、氷は嬉しそうに微笑んでいた。その笑顔は、花が恥じらうほどに可愛らしい。だが、結城はロリコンではない。


「俺はロリコンじゃねぇ」


 結城は小さく呟いた。


「あのな、八歳も歳の差があるんだぞ。そんな相手とデートなんかするな。同じ学年の男子でも誘ってやれ」


 結城の言葉に、氷は首を振った。


「結城さんが良いんです。デートの相手は……」


 えへへへ、と氷がおかしな笑い声をあげる。


「今回は、結城さんが思わずデートを了承しちゃうような服を着てきたんですよ」


 じゃじゃーん、と言いながら氷は着ていたコートを脱ぎ捨てた。


 氷は、メイド服を着ていた。


ドン・キホーテで買えるような安っぽい生地が、氷の動きに合わせて艶めかしく光を反射する。白いエプロンもワンピースの上についているが、防寒の意味は全くなしていない。そもそも防寒用ですらない。


「コートを着ろ!!」


 風邪をひくぞ、と氷は叫ぶ。


「えへへへ、デートしてください。ご主人様」


 語尾にハートマークでもついているかのような甘い声。


 その声に付属されているのは、メイド姿の小学生だ。


 結城は恐れた。


 自分の社会的な死を。


「するから。してやるから、コートを着ろ!!」


 小学生がメイド服を着てデートをねだるなんて光景を見られたら、また滅茶苦茶な噂を立てられる。そういう危惧からの言葉だった。


「本当ですね、結城さん!」


 氷は、結城に向かって微笑んだ。


「氷さん、この格好ドキドキしますか?」


 氷は、エプロンスカートの裾をちらりとめくりあげる。白い健康的な太ももが露になったが、結城はげんなりした。


「ハラハラするわ!」


 おとなしくコートを着た氷は、結城の腕に抱き着く。


 それを結城は振りほどく。


「それ以上は近づくなよ」


「もう、怪獣みたいに扱わないでくださいよ」


 氷は、頬を膨らませた。


 その様は、ひどく可愛らしい。


「そうだ。ラッコさんを見に行きましょう」


 水族館で、と氷は提案した。

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