三十三 encore
私と夜鷹さんを乗せた車は駅のロータリーへと戻り、ナツさんが途中まで見送ってくれた。
「もう会うことは無いと思うけど、どうか元気でねえ」
「ナツさんも、お元気で」
夜鷹さんが頭を下げると、彼女は車に戻り今度は街の方へと向かっていった。
「さっき言いそびれちゃったけど、夜鷹さん、これで本当にお別れになっちゃうんですね」
ああ、と思い出した風に彼は髪をかきあげ、
「でも君の地元の近くに来たら、連絡するよ。電話番号は教えて貰ってるからね」
「絶対ですよ。忘れないでくださいね」
軽く笑ったあと、彼は、
「うん、忘れないよ。お土産持って行くから、楽しみにしてて」
と私に右手を差し出した。その手を握り、固く握手する。
「夜鷹さん」
「ん?」
何故だかはわからないけど、口から勝手に言葉が零れていた。
「あの村の皆、夜鷹さんの話や言葉に救われてた。事実、私もそうだった。もちろん、ゆいもです」
「そんなこと言ったかな、はは。でも、そう言ってくれて嬉しいよ」
「私自身、夜鷹さんに嘘と真実の話をされなかったら、ずっと嘘嫌いの頭でっかちになってたと思う。夜鷹さんは私を根底から変えてくれた」
「……」
夜鷹さんは黙って私の話を聞いていた。
「夜鷹さんが言っていた、私が嘘の本質を理解し過ぎて真実を疎かにしてたって話。考えもつかなかったことを、夜鷹さんは教えてくれた。本当に感謝してる」
「そんな、大層なことは言ってないよ」
「でも、現に私は救われた。ゆいの最後の願いを果たせたのだって、夜鷹さんのお陰。感謝してもしきれない」
そこで一旦言葉を切り、私は声を大にして言った。
「もし、次私と会うことがあったら!付き合ってくれませんか!」
夜鷹さんは面食らった顔をしていたけど、すぐにいつもの柔和な表情に戻り、
「うん、いいよ。もちろん」
と言った。
「本当ですか?嘘ついてないですか?」
「この後に及んで嘘はつかないよ」
そう言って夜鷹さんは、くるりと背を向け駅の構内へと入って行った。
「じゃあ僕はそちらとは逆方面に行くから、また」
「はい、また」
財布を取りだした夜鷹さんのポケットから何か落ちたのが見えたけど、そのままその場で背中を見送った。私も帰ろうと思い階段を登ると、紙切れが落ちていた。それは夜鷹さんがポケットから落とした、私の携帯の番号が書かれていたメモ用紙だった。
「……うそつき」
電車に乗り込んでこちらを見ながら笑顔で手を振る一番の大嘘つきに、私はそっぽを向いてやった。
了
嘘憑きの村 独鷲田無 @davisdesu
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