第5話あなたに傘を差しだしたから

●あなたに傘を差しだしたから


「結城、カッコいいね」


 校舎では、勇が待っていた。


 うるさい、と結城は勇を睨む。


「小学生が傘を忘れてたら、貸すだろ。顔をしらないってわけじゃないんだし」


「うーん……そうかもね」


 だが、迷惑がっている相手にもそうするだろうか、と勇は考える。


 きっとこういうのをお人よしと言うのだろう、と勇は思った。


「ところで、君は傘がなくなったけど……これからどうするんだい?」


 勇が尋ねると、結城は「走って帰るさ」と言った。


「先輩!」


壱の弾んだ声。


「格好良かったですよ。はい、これ」


壱が差し出したのは、折り畳みの傘である。


「私、大きいのを持っているので。そっちをお貸ししますよ」


 壱の言葉に、結城は助かったと思った。


 だが、壱の傘に手を伸ばしたのは結城だけではなかった。


「俺も忘れたんだよな」


 勇もだった。


結局、二人であいあい傘をして帰ることになった。翌日には、噂の三角関係に勇も追加されたが、もうどうにでもなれと結城は思うようになっていた。

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