第2話初チュー
●初チュー
結城は、その告白に混乱した。
そして、思わず友人の悪戯ではないかと周囲の人間を探し始めた。だが、周囲の人々は氷の告白をほほえましく見ているばかりで勇気をあざ笑っているような人間は一人もいなかった。おそらくは、悪戯ではないだろう。こんなに手を込んだ悪戯をやるような人間が自分の知り合いにいるとは思えない。
「おい、自分が何を言っているのか分かっているのか?」
結城はいら立ちのあまり、髪をかきむしりながら訪ねる。
そんな結城とは反対に、氷は真摯な瞳で答えた。だが、その顔は幸せそうなものでもあった。
「はい。私は、将来は結城さんのお嫁さんになります」
氷は、魅力的な笑顔で答える。
告白してきた氷は、美しい少女だった。
まっすぐな黒髪に、白い肌。大きな瞳は愛らしいが、どことなく賢そうな雰囲気を感じる。ちょっとばかり大人びた少女は、結城という年上の少年の必死のラブコールをぶつける。
「ずっと、ずっと、好きです。だから、お嫁さんにしてください」
結城は小学校三年生って何歳だっけ、と考えた。
小学校入学が、七歳。二年生が八歳。三年生が九歳である。一方で結城は、高校二年生で十七歳。八歳も歳が違う。冷静に考えれば考えるほどに、八歳の歳の差は驚愕的なものに思われた。
ロリコン、という言葉が頭のなかに浮かぶ。
「八歳も歳が違うんだぞ……!俺はロリコンじゃねぇ」
桃栗三年柿八年ともいうので、柿の実が実るぐらいには歳が離れていることになる。結城は少女の正気を疑った。そんな八歳も年が離れた人間に告白をするなど正気の沙汰ではない。
「知ってますよ。歳の差夫婦でもいいじゃないですか」
氷は夢見るように、将来を語る。
その表情があんまり幸せそうなので、結城はぞっとした。彼女は本気で、結城のことが好きなのだ。だが、結城は残念ながらロリコンではない。
「繰り返すが、俺はロリコンじゃねぇ」
結城は、頭を抱えた。
そして、どうすれば氷が帰ってくれるかを考えた。
「あのな。子供が、大人をからかうんじゃない。第一、俺とお前は初対面だろうが」
結城は、もう一度氷の容姿を見る。美しい黒髪に毛ぶるまつ毛。白い肌は、白磁のようであった。だが、目の前の少女と出会った記憶は全くない。
結城の言葉に、氷は頬を膨らませた。
そして、大声で結城の言葉を否定する。
「違います!!」
その大声で結城が驚くと、氷は結城をにらみつける。
「私たちは、会ってます。それに、私は結城さんをからかってなんていません」
氷はそういうが、結城には言葉の意味がよく分からなかった。小学生と接点ができるようなイベントごとには参加した覚えはないし、氷の言動は結城をからかっているようにしか思えない。
「信じていませんね」
氷は、眼に涙をためた。
泣いてしまう、と結城は慌てふためく。
この場で氷が泣いてしまったら、どうみても結城が泣かせたように思われてしまう。そんなふうに思われてしまうのは嫌であった。
「おい、泣くなって」
結城は、慌てふためきながらも少女をなだめた。
「子ども扱いして……仕方ありません。結城さん、屈んでください」
いまだに涙目の氷に屈むように言われて、結城は仕方がなく氷と視線を合わせた。泣かれるよりはましだと思ったのである。
二人の視線がかみ合うと、結城は氷が妙なる美人であることをありありと実感した。
幼い輪郭は丸く、唇は薄い。影を落とすまつ毛は長かった。その美しい顔が、徐々に結城に近づいてくる。
気が付けば、結城はキスをされていた。
校庭にいた生徒たちが一斉に「きゃー!!」という悲鳴を上げていた。
結城の頭が、真っ白になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます